皇帝の帰還 ―3
「――――!?」
流石に今まで暢気そのまま、頬杖をついてそれを眺めていたサレナも慌てて身を起こした。
「いっ、いだいぃぃぃ!! いでぇよぉぉぉ!!」
男は一見、不良生徒の手首を軽く握り締めているようにしか見えない。
その口元には薄く笑みすら浮かべたままで、まったく力を振り絞っているような様子が見受けられないからだった。
だというのに、一年生不良は苦痛に呻きながら、男の胸ぐらを掴み上げていた手を放してしまう。
それどころか、重力か何かに押しつぶされているように徐々にその膝を折り、男の前に跪く体勢になっていく。
その原因が、どうやら男に手首を握り締められることで発生している尋常ではないらしい激痛にあることは明らかであった。
何故ならば一年生不良の体がその痛みのあまり膝をついてしまう中で、胸ぐらを掴み上げていた腕だけがその位置で男に握られたまま、下ろすことも出来ずに固定されていたからだ。
「やっ、やめてくれ! 頼む! 勘弁してくれ、お願いだから!!」
そんな光景を見かねた先輩の三年生不良が慌てて地面に膝をついて謝りながら、それを止めさせようと男の足にすがりつく。
「おいおい、何を言っているんだ? この俺にわざわざ喧嘩を売ってくれるような、善意に溢れた奴なんだ。この俺にだぞ? なら、まだまだこんなものじゃないだろう、なあ?」
しかし、男はそんな三年生不良の必死の懇願を一顧だにもせず、それどころか一年生不良の手首を握り締める力を徐々に強めていっているらしい。
「おっ、折れっ、折れるぅぅぅぅ!!」
涙と鼻水で顔中をグシャグシャに汚しながら、一年生不良がそう泣き叫ぶ。
一人の人間の力でそんなことが出来るとはとても信じがたい。
だが、その声の必死さから察するに、このままだと本当にその手首の骨は男に握り潰され、無惨に折れ砕けるものと思われた。
そして――。
「――――っ」
流石にそんなことを、サレナ達四人が黙って見過ごせるわけがない。