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このゲームを百合ゲーとするっ!  作者: 一山幾羅
第一対決
26/149

庭園に花は狂い咲き ―8

 なるほどなるほど。

 どうやらアネモネがサレナに絡んできた理由は、入学式での勝手な振る舞いばかりではなく、あの宣言が気に入らなかったからでもあるらしい。


 サレナはそう判断し、自分も不敵に、薄く微笑む。


 そうであるならば、あの宣言はまったくこちらの狙い通りの効果を発揮したということだ。

 ほくそ笑みつつ、サレナは思う。


 この魔術学院には、一つ独特な伝統的制度が存在している。

 それは、毎年その年度において"学内で最も優秀な成績を収めた"と学院側が認めた生徒をたった一人だけ選出し、表彰するというもの。

 選ばれたその生徒は栄誉の証として真っ白な制服ローブを進呈され、そのローブの色にちなんだ『至高の白(エーデルワイス)』という称号を手にすることが出来る――。


 という、そんな制度がもちろんゲーム内においても存在しており、それを知っていたサレナは先ほどの挨拶において自らがその至高の白(エーデルワイス)に選ばれてみせると宣言したのであった。


 そうすることにした理由は二つある。


 一つ目はもちろん、愛しのカトレアさまに認めてもらえるほどの優秀な騎士(ナイト)になるため。

 その目的のためには至高の白(エーデルワイス)に選ばれることくらいは軽々とこなしてみせなければならないだろうし、それを事前に宣言するほどの自信に満ち溢れた態度というものは、きっとカトレアさまの好みに合致するだろうと思われた。


 そして二つ目は、そうすることで攻略対象に好まれそうな主人公(ヒロイン)像から脱却してみせるためであった。

 ナイウィチのゲーム本編においても至高の白(エーデルワイス)というのはかなり重要な要素であり、主人公(ヒロイン)であるサレナがサポートすることでその攻略対象が至高の白(エーデルワイス)に選出されるというのがエンディングの条件となっているルートもいくつか存在していた。

 であるならば、そうやって攻略対象を至高の白(エーデルワイス)に近づける役回りの主人公(サレナ)自身が至高の白(エーデルワイス)になってしまえば、少なくともいくつかのルートに突入してしまう可能性を潰せることなるのではないだろうか。

 それに、新入生代表挨拶で今年の至高の白(エーデルワイス)になると宣言してみせるような野心溢れる態度を示せば、少なくともそのインパクトで、この容貌から誤解されやすい"ゆるふわ系の可憐な美少女"という印象をある程度打ち消すことも出来るだろう。

 全ての攻略対象キャラクターとはこの先関わり合いになってしまうにせよならないにせよ、この学院で出会うのが初対面となる。

 ならば、事前に出来うる限りの印象工作は講じておいて損はない。


 それらが、サレナの新入生代表挨拶の流れを狂わせてでも独断で行った個人的な宣言の真意だった。


 そして、その観点から見て、どうやら二つ目の目的である印象工作は見事に成果を上げているようだった。

 何せ、こうして自分のことを"身の程知らずで生意気な奴"だと見なして突っかかってくるような人間まで現れてくれたのだから。

 とはいえ――。


「…………」


 サレナはこの状況がどうやら"自分の目論見通り"というばかりでもないことを自覚していた。


 いや、それどころか逆に、非常に嫌な予感がし始めている。


 何故ならばこれは、少々その内容は変化しているものの、ゲーム内で本来起こるはずのイベントの流れに見事に乗っかってしまっているような気がするからだ。

 発生自体を避けたはずのアネモネとの諍いが、納得出来る理由からであるとはいえこうして形を変えて起こってしまっているのがその証拠であるように思えてきた。


 このままではマズい。非常にマズい。

 何とか早めにこの諍いを切り上げて、速やかに食堂から離脱してしまわなければいけない気がする。


 ――しかし、どうやって。


 とりあえず、曖昧に笑いながら取りなしてみるべきだろうか。

 ひとまずそう考えて、サレナがふっと笑顔を作ってみると、


「――ッ! 何を笑っていますの!?」


 先ほどサレナが見せた不敵な微笑みと相まって、アネモネはそれを"こちらを鼻で笑ったもの"だと見事に誤解してしまったらしい。

 高笑いから一転、再び怒りの形相へと変わり、声を荒げてそう叫んだ。

 その瞬間だった。


「――何をしているの!」


 凛とした、美しくも芯のある声がその場に響いた。


 それを聞いたサレナは思わず、その場で凍り付いたように硬直してしまう。


 そして、それは何故かアネモネも同様の様子だった。

 先ほどの怒りをさらに爆発させることもなく、サレナと同じようにピタッとその動きを止めている。


 いつの間にか、二人の諍いはそれを何事かと遠巻きに眺めるギャラリーを集めてしまうほどの騒ぎになっていたらしい。

 その人混みが畏怖を籠めたどよめきと共に自ずから左右に退くようにして出来た道を、"その人"は悠然と進んで二人の諍いへと割って入ってきた。


「生徒同士の私的な争いは校則によって禁じられているわ。この学院に今日入学してきた以上、新入生といえどもそれには従わなくてはなりません。例外は一切、認められない」


 艶やかな紫色の、うねるようなロングヘアー。光り輝くその美貌。

 その身を包む学院制服と三年生であることを示す赤いローブは、自分が着ているものと同じ服とは思えないほどに、まるで誂えたドレスのようにその人を美しく着飾っていた。

 そんな、神が下界にもたらした奇跡のような容姿を与えられた人間は、この世界にたった一人しか存在しない。


「カトレアさ――」

「カトレアお姉様……!」


 サレナがその人の突然の登場に呆然としながらも思わず愛しいその名前を呟こうとした瞬間、まったく同じタイミングで被せるようにアネモネもその名前を口にした。


 そう。二人の諍いを仲裁するために割って入ってきたのは、まさしくサレナの最愛の人――カトレア・ヴィオレット・フォンテーヌ・ド・ラ・オルキデ、その人に他ならず――。


「あら……? あなたは……」


 不意に目が合った瞬間、驚くべきことにカトレアさまの方でもサレナが誰であるのかに気づいたらしい。


 サレナとカトレア。お互いに全く予期していない、まさしく運命的な再会であった。

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