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このゲームを百合ゲーとするっ!  作者: 一山幾羅
第一対決
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第一対決  VS 恋心 ―16

 そう気づいたサレナが改めて衝撃を受けた顔つきになってしまう中で、超至近距離から真っ直ぐサレナを睨みつけてきているヒースが口を開く。


「テメェがどこまでおめでたい頭をしてるのかは知らねえが、オレだって男だぞ? その気になりゃお前程度、いつだってこういう風に襲いかかって組み敷けるんだ。そんな相手と、テメェは本気でルームメイトとして仲良く暮らしていくつもりか?」


 しかし、その口から出てきた言葉は胸をキュンとさせるような甘い囁きなどではなく、どこまでも冷淡に相手を恫喝するかのようなそれだった。


 こうして少しばかり本気で、荒っぽく脅しつけてやれば、いくら暢気でズレてるサレナといえども怯え竦み、ルームメイトになろうなどという考えを改めるだろう。

 そういう思惑からの、ヒースのそんな行動であったと思われる。

 しかし――。


「…………」


 サレナはヒースのそんな脅し文句を聞いても、どこまでも平然とした顔で目の前の強面を見つめ返しながら、眉一つ動かすことはなかった。

 というか、むしろ人生で初めての壁ドン体験に若干感動すらしてしまっていた。


 ……なるほど、マジの美男子がやるとこれくらい様になるものなのね。


 全く動じることのない澄ました顔の裏ではそんなことを考えていたりする。


 けれども、今しばらく本物の壁ドンというものを味わっていたいのもやまやまだが、いつまでもこうしているわけにもいかない。

 それに何より、目の前の男のとんでもない"思い上がり"というものを正してやらねばなるまい。


 サレナはそう決めると、目を伏せ、仕方ないといった風の小さな溜息を吐いた。

 そして、一向に狼狽えたり怯えたりする様子のないサレナを不審がるヒースに向けて、事も無げに言い放つ。


「ああ、その辺の心配はまったく必要ないわよ」


 言葉と共に、サレナはこちらに覆い被さるヒースの身体を押し返すように、軽く片手で突き押した。

 当たり前だが、そんなものではびくともしないはずの体格差のはずだった。


「――――ッ!?」


 ――が、ぶわっと、何か見えないものに押されるようにしてヒースの身体は跳ね上がり、そのまま逆側のベッドの上へと吹き飛ばされた。


        ☆★


 一体何が起こった。

 驚愕と共に慌てて身を起こしながらサレナの方を見たヒースは、その信じられない現象のカラクリをすぐさま理解する。


 自分を突き押してきたサレナの片手に、緑色の発光回路が展開されていた。

 サレナが風属性の魔術で瞬間的な突風を起こして、ヒースの身体を吹き飛ばしたのであった。


 ありえない早業だった。

 何故なら、ヒースが見る限りサレナには魔術を発動させようと準備する素振りすらなかった。

 どんな魔術であれ、普通は発動させるために意識の集中が必要だった。その集中は、あれだけの至近距離にいたなら当然こちらも気づけて然るべきものである。

 そして、それに気づいたならばみすみすその発動を許したりはしなかっただろう。

 だが、ヒースはまったくそれに気づけなかった。

 ということは、つまり、サレナは気取られるほど集中する必要もなく魔術を発動することが出来るということになる。

 そこまでの技術は、よほど高位の魔術士でなければ身につけていないだろうと思われるものだった。


「…………っ!?」


 それどころか、次にヒースは更に信じられないものを目にして、あまりのことに言葉を失ってしまう。


 サレナはもう片方の手に、橙色の発光回路を展開させていた。その発光色は、明らかに地属性のそれ。

 つまり、異なる二属性の魔術の使用。

 ありえない。完全に魔術の常識から外れてしまっている。

 そうでなくとも、片手ずつで並行して別々の魔術を構築、発動させること自体が普通はありえない。そして、この回路の構築スピード自体もありえない。

 目の前の少女の魔術は、その何もかもがぶっ飛んでいて、規格外だった。


 サレナが橙色の発光回路を展開させた方の手をこちらへ向けるのが、ヒースにはやけにゆっくりに見えた。

 その手が自分を指さした――そう見えた瞬間、視認不可能な速度で飛んできた何かがヒースの顔の横を掠めて、背後の壁に鈍い音を立てて激突した。

 それどころか、その何かは完全に壁にめり込み、貫通には至っていないとはいえ結構な深さの風穴をそこに開けていた。


 それは、小さな岩の塊だった。

 石弾(ストーンバレット)。地属性の初級魔術によるサレナからの威嚇攻撃。その威力はどうも意識して相当押さえられていたらしいとはいえ、速度や魔術としての完成度は完全に初級のレベルを超えていた。

 そんな規格外の魔術行使をさも当然のようにあっさりと披露してみせた少女は、にんまりと笑って、ベッドの上で腰を抜かしたようになっているヒースへ向けて言い放つ。


「だって、私の方があんたより何十倍と強いもの」


        ☆★


 それは、不敵と表現するのが正しいような。

 そんな笑顔を張り付けたままサレナはゆったりとした足取りで、ベッドの上のヒースへと近づいていく。


「だから、もし今度、さっきみたいに私に変な気でも起こしたら、その時はそこの壁に開けたのと同じ穴があんたの急所にも開くことになる」


 そう言うと、さっきとは逆に、サレナがベッドに座るヒースを腕を組んで見下ろしながら問いかける。


「――それで、どうするの?」


 ヒースはごくりと喉を鳴らして、戦慄と共にその視線に向き合うと、


「なんてメチャクチャな女だよ……」


 観念したように下を向き、大きく溜息を吐いた。

 その後で顔を上げると、不服を何とか理性で抑えつけているような顔つきで手を差し出してきた。


「――ああ、まあ……これからよろしく頼む。……サレナ」


 それを聞いてサレナはにっこりと、まったく毒気のない無邪気な笑顔になると、差し出された手を握る。


「ええ、仲良くやりましょ、ヒース」


 そうして握手をしながら、何故か力なくうなだれたようになるヒース。

 その様子が何だかお手をする犬のようで、心の中で密かに「躾、成功」などと失礼なことを考えるサレナであった。

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