変えろ運命、倒せドラゴン ―5
サレナが目を細めて睨む地平の先に、ようやく"そいつ"は現れた。
蜥蜴に格好良さと幻想的なスパイスを目一杯振りかけて巨大化させたような外見で、翼をはためかせながら"それ"は猛スピードでこの街へと向かって向かってきている。
真っ赤な鱗に覆われた表皮をギラギラと輝かせる、火龍。
「ん~……」
その姿を目視で確認すると、次にサレナは遠眼鏡のように筒状にした片手を眼球の前にかざして目をこらし、まずは火龍との距離を測って狙いをつける。
「……回路図構築――成功。空間展開――完了。……魔力充填――」
さらに、そうしながらもサレナはぶつぶつとそんなことを呟きつつ、何かを捏ねるように片手の指全部をぐにゃぐにゃと動かし続ける。
それは、魔術発動のための回路図を空間へと構築する時の動き。
それに合わせて、サレナの片手の周囲へ黄色に光輝く魔術の回路図が纏わり付くように描かれていく。
「――最大充填……!」
最後にそう言うと、サレナは黄色に発光する回路をその周囲に纏った片手をバッと上に掲げる。
すると、その手の先に、バチバチと青色に輝く雷を幾本も集めてひとまとめに束ね、さらにそれを強引に巨大な球体に固めたようなものが突如として出現した。
それはまさしく直径数十メートルはあろうかという球形の、青く弾け続ける"雷の塊"。
「<<轟雷圧壊弾>>……!!」
その魔術の名前を唱えながら、サレナは掲げた片手をさらに後ろへ振りかぶってから、
「――っけぇぇ!!」
思いっきり、火龍の飛んできている方向めがけて振り下ろした。
それと同時に、その雷の球塊が、炸裂した火薬に押し出される砲弾のような勢いで発射された。
雷の砲弾はそのまま恐るべき速度で真っ直ぐに、火龍の方へとかっ飛んで行き――。
「――――ッッ!?」
バッチリ、サレナの狙い通りに、標的へと着弾した。
どうやら猛スピードで飛んでいった雷の砲弾は相手に避けさせる暇も与えない不意打ちとして作用したらしく、火龍はそれと正面衝突してから初めて攻撃に気づいたようだった。
雷の砲弾はまずその物理的な衝撃によってこちらに飛んできていた火龍の動きを押し止め、次に全身に伝播する雷撃で麻痺させ、地面へと撃ち落とした。
「……ヨシっ!」
自分の発動させた魔術が思った通りの効果を発揮してくれたらしいことを確認したサレナは満足げに一度頷く。
『轟雷圧壊弾』。雷属性の初級魔術である『雷矢』をサレナが勝手にアレンジして発展させたオリジナル魔術だったが、なんとか火龍に通用してくれて良かったとサレナはひとまず安心する。
実際は龍を一撃で撃ち落とすような威力を持った魔術を発動出来るような人間はこの世界に一握りしか存在していないのだが、比較する基準をまだ知らないサレナはあくまでそれが初級魔術の応用でしかないと思い込んでいる。
なので、当然この程度の攻撃で火龍がやられてしまったとも思っていない。
サレナにとっても今のはあくまで火龍をしばらく雷撃で麻痺させて足止めすることを主な目的として発動させたものだった。
となると、いつまでもここで攻撃命中の満足感に浸っているわけにもいかない。
「――よっ、と……!!」
サレナは意を決して駆け出すと、そのまま外壁の端から空中へと身を踊らせる。
街をグルリと取り囲む外壁は、市街地を外敵から守護するという目的上当然その高さも決して低くはない。少なくとも、人間が普通にそこから飛び降りて無事で済むようなものではない。
だが、サレナはそうして飛び降りながらも器用に風属性の魔術を発動して自分の体を吹き上げる風を起こし、見事に着地の衝撃を相殺して無事に地面へ降り立ってみせる。
「ほっ――――」
それどころか、その吹き上げる風の威力を更に調整し続けながら着地と同時にまた空中へと高く跳び上がり、そのまま数十メートル単位の大ジャンプを繰り返すようにして移動し始めた。
これならば、普通に走るより何十倍も素早く移動することが出来る。
しかし、これも運動能力向上の鍛錬で身につけた身体操作能力と、卓越した風属性の魔術の腕を必要とする、サレナにしか不可能な荒業であった。
それを大いに活用して、サレナはさほど時間をかけることなく、撃ち落とした火龍の眼前へと到達した。