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このゲームを百合ゲーとするっ!  作者: 一山幾羅
第一対決
54/149

恋するあなたに恋してる ―9

「――というわけで、作戦会議よ!!」


 サレナがぎゅっと握り締めた拳を掲げながらそう叫ぶと、それを体育座りで見上げていたアネモネが笑顔でパチパチと拍手をする。しかし、その隣に同じく体育座りで座らせられているヒースは虚無そのものという表情を向けるばかりだった。


 場所は現在学院寮、サレナ(とヒース)の部屋。時は学校も夕食も終わった夜更け、寮生達が思い思いに自由に過ごす時間帯だった。

 "その時に具体的な作戦会議をしよう"とサレナはアネモネと約束しており、この状況というわけだった。


「……おい……」

「おっと、発言は事前に挙手してからでお願いね」


 虚無の顔で固まっていたヒースがようやくそう声を発すると、サレナはすぐさまそれに注意をする。

 取り敢えず言われるがまま律儀にヒースが手を挙げると、サレナは許可を出すように黙って頷きを返した。


「……色々と、問い質してえことはあるんだが……それよりも、まず……」


 重苦しい調子で咳払いをしてから、ヒースはそう前置くと、


「なんでこの部屋にもう一人女が増えてんだよッ!?」


 アネモネの方を見ながら渾身の大声でそう叫んだ。


 数分前に突然、アネモネが「お邪魔しますわ~!」と言いながらドアを開け放ち、突入してきて、一体何事かと混乱している間にあれよあれよと流されてこの状況に置かれていたヒースであった。

 そりゃ、あらゆることに対する説明を要求するのも当然であるし、そもそもいきなり部屋に上がり込んできた見ず知らずの女の子が一体誰なのかということから説明して欲しいらしい。それ故の叫びである。


「ああ、この子は私の友達。私が部屋に招いたの」

「どうしてこの部屋にッ!?」

「別に友達の一人くらい部屋に呼んだっていいじゃない」

「お前と暮らしてること自体ホントはありえねえのに、そこにダチまで呼び込むのはもっとありえねえだろ!? そもそも二人で遊びてぇんならテメェがダチの部屋に行け!!」


 あっけらかんとそう答えるサレナに、ヒースは立ち上がって、掴みかからんばかりの勢いでもっともなツッコミを叫び返す。

 すると、突然横合いから――。


「スト~~ップですわ!!」


 アネモネも立ち上がり、二人を制止するように両手を広げてその間へと割って入ってきた。


「――――ッ」


 流石にそうされると、ヒースも戸惑いながらも一旦止まるしかない。

 そして、ヒースが止まるのを確認したアネモネは、真っ直ぐヒースに向き合うと、まったく落ち着き払った態度で口を開く。


「なるほど、あなたがヒース・ライラックですわね? お噂は聞き及んでいましてよ? なんでも、新入生の男子の中ではトップの実力と成績だとか――」


 ただし、素行の面で"多少問題あり"との評価を下されているようですけれども。

 アネモネはそう続けながら、ジロジロと上から下まで観察するようにヒースを眺めると、


「――ふむ。しかし、ラナンキュラス一族の一員たるこの私が友誼を結ぶに足る才能を有していることは、どうやら認めざるを得ませんわね」


 あからさまに訝しむヒースへ向かって、手を差し出してニッコリと笑いながら、言う。


「宜しいでしょう、このアネモネ・ラナンキュラス・バートリーがあなたの友人となって差し上げますわ。どうぞよろしく……してあげてもよろしくてよ」


 フフンと胸を張って何故か得意げなアネモネに、ヒースはまず唖然として、


「――――ッ」


 次は咄嗟に暴言を吐こうとしたのを寸前で思いとどまったかのように凶暴な顔で口をぱくぱくとさせ、


「…………」


 最後にどうしようもないと悟ったのか、がっくりと肩を落とし、俯いてしまった。


「サレナといい、どうしてこんな変なヤツばかりにオレは寄ってこられるんだ……!」


 そして、実に心の籠もった、そんな渾身の嘆きを吐き出した。

 それを聞いたサレナは"失敬な"と思いつつ、どうやら自分の思惑通りの流れになってくれたらしいことに少し安堵する。


 確かに、ヒースの言う通りであることはサレナにもわかっていた。

 作戦会議をするにしても、わざわざアネモネをここに招き入れる必要はない。

 しかし、一応それもこれも全てサレナの現在数少ない友人である二人のためになるだろうとの考えから、敢えてそうすることにしたのであった。

 サレナは改めてその考えを、確認するように思い返してみる。


 ゲームの中では自らにすり寄ってくる貴族の取り巻きをゾロゾロと引き連れていたアネモネであったが、この世界においては平民であるサレナとの付き合いをその取り巻きに咎められたところ思わず、


「お黙りなさい! 魔術士界とは"実力"が何よりも尊ばれる世界、私はその価値観で他人を測ることはあっても、生まれや身分などで測ったりはいたしませんわ!」


 と一喝してしまい、それ以降学年で孤立してしまっているらしいのだった。

 どうやら親友であるところのサレナを馬鹿にされてキレてしまったらしい。

 気の強そうな見た目と高慢な態度に似合わず、意外と友情に厚い性格なのだった。

 そして、流石にそこまで人の運命を歪めてしまうと、サレナも責任を感じざるを得ない。

 片やヒースもその見た目と態度が災いして、学年では孤立気味だった。

 ということで、そんな二人の友人であるサレナは、"丁度いい"としてこの二人を引き合わせて、孤立している者同士、仲良くさせてしまえばいいのではと思いついたのだった。

 もちろん、そんなサレナ本人も規格外の魔術の実力と成績、いつも飄々として図太い態度、それなのに平民という身分等々の理由で周囲から不気味がられており、完全に孤立している。

 要は「学院のはみ出し者同士で仲良くしようぜ」という試みだった。

 そして、どうやら事はサレナの思った通りに首尾よく運んでくれたらしい。


「……はぁぁぁ~~~……」


 顔を上げたヒースはこの世に存在するあらゆる苦悩を煮詰めたような表情をしていたが、ようやく観念したらしく、肺から根こそぎかき集めた深い溜息と共に、差し出された手を握る。


「……わかった……。お前がそれでいいなら、よろしくしてくれ……。ヒース・ライラックだ」


 結局、根が真面目で優しく純朴なファッション不良であるヒースには、どれだけ個性的かつ偉そうで鼻持ちならない態度であるとはいえ、自分に真っ直ぐぶつかってくる相手を邪険には出来ないのだった。

 アネモネの方も魔術士界の徹底した実力主義の価値観が身についているだけあって、その能力を認めた相手には非常に素直に敬意を示し、関係を結ぶことに抵抗もないようだった。


 まさに割れ鍋に綴じ蓋とでも言うべきか。いや、この表現で合ってるのか?

 サレナは首を傾げつつも、全てが丸く収まったことに満足して頷く。


 こうしてここにまったく奇妙な友人関係が生まれたことで、後にこの三人が学院における『三ツ羽の黒(トライアドレイヴン)』と呼ばれて、あらゆる意味で恐れられるようになっていくのは、また別のお話である。

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