愛のために剣を持て ―11
男子と女子、両方の決勝が終わった後は、表彰式が開かれることになっていた。
といっても、仰々しく試合場のど真ん中に上がって表彰されるのは優勝者のみ。
割合簡素なものである。
さて、サレナは今そんな優勝者として、誰かもよく知らないような教員の一人からありがたいお言葉を適当に賜っていた。
隣では同じく神妙ではあるものの果たして真面目に聞いているのかいないのかわからないような顔で男子の部の優勝者、グラディオールが佇んでいる。
観客席では大勢の他の生徒達がこの光景を眺めているが、先ほどの決勝戦の時のような盛り上がりはなくひたすらに退屈そうな様子である。
それも当たり前か。
自分自身もあくびを噛み殺しながら、サレナは思う。
あれだけ盛り上がった剣術大会の最後が、こんな地味で簡素な表彰式ではそうなるのも無理はあるまい。
そして、そうだと言うのであれば、ここは自分が一肌脱いでやろうではないか。
サレナは相変わらず式典の言葉を聞き流しつつ、そう密かに決意を固める。
……今から全員否応なしに盛り上げてやるから――その代わり、私の計画に協力しろ。
サレナが心の中だけでそう呟くと同時に、ようやくありがたい表彰式が終わりを告げた。
教員が脇に退き、最後に優勝者に対する会場全員からの拍手が送られる。
まあまあこんなもんでしょという拍手が響く中で、次に優勝者がその場で一礼をするというのが教えられていた流れであった。
サレナもグラディオもそれには素直に従い、軽く頭を下げる。
それで剣術大会は滞りなく終了、そのはずであった。
「グラディオール先輩」
あとは優勝者が試合場から退場するのみというその時に、突然サレナがグラディオへ声をかけた。
「……なんだ?」
グラディオの方は、こんな状況で声をかけられるなど想定もしていなかったのだろう。
立ち止まると、何の含みもない、純粋に不思議そうな顔を向けてきた。
あの、あわやお互い喧嘩になりかけた騒ぎ以来、サレナはグラディオとの接触を一切絶っていた。
こちらが向かってこないと見るや、グラディオの方もそこまでの執着をまだサレナへ抱いてはいなかったのか、向こうからも敢えて近づいてくるようなことはなかった。
そうして互いに会話をすることもなく三週間であった。
もはや縁が絶たれたと考えてもおかしくない期間である。
そうだと言うのに、わざわざこんな状況でようやく声をかけてくるとは一体如何なる了見なのか。
グラディオはそんな風に思っていそうな表情で、サレナの方へと向き直った。
サレナも声をかけた時点でグラディオの方を向いていたので、これで二人はお互いに正面から向き合う形となった。
そして、サレナはグラディオを真っ直ぐ睨みつけながら言い放つ。
「いつぞやの話を、受けてあげますよ」
二人がそうやって向き合いながら立ち止まっていることに気づいた観客や教員達から、軽い疑問のざわめきが起こり始める。
自分達に再びそんな注目が集まっていることを感じつつ、サレナはこの時のためにわざわざつけていた真っ白な手袋をゆっくりと外した。
そして、訝しげに目を細めながらその動作を黙って見ていたグラディオールの顔面に向かって、
「――――!?」
パサッと、軽く放るように投げてぶつけると同時に、声高に宣言する。
「あなたに決闘を申し込みます、グラディオール・フォン・レーヴェンツァーン!」




