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このゲームを百合ゲーとするっ!  作者: 一山幾羅
第一対決
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変えろ運命、倒せドラゴン ―3

 手慣れた様子で塀の上に駆け上り、そこから次は家々の屋根の上へと、そして屋根から屋根へと飛ぶように走る。

 そんなことをしばらく続けて、サレナは程なく街をぐるりと取り囲む巨大な外壁の上へと到着した。


 そこで、ようやく足を止める。


 背後には生まれ育った街を一望する風景。前方には広大な山野が広がっている。


 さて。

 全速力で走ってきたことで多少上がっている息と鼓動を落ち着けるために、サレナはゆっくりと大きく深呼吸をする。


 そうしながら、一旦状況を整理してみることにした。


 まずは自分がここにやって来た目的。

 それは、今日この街に降ってくるはずの火龍を、その前に街の外で食い止めるためだ。


「…………」


 目の前に広がる地平線の向こうを目を細めて眺めながら、サレナは思う。


 先ほど広場でサレナの背に走ったビリビリとした感覚は、サレナが街の外に張り巡らせていた『魔力警戒線』に反応があったことを知らせるものだった。

 魔力警戒線――それは、サレナが自己流魔術訓練の中で開発したオリジナルの魔術。魔力を薄く、広く自分の周囲の地面を這うように延ばして展開させることで、その展開した魔力の範囲内に踏み込んだ存在を感知することが出来るというもの。

 精度を細かくすればするほど展開出来る範囲は狭まるが、大雑把でいいならサレナの反則的な魔力量であれば半径数十キロ程度まで拡張することも出来る。

 さらに、感知したい対象が巨大であったり、強い魔力を持っていたりすれば尚更、どれだけ遠くにあっても感知は容易かった。

 そんな風に街の外まで展開しておいたその魔力警戒線に、サレナの読み通りにそいつは引っかかってくれた。


 暴れ狂う例の火龍が、ゲーム本編で展開されていた物語の通りにこの街へと近づいて来ているのだった。

 そして、サレナは今からたった一人でそいつに立ち向かうつもりでいる。


「――――」


 サレナは魔力警戒線の中をどんどん進んできている火龍を感知しつつ、ぼんやりと地平線を眺め続ける。


 もちろん、サレナがそんな危険な真似をせずとも、ただ待っていれば本編の通りに事は無事に進行していくことだろう。

 それはサレナにもわかっている。

 無事に――そして、最初から知っていた通りに火龍が街に降ってきて、街は破壊され、人々は傷つき、逃げ惑い、大切な弟妹達も途轍もない恐怖を味わうことになる。


 しかし、だとしても本編の通りであれば、少なくともサレナはそこで死ぬことはない。

 魔力が目覚めて、自分と子供達に迫る火龍の炎は防げる。

 そして、それさえ防げば、後は追いついてきた龍害鎮圧班が火龍を倒してくれる。


 それこそが、ナイウィチのオープニングイベントの正しい流れ。


 本編の通りに事態を進行させていくことが目的であれば、そうしておくのが正解だというのはサレナ自身にもわかっている。

 何も無理にその流れをねじ曲げて、色々な意味でリスキーな行動を起こす必要性は皆無だろう。それは、十分わかっている。

 わかっているのだが――。


「…………」


 サレナはふっと背後に目をやり、眼下に広がる街を見下ろす。


 ――それがわかっていても、前世の記憶が戻ってから三年も、その前からなら十五年も生まれ育ったこの街。


(それが滅茶苦茶になってしまうことをわかっていながら、黙って見過ごすなんてことが出来るはずないじゃない……)


 そう思いながら、サレナは前方に向き直る。


 そりゃあ、三年も暮らしていれば、様々なものに愛着が湧いてしまうのも当然だろう。

 風光明媚と称えられる程ではないものの、心が落ち着く、穏やかで優しい街並み。美しい街の風景。

 そこで暮らす、サレナの成長をずっと見守ってくれた顔馴染みの住人達。

 裕福ではなかったが、それでも不遇や不幸を感じさせることなくこの歳まで愛情持って育ててくれた孤児院と、そこで働く優しい先生達。どこまでも無垢に自分を慕ってくれる、可愛い弟妹達。心の底から大事だと思える、サレナ(わたし)の家族。


 それが、歴史(ゲーム)に定められている運命とはいえ、ある日突然、理不尽に蹂躙されるなんてことがあっていいはずがない。

 そして、そうなる運命を知っていながら、自分の目的のためだけにそれを看過するなんてことを自分自身に許せるはずもない。

 だから――。


「そんな運命、私がひっくり返してやる……!」


 そのために、今からサレナは火龍にたった一人で挑みかかろうとしているのだった。


 大丈夫だ。そのためにも、一生懸命魔術の修行を積んできたのだから。

 三年間の自己鍛錬の日々の中で、"それをやれるかもしれない"という自信が持ててきたからこそ、サレナはそうすることに決めたのだ。


 それに、この行動によってオープニングイベントの流れを大きく変えてしまうことへの対策だって忘れていない。


 要はこのオープニングイベントは、最終的にサレナが魔力に目覚め、『サレナの体には魔力が宿っている』ということが公になり、周囲に知られてしまうということが求められる結果となっているものなのだ。

 ということであれば、まず今のサレナは既に魔力に目覚めているので第一目標はクリアされている。

 そして、次にどこかで大っぴらにその魔力を披露してしまいさえすれば、二つ合わせてオープニングイベントによって得たい結果は見事に達成されることになる。


(だから、その"結果"さえ得られてしまえば、"過程"が多少歪んでしまったところでさしたる問題にはならないはず!)


 たとえ、その"過程"が『魔力に目覚めたサレナが、それを用いて火龍を一人でぶちのめす』というものに変わってしまったとしても、それで得られる"結果"に違いがなければ、この後のゲーム本編自体の流れを大きく変えてしまうことにはならない。


 ……そうだとも。うん、そのはずなのだ。


 サレナは自分に言い聞かせるかのようにそう思いながら、腕を組んで何度も頷く。

 うむ、まさしく完璧な作戦である。サレナ(わたし)ってば本当に冴えてる。


 それに、実はそう(オープニングイベントの流れを変えておく)しなければいけない理由はそれだけというわけでもなくて――。


「あまり"元のサレナ"と同じように攻略対象と出会うのは、なるべく避けておいた方がいい気がするんだよなぁ……」


 眉間に皺を寄せた思案顔で、サレナはぽつりとそう呟く。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 私はこのコンセプトが本当に好きです!主人公が自分自身を改善し、長く厳しいハードワーク、献身、そして学習と改善のプロセスを楽しむことによって「チート」レベルの力に到達することに専念しているの…
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