第二対決 VS 婚約者 ―11
しかし、それ以降の試合展開は、互角の対決というよりはむしろ悪趣味な公開処刑の様相を呈することとなった。
サレナは果敢にグラディオへと挑みかかり、幾度となく剣を振るった。
しかし、その攻撃は一度もグラディオの身体へ届くことはなかった。
全てを見事に受け止められ、防がれ、弾かれた。
そして、そうやって攻撃を弾かれたり、あるいは相手の攻撃を受け損ねたサレナに隙が生じたところで、グラディオからの容赦ない一撃が繰り出される。
それは防御も出来ないままサレナの身体に直撃し、その度にサレナは吹き飛ばされ、地面に倒れ転がることとなった。
しかし、苦悶の呻きを上げ、痛みにのたうちながら、それでもサレナは何度も立ち上がる。
それはサレナが強靱な精神力を持っているからというのもあるだろう。
長年の鍛錬のおかげでそれなりに頑丈な肉体を作り上げられたからというのもあるだろう。
だが、一番の理由はやはりそう出来るようにグラディオが手加減して攻撃しているからであった。
そのことは、そんな悲惨な試合展開を眺めているだけの観客達でも察せられるものであった。
皇帝はサレナがギリギリ立てるように手加減して攻撃を加え、彼女をいたぶることを楽しんでいる。
そして、彼女の心が折れて自分から負けを認めるまでそれを続けるつもりだ。
観客である学院生達はいつしかそう悟り、試合開始当初の熱狂や興奮などは完全にどこかへと消え去ってしまっていた。
代わりにその惨たらしい公開処刑となった試合に眉をひそめ、静まり返るばかりであった。
あまりにも残虐なそのグラディオールの所業に、非難するような目も向けられ始めていた。
だが、誰もその試合を止められはしなかった。
試合の勝敗を他者が下せる形ではなかったからというのもある。
しかし、それ以上にやはりそんな暴行を公衆の面前で平然と行えるグラディオールに誰もが恐怖して固まっていたからという理由が大きいだろう。
そう、グラディオールはそんな会場の雰囲気や自分へ向けられる眼差しを一切気にもとめることなく、淡々とサレナをいたぶり続けていた。
その様子は、この男の中に本当に人の心というものが備わっているのか誰しもに疑問を抱かせるものだった。
だが、一部の者達――そんな悪魔か何かとしか思えないようなグラディオールに臆することのない気力を持っている者達にとっては、また別のことが試合を止めることが出来ない理由となっていた。
サレナがそんな風にどれだけ手酷く打ちのめされ、返り討ちにあい、痛みと苦しみに呻いても、未だに立ち上がり続けていたからだった。
だから、サレナがそうやって立ち上がり続ける限りはどれだけ止めたくとも止められなかった。
いい加減、もうどれだけそれが続いているのか、誰もわからなくなっていた。
そうしている本人達もそれは同じだろう。
サレナは満身創痍という言葉でも足りないような状態だった。
グラディオの唯一の"情け"なのか顔だけはまったく攻撃されていなかったが、それ以外の全身は何度も打たれ、殴られ、地面を転がったせいでもはやズタボロであった。
しかし、それでもサレナは木剣を支えによろよろと立ち上がっては、諦めずにグラディオールへと向かっていった。
その剣に最初のような鋭さは微塵も残っていない。
それでもサレナは懸命にそれを振るい、グラディオールを打ち倒そうとする。
そして、その度にまた返り討ちに合い、手加減された一撃で吹っ飛ばされて地に伏せる。
だが、しばらくすると再びよろよろと立ち上がろうとし始める。
そんなサレナの姿のあまりの痛ましさに、その内観客達の誰もが「もうやめてくれ」と思い始めた。
もういい、もう立たないでくれ。
お前が強いことは十分わかった。
これだけあのグラディオール相手に粘ったのだから十分誇ってもいい。
だから、もう負けを認めてくれ。これ以上ボロボロにされる姿を見ていたくない。
観客達はほとんどそう願うような視線をサレナへと向けるようになっていた。




