恋するあなたに恋してる ―7
それから幾日か経ったある日のこと、今日も今日とてサレナは放課後を生徒会室で書記としての職務に勤しんで過ごしていた。
もちろん、今は不在の二年生の代わりに会計としての職務も肩代わりしている副会長のカトレアさまも一緒。
生徒会長のアドニスともう一人の副会長であるロッサは、女性陣とは反対に学院内を実際に動き回ってこなす仕事を多く担当しているらしく、度々二人で生徒会室を空けることが多かった。
必然的にサレナとカトレアさまは生徒会室に二人きりで黙々と事務仕事をこなす状況が多くなり、それはサレナにとって幸福な時間であったし、何よりも今からは好機でもあった。
その日も、途中でアドニスとロッサは忙しそうに二人で生徒会室から出て行ってしまっていた。
頃合いだ。そう判断したサレナは休憩を提案する。
あの恋バナ以来、事務仕事合間の休憩にカトレアさまとサレナが他愛もないことをお喋りするのも恒例となっていた。それに関してはサレナは言わずもがな、最近ではカトレアさまの方でもすっかり心を開いてきて、そんな時間を楽しんでくれている様子であった。
話題はいつも雑多で取るに足りないようなことばかりだったが、しかし今日に限ってはサレナにそんな雑談をするつもりはなかった。
「じゃあ、お茶を……」と立ち上がりかけるカトレアさまを制し、意を決した顔で彼女と真正面から向かい合う。
「……正直に答えてください」
「な、何かしら……」
後輩が妙な気迫に満ちた顔で詰め寄ってくることに少しばかり戸惑っている様子のカトレアさまへ向けて、
「…………」
心の準備をするために一度大きく深呼吸をしてから、サレナはその質問をぶつける。
「――カトレアさまは、アドニス先輩に恋をしていますよね?」
それをぶつけられたカトレアさまはといえば、
「…………」
一瞬だけ、あまりにも不意打ちの質問だったのか、よく言葉の意味を飲み込めていないようなきょとんとした顔を見せた後で、
「――――ッ」
すぐさまボンと、そこから蒸気でも噴き出るんじゃないかと思うくらいに真っ赤な顔になった。
「ななな、何を馬鹿なことを、いいい、いきなり言い出すのかしら、さ、サレナさんってば……! まま、まったくばかばかしい、そ、そんなことあるわけ――」
そして、思わずサレナも呆れてしまうくらいに挙動不審な様子を見せながら、普段の淀みなくハキハキと喋る姿が嘘のようにどもりまくりつつも、そう返答してくる。
それを見て、この人も本当に一人の人間なんだなと改めて思いながらも、こんな若干ポンコツなところもまた愛しく感じてしまう……そんな自分にも呆れつつ、
「カトレアさま……申し訳ありませんが、はっきり言ってバレバレです」
溜息と共に、相手を落ち着かせるようにサレナはそう言った。
「…………っ」
それを聞いたカトレアさまは、そこでピタッと、その慌てふためいていた動きと言葉を止めると、
「――だ、だとしても、それがあなたとどんな関係があるというのかしら? 私がアドニスに恋しているからといって、あなたにどうこう言われる筋合いは――」
先ほどの醜態を誤魔化すように咳払いを一つしてから、まだ若干の動揺を残しつつも、普段通りの毅然とした態度でそう告げようとしてくる。
「――関係は、あります」
それを遮るようにそう言うと、サレナは真っ直ぐにカトレアさまの目を見つめながら、
「……私に、手伝わせてくれませんか?」
自分の決意を口にする。
「――何を……」
またも戸惑いながら疑問を浮かべるカトレアさまに、
「私が、カトレアさまの恋を成就させてみせます」
ずいっと近寄ると、サレナはその両手を自分の両手でぎゅっと握って、そう告げる。
そして、その言葉の意味は、つまり――。
「――私が、カトレアさまとアドニス先輩をくっつけてみせます!!」