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このゲームを百合ゲーとするっ!  作者: 一山幾羅
第一対決
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このゲームを百合ゲーとするっ! ―6

 さて、それで肝心の魔術訓練の方であったが、やはりサレナの体はその方面においては完全無欠の天才であったらしい。

 参考書(テキスト)に書かれている魔力操作の手ほどきをそのまま試してみるだけであっさりと、十五歳になるのを待たずしてサレナの魔力は覚醒した。


 更にそれどころか、その参考書(テキスト)群に記されていたあらゆる魔術を、書いてある通りに少し練習してみるだけで何の苦もなくサレナの体は習得してしまうことが出来た。

 そんな風に、前世の記憶から自分が魔術についての天才だとわかっている上で行う訓練は、サレナ自身ですら呆れてしまう程の成果を叩き出した。

 

 ……こんなに強くなって、サレナ(わたし)はこの魔術(ちから)で一体何と戦うというのか。


 自分の身に宿ったあまりに理不尽で強大な魔術の才能に時折虚しさを覚えながら、サレナはそんなことを思ったりもした。

 しかし――。


 ……けどまあ、いっか。楽しいし。


 サレナはすぐにそう、あっけらかんと思考を切り替えた。

 強くなりすぎて困ることなんて世の中そうそうないだろうし、これでカトレアさまの理想の騎士(ナイト)様に近づくという目標も大きく前進したと言える。

 強くなるということに、得はあっても損はない。


 それに何より、打てば響くように自分の才能がメキメキと育っていく魔術の訓練は、サレナにとって単純(シンプル)に楽しかった。


 たとえば、この世界の『魔術』には五つの『属性』というものが存在していたりする。

 『火』。『水』。『風』。『雷』。『土』。

 『魔力』を持った人間は、同時にその魔力が五つの『属性』の内いずれか一つの特性を持っており、その『属性』に合わせた『魔術』を習得していくことになる。

 そして、大抵の場合その『属性』とは血縁間で遺伝するものであり、高名な『貴族』とは即ちその脈々と受け継いできた属性の魔術を専門に極めた者達の集団でもある。

 更に、『属性』にはそれぞれ『相性』というものがある。

 『火』は『水』に対して強く、『水』は『土』に対して強く、『土』は『雷』に対して強く、『雷』は『風』に対して強く、『風』は『火』に対して強い。

 この『相性』が、そのままそれぞれの『属性』を背負う『貴族』間の勢力の均衡を保ち、この世界のパワーバランスというものを形成している。


 ……というのが、『Knight of Witches』の世界を形成している設定だった。乙女ゲームなのに無駄に細かい。


 さて、そんな設定が存在する世界の中で、主人公(サレナ)の『属性』は一体何なのかというとまさかの『無』。

 それは別に属性が無いというわけではなく、むしろ五つの属性全部に適正があり、全ての魔術を使うことが出来るというまさしく超チートな存在なのである。

 ナイウィチのゲーム本編においては、最初「何の属性も持たない」とその魔力を診断されたサレナが『自分の属性は一体何なのか』を探していくというのが物語上の大きな目的となっている。

 そして、その『実は全ての属性を扱える』という秘密はストーリーの進行と共に徐々に明らかになっていくものであった。


 だが、前世の記憶がある今のサレナは、すでに自分のそんな秘密を知り尽くしてしまっている。

 なので、その事実を物語と同じように未来で知っていくよりも、今の段階からそれに合わせた鍛え方をしていくことにしたのだった。


 そして、そう決めたサレナはまったく自分の気の向くままに、かき集めた参考書(テキスト)に書かれているあらゆる属性の魔術を何でもかんでも根こそぎ習得していった。


 ゲーム内ではぼんやりとだけ描かれていた魔術の概念だったが、実際にこの世界に生きている人間としてその理論に触れてみると、奇しくもそれには生前自分が大学で学んでいた分野に共通しているものが存在していることがわかった。

 つまり、この世界における『魔術』とは空間にある種のプログラムというか、『回路図』のようなものを念じ描いて、そこに『魔力』というエネルギーを通してやることで様々な効果が発動するものとなっているのだった。

 基本的にその回路図とは暗記しておいて使用の度に描いていくことになるし、それを上手く描くにもセンスが要求されるものである。


 そして、サレナは、その回路図の暗記と描画という行為に見事にハマってしまったのだった。


 回路図を何個も暗記したり、その回路図の中の何がどういう効果を発揮するものなのかどうかを考えてみるのはそれ自体が結構楽しかった。

 それに、覚えた回路図を実際に念じて空間に描いてみるのも様々な難易度が存在していて、こういう言い方でいいのかはともかく"やり応え"に溢れていた。

 生前からそうだったのだが、サレナは基本的にあらゆるものにやり込み要素を見出してはハマりこむタイプのオタクであり、それは勉強においても同じだった。

 そんなオタクとしての気質がここでも発揮されてしまったというわけだった。


 もはやサレナは当初の『カトレアさまに並ぶくらいの魔術の実力を身につける』という目標を半ば忘れ、自分の探求心の赴くままに魔術の訓練にのめり込んでいった。


 買い集めた参考書(テキスト)には本当に初級の魔術しか載っていなかったが、その基本の回路図を解き明かし、応用してオリジナルの回路図を考えていくことで新しい魔術を作り出せることに気づいてからは、もはや新しいそれを買い求める必要がなくなっていた。

 そうしてサレナの魔術訓練は時間が経つごとにどんどん新しい魔術の研究と開発じみたものとなっていった。

 そして、生来の魔術方面における天才ぶりと、生前のそんなやり込みオタク気質が合わさった結果、サレナの魔術の腕は変態的な上達をしていった。

 それはもはや"カトレアさまに並ぶ"どころか、この世界のどの人間も追いつけないような領域へと駆け上ってしまっていた。


 そんなわけで、短いと思っていたはずの三年間で、サレナは魔術においては恐らくこの世界で最強の存在となった。

 それは本人的にも全く意図していなかったことであり、ある日ハッと我に返り、自分がやりすぎてしまったことに気づいた時には流石に焦りもした。


 ――したのだが、しばらくしてサレナはこう思い直した。


 ……この世界で最強の魔術の腕があっても、困ることは特にないのでは?


 うん、そうだ。そうに違いない。

 実力というのは高く誤魔化すことに問題はあるが、低く隠す分には支障ない。そのはずだ。能ある鷹は爪を隠すともいうし。


 ……それに――楽しかったから、まあ、いいか。


 晴れやかな充足感と共に、サレナはそう考え、腕を組みながらうんうんと頷いてみる。

 その目の前には、思いついた新しい回路図による魔術を試しに発動させてみたことで、その行き止まりを越えて山の向こう側まで綺麗に貫通させてしまった、"元・練習場所の洞窟"にして"たった今トンネルになったもの"が存在していた。

 外ではその魔術によって発生したあまりの轟音と振動で混乱に陥った野鳥や獣達の狂ったような鳴き声や暴れ回る音も聞こえている。


 ……とりあえず、人が来る前に逃げよう。


 魔術の訓練を始めてからそろそろ二年になろうというある日に、サレナはそうして自分の手で洞窟からトンネルにしてしまった拠点を放棄してすたこらさっさと逃げ出し、流石にそれ以上の訓練は自主的に禁止することにしたのだった。

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