第一対決 VS 恋心 ―11
「ふざけんじゃねえ!! どうしてオレとアイツが同室なんだよ!? 完全に手違いだろうが!!」
ヒースは寮中に響き渡るんじゃないだろうかと思うくらいの大声で、寮監をそう怒鳴りつけていた。
ちなみに「お前も来い」という命令に近い呼びかけに付き合って一応サレナもここまで同行したものの、抗議活動は全てヒースに任せて後ろで涼しい顔をしたまま耳を塞いでいる。
そうしながら、コイツの怒鳴り声はマジでうるさいなぁ、などと暢気に思っていた。
「部屋割りは学院によって決定されたものです。間違いはありません」
そんな恐ろしい剣幕のヒースとは対照的に、カウンターの向こうの寮監はまったくにべもない対応だった。
流石に多感な時期の学生達の生活を管理し監督する役割だけあって、たかが一学生が噛みついてきたところで一切動じる様子もない。
「男と女が同室になることがか!? ふざけんじゃねえぞ!!」
とはいえ、ヒースの抗議も当然の道理に基づくものではあった。
いくら学院寮が相部屋制であるとはいえ、そこは流石に同性同士でルームメイトになるように部屋割りは作成されている。思春期の少年少女なのだから当たり前ではあるが。
男女がルームメイトになるなど前代未聞。というか、常識的に考えてもあり得ないはずだった。
「……学院による決定は絶対です。今年は特別入学の生徒もいるので、そのせいで新入生の数に端数が出てしまったことが原因かと」
とはいえ、寮監も流石にそれがおかしいということには気づいていそうだが、とにかく"学院の決定"という一点張りでとりつく島もない。
「だからって余った数同士で組ませるかよ普通! 一人部屋でもいいだろうが! いいか、今すぐオレかアイツの部屋を変えろ! どう考えてもそっちの手違いなんだから、それが当然の対応ってやつだろ?」
しかし、ヒースはなおも食い下がる。
ほとんどカウンターの向こうに掴みかからんばかりの勢いで、声を張り上げてそう要求した。
「原則として一人部屋というのは認められていませんし、何より現在余っている部屋もありません。部屋の変更は物理的に不可能ですし、そもそも一度出された学院の決定は何があっても覆りません。諦めて部屋に戻りなさい」
「……ああ、そうかい。わかったよ、それが出来ねえってんなら、こんなとこ――」
そう冷徹に切り捨てるような寮監の言葉に、遂にヒースも怒りが限界を通り越したのか、スンと冷めた声で決定的なことを口走ろうとした。
それを――。
「――ヒース!」
遮るかのように、今まで後ろで傍観していただけだったサレナが大声でそう呼びかけた。
「もういいわよ。戻りましょ」
そして、どこまでも冷静な、まるで"何もかもわかりきっていた"というような声で提案する。
「あぁ!?」
それを聞いたヒースは、寮監から視線を外すと、普通の人間であれば震え上がって逃げ出しそうなほど凶悪な目つきでサレナを睨みつけてきた。
「テメェがよくてもオレはよくねえんだよ。部屋に戻るなら一人で戻ってろ」
「そうしたいのはやまやまだけど、あんただってこれ以上は何を言っても無駄だってわかってるでしょ? それとも――」
しかし、そんな目つきにも、脅しつけるようなドスのきいた声にもまったく動じることなく、サレナはいたって冷静な声でそれを告げる。
「これを仕組んできた奴らの思惑にまんまと乗ってやるつもりなの? そうしたいなら"どうぞご自由に"って感じではあるけども」
「――――ッ」
その言葉を聞いて、ヒースも何か思うところがあったらしい。
「――チッ!」
腹いせとばかりにカウンターを思いっきり叩いた後、舌打ちして部屋へと戻る方向へ歩き出した。
「そうそう、いい子いい子」
渋々自分の言葉に従ってくれたらしいその様子に、何だか大型犬の躾でもしているような気分になって、サレナは自分もそれに連れ立って歩き出しながら思わずそんな声をかけてしまう。
「うるせえ! 喧嘩売ってんのか!?」
それに対してヒースは本気の怒りを乗せて怒鳴ってきたが、何だかそういうところも躾のなってない犬っぽいんだよなぁと暢気に思ってしまうサレナであった。