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このゲームを百合ゲーとするっ!  作者: 一山幾羅
第二対決
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第二対決  VS 婚約者 ―17

 もう何度目になるかわからない迎撃の末、グラディオの眼前でようやくサレナはうつ伏せで地面に倒れ込み、ピクリとも動かなくなっていた。


「ハァ……ハァ……」


 荒い息を吐きながらも、グラディオは確信と同時に多少の安堵をも得る。

 ようやく終わった。

 流石にこの状態で立ち上がってくることはないだろう。


 観客達もそう思ってしまったのだろうか、いつの間にかサレナへの応援の歓声は止まり、悲痛な沈黙だけが漂っていた。

 立ち上がれと呼びかけることすら躊躇われるような様相なのだ。


 勝敗は決した。これ以上試合場(ここ)にいる意味はないだろう。

 そう考え、グラディオは倒れ伏したサレナへと一瞥だけをくれた後に無言で背を向ける。

 折角の勝利だというのに晴れやかさは微塵もなかった。

 それどころか、こんな小娘にここまで精神的にかき乱され、恐れを感じさせられ、手を焼かされた。

 それに対する憤りにも似た悔しさがグラディオの腹の底で渦巻いている。

 まったく面白くない気分だった。


 まあいい、それでも勝ちは勝ちだ。誰にも文句は言わせはしない。

 全てをそれで片づけて、早々に忘れ去ってしまおう。

 そう思いながら、グラディオは試合場から立ち去るために一歩を踏み出そうとして――。


「――――ッ!?」


 そのズボンの裾を何かが掴んでいて動かせないということにそこで気がついた。

 刹那、グラディオの背筋に凍り付きそうな寒気が走る。

 そして、再び甦る、試合中に感じていた恐れ。

 それは、裾を掴んでいる感触が次第に己の太股の部分、腰、背中と移動していくのに比例して更に増幅していった。

 驚愕のあまりその場で硬直し、棒立ちになったまま動けないグラディオの背を掴んで引っ張りながら、何者かが立ち上がろうとしている。

 苦痛に喘ぎ、声にならない呻きを漏らしながら。

 それが耳元で聞こえた瞬間、グラディオの動揺と恐怖は頂点に達してしまった。


「はっ――離せぇぇぁッ!!」


 取り乱したような叫び声を上げながら、グラディオは背中に張り付いたサレナを振り払おうとその場で急旋回し、大きく片手を振るう。


 さらに、咄嗟のその行動はそれだけでは済まなかった。

 グラディオは我知らず、その振るった片手に黄色の発光回路を展開してしまっていた。


 そして、その手の先から扇状の電撃が放射される。

 グラディオ自身の属性である雷の魔術。

 それがサレナに直撃し、振り払うどころかその身体を大きく吹き飛ばした。


 吹き飛んだサレナはそのまま受け身も取れずに地に転がり、倒れたまま動かなかった。


 あまりにも信じられないその光景に、世界から音が消えたように静まり返った。

 誰もが皆、呆然としていた。


 しかし、一番自分のしでかしたことを信じられなくて呆然と虚脱してしまっているのは、魔術を放ったグラディオ本人であった。

 サレナに対する恐怖のあまりに錯乱し、完全に無意識で魔術を使ってしまったのだった。

 自分が精神的にそこまで追い詰められてしまったことも、そこまでの恐怖と危機意識をサレナに感じさせられた挙げ句に魔術まで使わされてしまったことも。

 全てがとても現実のこととは認められず、グラディオは茫然自失のまま、魔術を放った自分の手を震えながら見つめることしか出来なかった。


「はっ――反則だぁぁ!!」


 そこから一拍置いて、観客席からそんな叫び声が飛んできた。

 それを皮切りに、観客席から爆発したような怒号が試合場へ向けて殺到する。

 その内容は主に"グラディオの反則負けだ"と主張し、その行動を非難するものであった。


 それも当然であろう。

 剣術大会では魔術の使用が一切禁止されており、純粋に剣術と己の身体能力のみで戦うことが絶対のルールとなっている。

 グラディオはそれを破って魔術を使ったのだ。言い訳のしようもないくらいにハッキリと、である。

 反則負けとの誹りを受けても仕方ないどころではない。


 観客達がさっきまでサレナに肩入れしていたことも反則を犯したグラディオへの反感を助長し、よりそのブーイングを大きくした。

 どこぞの席にいるピンク髪と銀髪の一年生コンビからはエスカレートしすぎているのか「腹を切れ!」という暴言まで飛んできている。


 しかし、そんな自分への非難の声すら一切耳に入っていないかのように、グラディオは放心状態でその場に突っ立ったままであった。

 一気に混沌とした雰囲気へと陥る試合会場。

 だが――。


「な~んだ」


 その騒然とした空気を切り裂くようにして、不意にそんな声が響き渡った。


 それを聞いた瞬間、思わず誰もが驚愕で口を噤み、再び会場が静まり返る。

 その声を発したのが一体誰であるのか、全員がそれを理解しつつも、同時に信じられないという気持ちで一斉に視線を向ける。


 それが集まる先、今まで仰向けで死んだように倒れたままだったサレナが、バネ仕掛けを思わせる軽快さでピョンと跳び起きた。

 そして、その顔をにんまりと不敵な笑顔に歪めながら、こう言い放つ。


「魔術使っても良かったんですね」

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