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このゲームを百合ゲーとするっ!  作者: 一山幾羅
第一対決
61/149

菫色アプローチ大作戦 ―3

 そこから、いくつか挙げた候補の中でどれがより成果を期待出来そうか、意見を聞いて厳選していった。

 そうして選ばれた中の一つが、今日実行するつもりの『ノート運びイベント』であった。


 そのイベントが一体どういうものなのか、ここで軽く説明しておこう。

 ゲームでのサレナも(今のサレナへの"不気味さ"に対するものとはまったく逆の理由ではあるが)学年では孤立しており、早くそこに馴染もうとして、健気にも様々な雑用を自主的に引き受けていた。

 その雑用の一つが、出されていた宿題のノートをまとめて回収して、担当教員に提出するというものであった。

 そのノートが全員分となると結構な量となり、本来であれば二人で分けて運ぶものとなる。だが、お邪魔キャラのアネモネによる嫌がらせから、その時は自主的にその役を引き受けていたサレナ一人で運ばされることになってしまう。

 ただでさえそんなに力があるわけでもないのに、おまけに「まさか大切な宿題のノートを半分放置したまま提出しにいくわけじゃありませんわよね?」という脅しをかけてきたアネモネのせいで、全員分のノートを一気に運ぶように仕向けられてしまったサレナ。

 必死で力を振り絞り、よろよろとふらつきながらも懸命に運ぼうとするのだが、やはり無理があったのか途中でバランスを崩し、後ろに転びそうになってしまう。

 そこへ――。


「大丈夫かい?」


 後ろからそっと、そんなサレナを抱きしめるように支えて助けてくれるのが、まさしくアドニスその人というわけなのだった。

 ふらふらと危なっかしい足取りでノートを運ぶサレナを見かけて心配していると、ちょうど彼女が転びそうになったので、慌てて駆け寄り、咄嗟に抱きしめるようにして助けてしまったのだという。

 後ろから抱き締められていることと、転びそうになってしまったところを助けられた恥ずかしさから、顔から火が出そうなほど真っ赤になるサレナ。

 そんなサレナを助け起こすと、アドニスは「ノートを半分持つよ」とスマートに申し出てくれる。

 そして、全員分のノートを一人で運んでいた健気なサレナに心打たれたアドニスは、優しく微笑みながら「偉いね」と褒めて、頭を撫でてくれるのだった――。


 これを話してみたところ、「キュンキュンですわ~!」と叫びながら頬を染めて身悶えするアネモネのお墨付きをいただいたことで、見事に今回の作戦における実行イベントの一つにノミネートされたのであった。

 さらにアネモネからは「特にノートを一人で運ばせようとする辺りの嫌がらせの発想が悪魔的ですわね! 恐ろしいですわ、サレナさん……!」との評価も賜っている。

 それに対して「いや、それを考えたのはお前や」と言ってしまいそうになるのをサレナはグッとこらえなければならない羽目になったのだが、まあ関係ない話なので脇に置いておくとして……。


「今回はそういう作戦でいきます!」


 そうカトレアさまにも説明したところ、それを聞いた彼女も頬を染め、何だか興奮したような微笑みを浮かべながら「キュンキュンね!」と言ってくれた。

 まったくキュンキュンしていないのはサレナばかりである。

 サレナは何だか置いてけぼりをくらっているような気分になりつつも、とにかく三人で準備を始めることにした。


 とはいえ、当たり前だが、学院の"白き王子"であるアドニスに対してなのか"紫の女王"という異名で三年生のトップスリーの一角に君臨してしまっているカトレアさまに、学年の雑用など誰も任せられようはずもない。

 たとえカトレアさまが自分で引き受けると申し出ても、畏れ多さのあまり「そんなことはさせられません!」という下々の者達によって仕事が奪われしまうのはまず間違いがない。


 なので、今回は"学年の雑用"という形ではなく、生徒会で急遽資料の運搬の仕事が発生したという設定でいくことにした。

 本来は事務仕事担当のカトレアさまとサレナの二人がかりでそれを運ぶはずだったのだが、か弱そうな後輩にそんな力仕事はさせられないということで、カトレアさまが一人で全部運ぶことにした――。三人で相談し、そういうシナリオでいこうということで話がまとまった。

 もちろん実はそんな必要はどこにもない、全て架空の資料運搬である。

 だが、事務方の二人で共謀しているのだからバレる危険性はほぼないと言えた。これこそ不正の起こるメカニズムである。

 運ぶ架空の資料は、割としっかりした体つきをしていて力もそれなりにあるカトレアさまがギリギリ転んでしまってもおかしくない量を……ということで結構な重量を用意することになったが、ひとまずこれで準備は整った。


「来ましたわ……! お兄様です……!」


 偵察に出ていたアネモネが生徒会室へ駆け込んでくると、一応声を潜めながらも強い調子でそう報告した。

 ヨシ。それを聞いたサレナとカトレアさまは顔を見合わせて、互いに頷く。


 手筈はこうだ。現在アドニスが生徒会室に向かって来つつあるということは、必然そこに至るまでの廊下を歩いてくることになる。

 そこで、カトレアさまが資料を抱えたまま生徒会室から出ていき、アドニスと偶然はち合わせた風に装う。

 あとはどこかのタイミングでカトレアさまが後ろに転びそうになったところを、アドニスが主人公(サレナ)とのイベントの時のように後ろから抱き締めるようにして支えて助ける。

 大まかな流れはそれで、後の細かいところはとりあえず成り行きとカトレアさまのアドリブに任せる。

 そして、サレナとアネモネは生徒会室に隠れてそれを見守りながら、必要とあれば随所でバレないようにサポートをする。

 三人でしっかりと話し合いながら綿密に練り上げたこの作戦、今のところ穴はないはず。


「こちらへ近づいてきています……!」


 なおもバレないように廊下の様子を窺っていたアネモネから、その報告が飛んでくる。


 行こう。三人は顔を見合わせて、頷き合った。

 作戦開始だ。

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