庭園に花は狂い咲き ―1
その場所は、前世の知識に照らし合わせて表現するならば巨大な"講堂"だった。
そんな講堂の中で現在、サレナは周囲に倣って整列し、行儀良く背筋を伸ばして立っていた。
見渡せばこの講堂には現在、窮屈と言う程ではないとはいえ、結構な人数の人間が詰め込まれている。それはもう、百や二百じゃきかない程度の数だ。
学院に在籍する生徒と教師を含めた全ての人間が今ここに集められているのだから、そんな数になるのも当然なのだろう。
そして、今日からは自分もその一人に仲間入りというわけか。
サレナはそう思いつつ、今の自分の服装を確認するようにチラと眺めてみる。
黒と白のツートンで形成された、ブレザータイプの学生服。違いがあるなら男子はズボンで、女子はスカート。自分も当然スカートだ。
そして、その上には、自分達が魔術を操る存在であることを示すためのある種の伝統や様式美のように、腰までの丈のローブを羽織る決まりとなっている。そこまでを含めて制服とされているのだ。
それはまさしく、サレナが生前『Knight of Witches』というゲームのパッケージやその他イラスト、ゲーム内における立ち絵やスチルで何度も目にしてきた、魔術学院の制服そのものだった。
それに今、自分もようやく身を包んでいる。
これまでの着古した白いワンピースじゃない、憧れの服。
今は自分がゲームにおいての主人公である以上それはむしろ見慣れた、当然そうなるべき姿であるはずなのだが、三年かけて何とか無事にここまで辿り着けたことを思うと、サレナの心に妙な感慨を抱かせた。
今、サレナが羽織っている自分のローブの色は、かなり黒に近い色合いの濃い群青であった。
学院の制服は、そのローブの色によって三つある学年を見た目で区分出来るようにされている。
三年生はこれも黒に近い濃い赤色のもの、二年生もまた黒に近い濃い緑のものとなっている。基本的にビビッドなものは用いずに、落ち着いた暗めの配色を好む学院であるようだった。
そして、サレナの羽織る群青は一年生の色。
きっちりと整列させられた、自分の周囲にいる子達も皆同じく群青のローブを羽織っている。
ということは、言うまでもなく今サレナが混ざって立っているのは、魔術学院一年生の集団の中。
そして、ただいまの季節はまさに春であり、サレナの見渡す範囲にいる子達の顔は皆それぞれ多少の緊張と興奮を浮かべた、初々しさに溢れるものだった。
少しばかり遠くに見える、赤色を羽織る三年生や、緑色を羽織る二年生の落ち着き払った表情と態度には、まだまだ程遠い。
つまり、ここにいるそんな一年生達は、サレナも含めて全員がピカピカの魔術学院新入生というわけである。
そして、そんな新入生を含めた学院内の全ての人間が集められて行われる式典とは、まさに一つしかない。
入学式。サレナは今、その真っ最中にいるのであった。
その催しの一パートとして、現在サレナがぼんやり視線を向ける先の壇上では、真っ白でフサフサの偉そうな髭を生やした偉そうな人が、何やら偉そうな話をしておられる。
……おられるのだが、サレナは真面目な顔で全部適当に聞き流していた。恐らく学長か誰かだとは思うのだが、正直全くその人にもそのお話にも興味はない。
「…………」
そんな風に黙って態度だけは周囲の新入生達と同じく真面目を装いつつ、学長らしき人のありがたいお話は全部右から左に素通りさせながら。
サレナはその間の暇潰しに、少しばかりここに至るまでのことを思い返してみる。