いつかあなたに伝える(わる)想い ―4
サレナはその日、朝からずっと部屋に籠もって、自分のベッドに寝転んだまま何もしようとはしなかった。
部屋の仕切りカーテンも締め切って、疑似的な一人だけの空間に閉じこもっていた。
あれだけ大きな声でカトレアさまの幸せと恋の成就を祈っていると言い切ってみせたくせに、やっぱりいざ彼女が今日アドニスとデートに出かけていて、その最後に想いを告白するのだと考えると、胸がじくじくと痛んで、切なくて、どうしようもなくなってしまっていた。
普段通りに振る舞うことが出来ない。というか、そもそも何もしたくない。
だから、こうやって今日という日が早く終わってくれることを、じっと何かに耐えながら待っているしかなかった。まるで、嵐が通り過ぎるのを待つように。
いっそ夜まで眠ってしまえたら楽なのだろうけど、そんなにずっと眠っていられるわけもなかった。
断続的に微睡みと覚醒を繰り返しては、無意識に時間を確認して、その度に軽く後悔してしまう。
今が何時なのかを知る度に、カトレアさまと綿密に相談したデートプランのスケジュールが思い出されて、そんなことしたくもないのに、今二人がどこで何をしているのかをどうしても想像してしまうのだった。
十時。二人は庭下街で待ち合わせて、デートを始める。待ち合わせの場所は、大きな魔術噴水のある公園。デートは待ち合わせる場所からロマンチックに。
十一時。二人は公園を散歩する。他愛もないことをお喋りしながら、ゆったりと。休日の公園は人が多い。もちろんカップルだって。あの二人もそんな中の一組に見えるのだろうか。
十二時。ランチは最近評判の洒落た雰囲気のカフェで。落ち着いたセンスのいい内装の中で、二人は楽しそうに食事をする。サレナと違って、カトレアさまはランチプレートを二人前食べて呆れられるなんてことはないのだろう。優雅に、上品に、食事と会話を楽しまれるに違いない。
午後からは、アネモネの提案だと高級店の立ち並ぶ、格式高いことで評判の通りをウインドーショッピングしてみたり。サレナの提案だと市場を巡って色々と食べ歩きしてみたり。
ああ、評判のクレープ屋台でおやつを食べたりしているのかも。あのお店はアネモネも気に入ってたくらいだから、カトレアさまもきっと気に入ることだろう。
ヒースは魔術道具、ことにアクセサリーの類なんかを見て回ることを提案していたけど、それがアドニスの趣味に合うのかどうか。
真面目なカトレアさまは書店を巡りたいと言っていたけど、それも中々ロマンチックかもしれない。
とにかく二人で色々と街を回ってみて、楽しんでいればそれでいいか。そうする内にいい雰囲気になってくれていたらいい。
そして、夕暮れ時。そろそろ学院寮に帰るその前に、二人は街を流れる運河の畔――よく恋人達が集まって夕陽を眺めるのを楽しんでいることで有名なスポットへ足を運ぶ。
夕陽に赤く照らされる水面を二人で見つめながら、カトレアさまは一度深呼吸をして、並んで隣に立つアドニスの方へ体ごと向き直る。
そして、若干震えていながらも、変わらず凛としたその声で呼びかける。
呼ばれたアドニスも体ごとカトレアさまへと向き合う。
そろそろ群青色が混ざってきた空の下で、カトレアさまは決意した顔で、真っ直ぐにアドニスを見つめながら、今までずっとずっと、胸に秘めて大事にしてきたその想いを伝えようと口を開く。
「あのね、アドニス。私は――――」