いつかあなたに伝える(わる)想い ―1
楽しかったが、どうも楽しいだけで終わってしまったそんなお茶会イベントから数日後。
サレナは自室の机に向かって一人、今までの結果を振り返りながら頭を痛めていた。
とにもかくにも、ここまでサレナはそんな風に、アドニス攻略ルートにおけるめぼしいイベントを主人公とカトレアさまを入れ替えた上で再現するという作戦を試してきた。
しかし、どうにもそれではかばかしい成果を得られているようには思えなかった。
カトレアさまばかりが一方的にキュンキュンしているだけで、これまでのイベントでアドニスの心が少しでもカトレアさまの方に動かされているような手応えが、正直なところまるで感じられていないのだ。
何故だろう。サレナは深い溜息を吐きつつ、思い悩む。
イベントの通りにしてさえいれば、主人公なら何の苦労もなくアドニスに惚れられ、簡単に結ばれていたはずなのに。
どうしてカトレアさまでは上手くいく気配がないのだろう。
……それは、どうも私達が肝心なところで元のイベントの通りに出来ていないからな気もするけれど……。
サレナは様々な失敗の数々を思い返しては苦い顔で唸る。
とはいえ、そうだとしても、もうちょっとくらいはアドニスからのカトレアさまへの態度にも何かしらの変化を感じられてもいい気はするのだが。
しかし、実際はまるで暖簾に腕押し状態、アドニスをカトレアさまへと振り向かせられている実感が少しもない。
どうしてなんだろう。主人公とカトレアさま、一体何が違うというのか。
……いや、違うのかな。何が違う、とかじゃなくて。そもそも、根本が――。
「…………」
サレナはぼんやりと遠くを見ながら、同時に頭の中でその答えを一瞬だけ目にしてしまう。
……主人公じゃないから……ライバルだから、上手くいかないんじゃ――。
「――――ッ」
サレナは一瞬だけ頭の中で見えてしまったそれを振り払うかのように目をぎゅっとつぶり、ブンブンと頭を左右に強く振る。
そんなはずない、そんなはずない。
主人公とカトレアさまに違いなんてない。
カトレアさまだって本当は健気で、一途で、可愛らしいところもたくさんあって、好きな人のためなら手作りお菓子にだって頑張って初挑戦してみせるくらいで。主人公と何も変わらない、普通の魅力的な女の子なのだ。
それを知ってさえもらえれば、アピールすることさえ出来れば、アドニスだってきっとカトレアさまに心を動かされて、意識するようになって、恋してしまうはずなのだ。
だから――もう、イベントの再現なんていうまどろっこしい真似はやめよう。
サレナは自分の心中をかき乱す不安を否定しようとしつつも、無意識にそれに駆り立てられているかのように、決意する。
最終手段を決行するべき時だ。もう、それしかない。
『告白』させる。
カトレアさまに、アドニスへ向かって、真っ直ぐに、正直に、自分の想いを伝えさせる。
やはり、それに勝るアピールはないだろう。
告白されれば、きっとアドニスだってカトレアさまを意識して、その心が動かされるはず。
大丈夫だ。そのために、これまで頑張ってイベントを積み重ねてきたんだ。
きっと、見えにくいだけ、わかりにくいだけで、それはアドニスの心にも何かしらの変化をもたらしているはずなのだ。
サレナは自分に必死に言い聞かせるようにそう考えながら、一心不乱に最後の作戦を練り始めた。