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乾いた蜜柑は心に染みる  作者: 香江田マチネ
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一 あの扉の向こう側


 AM7:30 毎日その時間に押し開いていたあの扉を今日の私はまだ開けることができていない。

押し開くことができていた昨日の私とは違って、今日の私は近づくことすらできていない。昨日そのまま寝落ちしてしまったこたつの中からそう遠くないあの扉をただただ見つめている。遠くないはずなのに私の心とあの扉にはいつも距離がある。早く支度をしないと会社に遅刻しちゃう。そんなことわかってるけど、なぜか足が動かない。身体は動こうとしているけど、もう外に出たくないと、私が言っている。

 会社で、何かあったとかじゃない。同期にいじめられたりとか、上司にセクハラされたとかでもないし、パワハラされたわけでもない。ただ、なんにもない。私、今幸せだな、なんて思える瞬間もないし、悲しみのどん底に落ちるほどの悲しい出来事もない。生きてる感覚がないのだ。私の人生では、今まで一度だって感情がぶわっと溢れでるような出来事がなかった。 

 いや、今まで一度もないなんて、そんなはずはない。一度ぐらいは感情が溢れるような出来事があっただろう、そう思う人だっているかもしれない。確かに、少しは感情が溢れそうになったり揺れたりすることは私の人生の中でもあっただろう。だけど、その少しを私は思い出せない。 

その少しの出来事が私の人生を彩ったことがあっただろうか。もし彩っていたなら、今こうして、こたつの中から出られないほど考え込んだりしていないだろう。こんなことを考えてしまう私は貪欲なのだろうか、欲張りなんだろうか。そんな自分が生きている意味なんてあるのだろうか。いや、意味があるなんて到底思えない。 人生100年時代と言われるこの世界で、あと半分以上もこうして生きなければいけないのか。これから先、なにか心が躍るような、感情が溢れるような出来事があるなんて到底思えない。

 今までも、自分が生きている意味を考えたりすることはあった、その度に死にたいとも思っていた。だけど、心の中のストッパーがまだだめだと言うように私の気持ちを押さえ込もうとする。まだその時じゃない、そう自分に言い聞かせて生きてきた、昨日までは。 そう、昨日の私と、今日の私ではまるで別人のように違っている。昨日の夜まではいたはずなのに、朝起きると、昨日までいた私は、どこかへ出て行ってしまった。昨日の夜まではいたはずなのに。私を置いて出て行ってしまった。これでもう、私は1人だ。今までだって、誰かがいてくれたわけじゃないけど、私の心の中のストッパーももう私を止めてくれなくて、昨日までいた私も出て行ってしまった。


 私は今日1人で死ぬ。だけど、その前に死ぬ方法を調べようと思う。死ぬときぐらい、ちゃんと死にたいものだ。そう思い、調べてみると、一番楽に死ねる方法は首吊りらしい。私は、ネットでタオルで首を吊る方法を調べてこたつの足で練習をしてみた。うまく行った。うまく行ったらもう実行するのみだ。自殺場所に適した場所を私は探した。だけど、元々狭い部屋だから、いい場所はなく、私はあの玄関の扉のドアノブにくくりつける事にした。 動かなかったはずの足も、死ぬとなると、軽く感じ動いてくれた。

準備が終わり、あとは首を通すだけ。私は一息ついて、タオルに首を通した。やっぱりこの時も私の感情が揺れるようなことはなかった。体の力を抜いてだらんとした体勢になると、首が締め付けられている感覚になり、数分経てば頭がぼーっとしてきて、私は目を閉じる。 

 何の面白みもない人生だったが、私を産んでくれた両親に対しては、申し訳ないと思う。こんな出来の悪い娘でごめんなさい。両親もきっと、もっと可愛くて明るい性格の子供が欲しかっただろう。私は、そんな子供にはなれなかったし、今からもなれるわけが無いから、生きている意味なんてないんだ。そんな人間は死んで当然。だから、死ぬのを許してください。そんなことを思いながら、私の意識は遠のいていく。 やっと、死ねる。そう思った時、"ピンポーン”と、チャイムが後ろの方から聞こえた。遠のいていた意識が少し戻ってくる。今やっと死ねそうだったのに、こんな時に邪魔してくるやつは誰だ。でも、誰だって意味はないか。そう思って、私はもう一度目を閉じる。今度はさっきよりも深く閉じた。 しかし、その後もうるさくチャイムは鳴り続ける。まるで、もう止めてくれなくなったあのストッパーのように、私を止めてくれているようにも感じた。

 呼び起こされ、もう一度目を開けると、私は時計に目をやった。時刻はAM8:20。こんな時間に訪れる人物に見当はつかないし、そもそもチャイムを何度も鳴らしてくるような仲の相手は私にはいない。めんどくさいが、静かに死ねるチャンスを邪魔され続けたら溜まったもんじゃないと思い、私は一旦扉を開ける事にした。力を抜いていた体に、できる限りの力を込めて、タオルから首を離した。 頭に血が急速に上っていく感覚がしてクラッとしたが、息を整え、扉の向こう側に向かって「今開けます」と言って、立ち上がり扉を押し開いた。 押し開いた扉の先には、見知らぬ男が立っていた。その男は、眩しいぐらいの笑みを浮かべ、私にこういうのだ。 「あなたは、神を信じますか?」

初めまして、香江田マチネです。

今回は、この作品を選んでくださりありがとうございました。私にとって、小説を書くのが今回が初めてだったので、読みづらいところも沢山あったとは思いますが、これから沢山の人に愛される作品を作れるように頑張りますので、これからもよろしくお願いします。

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