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このゲームを百合ゲーとするっ!  作者: 一山幾羅
第二対決
87/149

後日談から始まって ―3

 それを認めるのには恐らく相当な決心が必要だったのだろう。

 眉根を寄せ、苦悩に満ちた表情でアネモネはそう言い切った。

 それでも抑えきれない感情が外に漏れ出てしまったようにアネモネはダンッと円卓を叩くと、言葉を続ける。


「全てが完璧なはずのお兄様ですが……ただ一つ、あの人には女性を見る目がなかった……!! それだけです……今回のことはそれだけなのですわ……!!」


 そこまで言い切った後で、「おいたわしやおねえさま~!」と叫び、アネモネはヨヨヨと泣き崩れてしまった。


 それは、どうして二人が上手くいかなかったのか、その理由を必死で考えた末にどうにかアネモネが辿り着いた結論なのだろう。

 自分の敬愛するアドニスお兄様が、同じくらい憧れのカトレアお姉様を袖にした。

 どうして上手くいかなかったのか、どちらが悪かったのか。アネモネも相当悩んだことだと思われる。

 それでも最終的にアネモネは"お兄様の見る目が悪かった"と考える方を選んだ。


 サレナは内心で激しくその意見に同意しつつ、アネモネがカトレアさまの味方であることを選んでくれたのを嬉しく思う。流石、我が心の友である。


「アネモネちゃんってば……大好きなお兄様のことをそんな風に言ってあげてはダメよ。……でも、ありがとう。そうしてまで、慰めようとしてくれたのよね」


 カトレアさまはアネモネのそんな言葉と様子に苦笑しつつも、本当に嬉しそうな声で感謝を述べた。

 そして、アネモネの方へと近寄るとハンカチで優しく涙を拭ってやり、なんだったら鼻水まで垂らしているのを拭いてあげている。

 なんとも羨ましい扱い。というか、泣きすぎだろうアネモネ。

 サレナもヒースもその光景を感動的というよりは、何だか呆れた様子で眺めてしまう。


「うぅ……ごめんなざいなんで、本当は私だぢが言うべき言葉なのでずわ……お姉様の恋を実らぜてあげることが出来なぐで……私だぢの、力不足で……本当にごめんなざい……!」


 べしょべしょの顔を拭いてもらったアネモネは、なおも鼻をすんすんと鳴らしてべそをかきつつもそう言った。

 その後で、くるりと他の二人の方を向くと、


「ねえ……?」


 同意を求めるように……いや、何かを促すようにそう問いかけてきた。


 サレナとしては勿論アネモネのその言葉に異論はない。

 カトレアさまに謝られる理由はないし、むしろ手伝いを買って出ておきながらも成功に繋げてあげることが出来なかった自分達の力不足をこそ謝るべき。

 それに同調して、ここで改めて頭を下げたっていい。


 だが、サレナは敢えてそうしなかった。

 何故なら、アネモネの視線はどうも"二人"というよりも、もう一人の方だけを向いている気がしたからだ。


「…………」


 なので、サレナは自分も無言でその視線の先を追いかけ、同じように見つめてみる。

 そんな二人分の視線が注がれていることに気づいた相手はといえば。


「…………っ!?」


 まずは無言で驚きに目を見開き、次に「嘘だろ!?」と問い返したげな視線だけを返してきた。


 だが、アネモネもサレナもその反応にはまったく取り合おうとせず、じーっと半目で見つめ返すばかり。

 それを受けて完全に狼狽えつつも、しかし何とか気合いで己を取り戻したのか、自分に向けられる全てを突っぱねるようにヒースは強引に視線から顔を背けようとした。


 しかし、その途中で何とも運の悪いことに、最後の視線に捕まってしまった。


「…………?」


 二人が黙って見つめる先が気になったのか、それを追いかけ、不思議そうな目をヒースへと向けているカトレアさま。

 それと完全に目が合ってしまい、流石のヒースもこの状況でそれを強引に振り払うことは出来なかったようであった。


 いや、それでもやっぱり最後の抵抗をするかのように目を逸らした。

 だが、カトレアさまも案外天然で、悪気なく容赦がない。

 ヒースが目を逸らしてもなお、小首を傾げて無言で見つめ続けている。

 まるで"どうしたのかしら"と心配しているような様子ですらあったが、今のヒースにとってその気遣いはまったくありがたくないものだったろう。


 そんな三人分の視線と無言の圧に追い詰められ、往生際の悪いこの男もようやく観念したらしい。

 深い溜息を一つ吐くと、それで覚悟を固めたのか、顔を上げ、カトレアさまの視線に真正面から向き合う。


「……その、あんま気にすることはないんじゃないかと思いますよ、オレも……それに、もっといい相手だって、すぐに見つかるんじゃないっスかね……だって、その……」


 普段のふてぶてしい態度はどこへやら、まったくしどろもどろな調子でヒースは言葉を紡ぐ。

 しかし、その言葉は必死で、懸命で、どうにか精一杯の誠意と気遣いをそこに籠めようとしているようで。


「その……センパイは……すっ、素敵な女性ですから……!」


 それを言うのは流石に自分の中の羞恥心との壮大な戦いがあったのだろうという詰まり具合ではあったが、どうにかそれに打ち勝ち、ヒースはその言葉を絞り出してみせた。

 自分に出せる限りの知恵と気力を総動員して何とか考え出したのであろう、そんなヒースなりの精一杯の励ましと慰めの文句。

 それを聞いて、カトレアさまはまず不意打ちを食らったようにぽかんと間の抜けた表情をしておられた。

 その後で、


「ふっ、ふふっ、うふふふふ」


 軽く吹き出すと、こらきれないというように小さく笑い出す。

 それは多少の愉快さからでもあっただろうが、それ以上に抑えきれない嬉しさを感じさせるような、そんな笑い声で。


「ありがとう。なんだか、ヒースくんの励ましが一番元気出たかもしれないわ」


 その笑顔に若干の悪戯っぽさを混ぜながら、カトレアさまはヒースへ向けてそうお礼を言った。

 何だかカトレアさまの方でもヒースの不器用さがわかってきて、それをイジるのを楽しみ始めたような様子であった。


「~~~~ッ」


 それに律儀に応えてというわけではないのだろうが、ヒースは耐えきれなくなったように何事か呻きながら体ごと顔を背けてしまった。なんとまあ、イジりがいのある反応だろうか。


 そんなヒースを、サレナとアネモネはニヤニヤといやらしい笑みを顔に張りつけながら、両側からポカポカと軽く小突いてやる。

 「おいおーい、良かったじゃないの~。あんたの言葉が一番元気出たってさ」、「まあまあ、ヒースさんにしては上出来でしたわよ~」などと、そんな風にからかいながら。


「っ()ぅ!? おい待てコラ、テメエらこれ本気で殴ってんだろ!? やめろ、おい、ちょっ、マジで痛いぞ!?」


 しかし、カトレアさまからのそんな言葉と反応を賜ったことに対する結構マジな嫉妬を感じてもいたので、二人の小突きは段々と手加減のリミッターを外したものになっていったのだが。

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