Dive to Witch's world ―3
目を開けると、見慣れた天井が見えている。
小さな頃から住み慣れた、孤児院の天井だ。
「サレナ姉ちゃん!?」
「大丈夫か!? 頭打ったのか!?」
「誰か、すぐに院長先生呼んできて!」
周囲で弟や妹達が騒然とする中で、サレナは仰向けに寝ころんだまま荒い息を吐きつつ、見上げるその天井から目を離すことが出来なかった。
腕の中には、恐怖で泣きじゃくる小さな弟をぎゅっと抱いている。
階段でふざけていて足を踏み外し、転げ落ちそうになった弟。それを咄嗟に助けようとして、一緒になって階段を落ちてしまったんだった。
すぐにその記憶が甦ってきた。
そして、甦っている記憶はもう一つあった。
それは、前世の自分の記憶。
その時サレナが目を離せなかったのは、見慣れた天井からじゃなかった。
目の前にぼんやりと浮かぶ、前世の自分の記憶の残滓――そこから目を離すことが出来なかったのだ。
「わた、しは――」
荒い呼吸と共に、呟く。
動悸が激しいのは、さっき階段を転げ落ちた恐怖のせいだけじゃない。
その時の衝撃で、今まで忘れていた全てを思い出したせいだった。
「私は……!」
私は、"私"。
あの時、神社の石段で滑って転げ落ちて、二十一歳で生涯を終えたらしい"私"。
そして、私はサレナ。
今の私は、『サレナ・サランカ』。
その名前が誰のものなのかを、前世の"私"は誰よりもよく知っている。
それは、主人公。
忘れられるはずもない、短い人生で一番濃密な時間と愛を捧げた乙女ゲームである『Knight of Witches』の主人公の名前だ。
「ということは、つまり――」
その事実を口に出すことで改めて確認するように、呟く。
"私"は、『Knight of Witches』の主人公――『サレナ・サランカ』に転生してしまったのだった。
冷静に計算してみたところ一日一話ずつだと全部投稿し終えるのに三ヶ月近くかかることがわかったので、大体一ヶ月程度で全話投稿出来るようにペースを調整してやっていくことにします。