俺の顔イケメンだったらなぁ…
差別的なことは書いていないつもりですが、賛否両論あるかもしれません。
時刻は午後1時を回ったところ。
とある喫茶店で、2人の男女が話していた。
「なー、優子」そう呼ぶのは大学生の山中海斗。20歳。彼女無し――ちなみに今も昔もである。
「なに?」優子と呼ばれた女性が同じ大学の同級生で、幼馴染の近藤優子。
優子は海斗と小さいころからの付き合いのためか、彼の言おうとしていることは大方予想がついていた。
おそらくどうでもいい話である。
「なんで俺ってイケメンじゃないのかな...」
やっぱりか。
「…突然そんなこと言われても知るわけないじゃん」
予想通りどうでもいい話だったが、幼馴染なので聞いてあげることにした。
そんな優子の気持ちなど察することもなく、海斗は話を続ける。
「俺さ、彼女って自動的になんかできるようになるんだと思ってたんだ」
「ふーん…」
「高校の文化祭での急接近。部活で頑張る姿にドキッとする。そういうイベントがたくさん訪れると思ってたんだ……」
「……で?」
「俺は入学した時から間違ってたんだ」
「例えば?」
「まず、入学したのが男子高校だった」
「バカなの?」
ていうか入学した時に気付いたのかよ!
受験前から気づいとけよ!
そんなことを思うが、話の腰を折らないためにあえて突っ込むのはやめた。
海斗は続ける。
「高校は失敗したけどさ、それでも楽しかったし、いい思い出だったんだよ。
だから、大学に期待することにしたんだ」
「そうなんだ」
「だがしかし!」
まだなんかあるのかよ。と思ったが口には出さなかった。
「男子高校で3年ほぼ女子という女子と接触しなかったら、もう女子との接し方がわかんないんだよ! というか久しぶりの女子だったから見る人見る人全員美人に見えるんだよ!」
「まー...言いたいことはわかるわ」
「大体よぉ…大学生になって1か月も経ってないのにどうやって付き合ったんだよアイツらよぉ…」
「誰よアイツらって」
「陽キャたちだよ」
「陽キャかよ」
「これ男も女もだけどさ、いい女・いい男から恋人ができていくわけじゃん?」
「……」
「てことはもう3か月くらい経ったら男も女もそんなよくない奴が残っていくんじゃね?」
「……」
「もう最初の1か月で付き合えなかった俺はもう――」
バンっ!
そのとき、優子は机を思い切り叩いた。
突然の音にビクッ!となる海斗。
周りに人がいなかったのが幸いだ。
海斗は優子を見ると、目を閉じて手を前に突き出し、机を叩いたポーズのまま静止していた。
そしてゆっくりと目を開き、静かな声で話し出した。
「――海斗」
「は、はい!」
「お前に説いてやろう」
「……へ?」
「この世にブサイクな女も男もいないんだよ」
「ど、どういうことですか?」
「世間一般的に、確かにブスといじられる人間はいる。
でも! 一般的に見て多いっていうだけで、誰かにとってはその人のことをイケメンや可愛いと思う人はいるんだよ」
「そ、そんなの幻想だ!」
「じゃあ海斗、アンタ――」
「アダルトサイトでこのジャンル要らないと思ったことあるか?」
「!?」
「アダルトサイトにたくさんジャンルあるだろ?
巨乳、貧乳、黒髪、金髪、アジア人、欧米人、黒人、白人、レズ、ゲイ、トランスジェンダー。たくさんあるだろ?
そのアダルトサイトで喧嘩してるやつを見たことがあるか?」
「い、いない」
「そうでしょ? 恋人の好みってのは、簡単に言ってしまえば”性的指向”よ。
その人がどんなのを見ているかでその人の好みは丸わかり。
色んな好みの人間がいるからアダルトサイトはたくさんのジャンルを兼ね備える。
その中には顔が整っていない人が好きという人たちもいるんだから、人間は顔じゃないのよ」
海斗は何も言えなかった。
反論の余地もないほどに、その言葉をそのまま受け入れるだけの説得力はそこにはあった。
「海斗」
「――はい」
「恋、そしてエロは、この世界で唯一戦争が起こらない”楽園”なのよ」
「――!」
「恋に、壁なんてないの。この世には、そのままの貴方を愛してくれる人がいるのよ!」
「――はい! 先生!」
「元気になったようね? お礼はここの代金でいいわよ」
「わかりました!」
そうして海斗はお会計を払いに行った。
そんな彼を見て優子は、ちょろいな。と思った。
***
喫茶店を出て、2人は大学まで歩いていた。
海斗は何の気なしに訊いた。
「てかさ優子」
「なに?」
「俺を好きになってくれる子ってどんな子かな?」
「さぁ?」
「結局それ70億人の中から探すってことだろ? まじで出会えたら一生分の運使ったことになるな」
ハハッと笑いながら言う海斗に、優子は真顔で答えた。
「あら、じゃあ海斗にはもう不幸しかやってこないのね」
「え? なんで?」
「だって――」
優子は海斗の顔を見て
「ここにいるじゃない。海斗のことを愛してくれる女の子が」
笑顔でそう言うと、優子は再び歩き出した。
海斗は驚きのあまり固まってしまうが、すぐに意識を戻して前を歩く優子を走って追いかけた。
「ちょ、ちょっ! ゆう――」
名前を呼ぼうとして気付いた。
優子の耳は真っ赤になっていた。
海斗は優子と幼馴染である。
そのため、優子のことは誰より知っている。
耳が赤くなっている時は――
恥ずかしいときやドキドキしているときだ。
「か、か、か……」
海斗は顔を真っ赤にして呟いた。
「かわいいかよ……//」
これはある幼馴染が、恋人になるほんの少し前のお話である。