表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このゲームを百合ゲーとするっ!  作者: 一山幾羅
第一対決
14/149

変えろ運命、倒せドラゴン ―4

 実はこのオープニングイベント、単純に物語の起こりを描いただけのものではないのだ。

 まず元のゲームにおいては、咄嗟に火龍の炎を防ぐことが出来たとはいえ、その時のサレナがそのまま火龍を倒せるような力に目覚めたわけではない。

 火龍は自分の攻撃が防がれたことに驚きを覚えつつも、すぐさま再びサレナ達を仕留めるべく炎を吐こうとする。

 一方、サレナも突然目覚めた自分の魔力に驚き、混乱の余りに呆然としてしまっていて、もう一度その攻撃を防ぐことが出来そうにない。


 その時、サレナと火龍の間に割って入る人影。


 その人影は間一髪のところで火龍の攻撃を防ぎ、華麗にサレナの窮地を救ってみせる。

 勇敢なその姿。頼もしい背中。

 それにサレナが思わず見惚れてしまう中で、その人は追いついてきた龍害鎮圧班と連携して戦い、見事に火龍を討ち果たす。

 その後で、その人は、腰が抜けたように座り込んだままその光景を見ているしかなかったサレナに手をさしのべ、「大丈夫かい?」と囁きながら優しく抱き起こしてくれるのだった――。


 そして、その人物こそが、何を隠そうナイウィチにおける攻略対象キャラクターの一人というわけである。


 つまり、このオープニングイベントは物語の始まりにして、ゲームにおける一番最初の"騎士(ナイト)様との胸キュンイベント"にもなっているのだ(しかも美麗なスチル付き)。


 もしもサレナがこの人生で普通にその時助けてくれる攻略対象キャラクター(ナイト様)との恋物語を望むのであれば、そのイベントは何をおいても発生させておくべきものだろう。

 しかし、今のサレナはどこまでもひたむきにカトレアさま一直線。望む人生(ルート)はカトレアさまと結ばれるもの、ただそれのみである。


 であれば、むしろそういうノイズはなるべく避けておいた方がいいのかもしれないとサレナは考えていた。

 この世界(ゲーム)は、やはり基本的にはどこまでも乙女ゲームのそれである。

 そうとなれば、もしかしたら存在しているかもしれない何かしらの"ゲーム的な補正"と合わせて、気を抜くとサレナ(じぶん)と攻略対象との恋愛を優先して発生させようとしてくるような世界となっている可能性がある。

 ここが元は乙女ゲームの世界である以上、そんな世界で何よりも優先されるべき事象――絶対正義の概念とは、"主人公(ヒロイン)攻略対象(ナイト)のラブロマンス"のはずだと考えておいた方がいいだろう。


 そして、だからこそ、サレナ(わたし)はゲーム本編のイベント通りに攻略対象(ナイト)達と出会ったり、関係を重ねていくことを出来るだけ避けていかなければならない。

 何故なら、その"イベント"とは、大体の場合において攻略対象からの好感度を高めてしまうものとなっているのだから。


 とはいえ、サレナ(わたし)自身の心に限るならば、別にそれが起こったところで問題はないといえばない。

 カトレアさまが人生における至上の存在である以上、見目麗しい攻略対象(ナイト)達とのどれほどの胸キュンイベントであろうとも、この心が寸分たりとも揺らぐことはないという確固たる自信がある。


 しかし、こちらは何とも思わない自信があっても、向こうから勝手に想いを寄せられてしまうかもしれないとなると話は全く別である。

 そして、そうやって勝手に誰かから想いを寄せられてしまうだけならまだしも、どうも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というものを、今からビンビンに感じられてしまっているのだ。


 だからこそ、そんな危険性に対する究極的な対策として、サレナはこの先、攻略対象の誰からも恋愛的な感情を全く抱かれないようにしていく心積もりであった。


 実は最初にした『ゲームの通りのサレナからは脱却していく』決意というのも、その目的はカトレアさまの好みのタイプに合わせていくためばかりでもなかった。

 そういう『攻略対象から惚れられない』という対策のためにもそうするべきだろうとの思惑が存在していたのだ。

 お淑やかで可憐なサレナのままでは、攻略対象キャラクター達からの好感度がそれだけで上昇してしまう危険性がある。

 であればこそ、"主人公(ヒロイン)という立場を捨て去って攻略対象(ナイト)を目指す"というのは、カトレアさまの理想の恋愛対象へと近づきながらも、同時に攻略対象のキャラクターの恋愛対象から遠ざかっていくという、まさしく一石二鳥の方策なのであった。


 そしてまた、そんな思惑をより完璧な形へと近づけていくためにも、サレナはここで単身、ドラゴンへ立ち向かっていく必要があった。


 何故ならば、それはまさしく文句のつけようもないほどの英雄的行為――騎士(ナイト)様に守られ、助けてもらうだけの主人公(ヒロイン)からは程遠い、お姫様失格の行いであるのだから。


 そして、見事にそれが達成されれば、少なくともあらゆる人間に対するサレナの印象を強引に、お淑やかで可憐な美少女という()()からは変えてしまうことが出来るだろう。


 ……とまあ、そういった様々な想いと目論見が自分の中で絡み合った末に、今回サレナは思い切ってオープニングイベントの流れをまったく別のものへ作り替えることにしたのだった。


 まずは、当初のイベントの流れのままに攻略対象の一人と出会ってしまうことを回避するため。

 次に、誰かに助けられて守られるだけの主人公(ヒロイン)――"お淑やかで可憐なサレナ"という自分の印象を、誰にとっても塗り替えてみせるために。

 そして、最後にしてやっぱり最大の目的。

 生まれ育った街と、そこに住む人達を守るため。

 自分を愛してくれて、自分もそれに負けないくらいに愛している――そんな大切な家族を、傷つけさせたりしないために。


 そんな目的の全てを達成するために――。


「他の誰でもない私――サレナ・サランカが、あんたをぶちのめしてやるわ、火龍(ドラゴン)


 それをやってのけてみせた上で、サレナ(わたし)はこの先へ進んでいく。

 あの人との出会いへと、辿り着いてみせる。


 そして、最後にサレナの頭に浮かぶのは、ちょっぴりだけ我が侭で、自分勝手な、子供じみた憧れ(がんぼう)


 そんでもって、サレナ(わたし)は――。


 サレナは視線の先にようやく現れたその姿を睨みつけながら、我知らず声に出してそれを叫ぶ。


「――"ドラゴンスレイヤー"という実績を、ゲットしてやる!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ