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このゲームを百合ゲーとするっ!  作者: 一山幾羅
第一対決
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変えろ運命、倒せドラゴン ―1

 さて、それでは事が起こる前に一度、ナイウィチのゲーム本編内で起こるオープニングイベントの内容について少しおさらいしておこう。


 まず、自分の十五歳の誕生日に、サレナは弟妹達を連れて街で誕生日パーティーのための買い物をしていた。

 そこへ突然、空から火龍が街へと降ってくる。


 実はナイウィチというゲームは魔力と魔術という概念も実在していれば、(ドラゴン)という幻想的な生き物も普通に生息しているまあまあファンタジーな世界観なのだ。


 しかし、ナイウィチにおける(ドラゴン)は、その存在と姿形は幻想的でロマンチックではあっても、生態は全くそれとはかけ離れている。

 基本的には大人しく、知能も高い、生息域にわざわざ近づいて危害を加えようとしたりしなければ人を襲うこともない野生動物である。しかし、稀に凶暴化して理性を失くし、本能のままに暴れ回って目に付くもの全てに襲いかかるような個体も存在している。


 そして、一旦そうなってしまった(ドラゴン)ほどタチの悪い生き物はいない。


 何せその体躯は優に数十メートルを越す巨体である。どころか、それは鈍重そうな見かけを裏切るかのように機敏な移動を可能にするしなやかな筋肉と、刃物すら弾くような固い鱗と表皮で構成されている。その上、翼を持っていて空まで飛ぶ。

 そんな生物が破壊衝動のままに暴れ回るというだけでも頭を抱えたくなるのに、極めつけとして(ドラゴン)は魔力を持っており、魔術も扱うというのだ。

 しかし、人間のような精緻な魔術を扱うほどの技術と知能はないようで、(もっぱ)ら己の持っている属性を単純な吐息(ブレス)攻撃として繰り出す程度ではある。

 それでもその巨体から吐き出される様々な属性の攻撃は十分以上に脅威であり、それをまともに浴びてしまえばどんな生き物だろうがひとたまりもない。


 理性を失くして凶暴化した(ドラゴン)は、まさしくその世界における"災害"と表現してもいい存在だった。


 なので、ひとたびそんな(ドラゴン)よる災害――『龍害』が発生したとなれば、すぐさま強力な魔術を扱う力のある人間が集められ、数十人がかりでその鎮圧にあたることになる。

 この世界において魔力を持ち、魔術を扱える人間が珍重されるのは、こういった龍害対策要員としての側面も存在していた。


 そして、当たり前だが龍害は極力人里離れたところでその鎮圧が試みられる。

 山野においてすらその被害は甚大なものとなるのに、それが街中でとなると一体どれだけの犠牲が発生するのか計り知れない。

 なので、当然その火龍による龍害も偶然サレナの住む街からほど近い場所で発生してしまったとはいえ、何とかそこで食い止めておいて鎮圧されるはずだった。


 しかし、その火龍の力を見誤ったのか、鎮圧にあたった人間達の中に油断があったのか、ギリギリのところで鎮圧班は火龍を取り逃がしてしまう。

 それがサレナの住む街まで到達してしまい、突如として市街のど真ん中へと降ってきたというわけだった。

 更に、何とも運の悪いことに、火龍は買い物をしているサレナ達のほぼ目の前に降ってきてしまうのだ。


 火龍の着地による被害こそ受けなかったものの、目の前にそんなバケモノが突然現れた衝撃と混乱は相当なものだったのだろう。突然の事態にサレナと子供達は腰を抜かして泣き叫ぶしかなく、逃げることも出来ずにその場に固まってしまう。

 そんなサレナ達に気づいた火龍が、鬱陶しいとばかりにその口から炎を吹きかけようとした。

 その瞬間、咄嗟に弟妹達を庇おうとそれに立ち向かったサレナの中で『魔力』が覚醒し、同時にそれが魔術による防御障壁を発生させて、火龍の炎を防いだのだった――。


 それこそが、サレナが『魔力』に目覚める切っ掛けとして十五歳の時に起こる事件であり、ナイウィチというゲームの本編が始まるオープニングイベントなのであった。





 さて、そんな凶暴な火龍の眼前に、今、たった一人でそれに向き合っている少女がいた。

 サラサラと流れるような長い黒髪。着古したいつもの白いワンピース。

 そして、恐ろしげな火龍と対峙するにはまったく似つかわしくないほどに可憐でふんわりとした顔立ち。

 それが一体誰なのかは今更言うまでもないだろう。


「――さて。悪いけど、ここから先には一歩たりとも行かせるわけにはいかないの」


 サレナは真っ直ぐに腕を伸ばして火龍を指さし、自分を見下ろしてくるそいつを思いっきり睨み返しながら言い放つ。


「やっつけてやるわよ、火龍」


 その言葉こそが、サレナの火龍単独(ソロ)討伐開始の嚆矢であった。

 一体全体、どうしてこんな状況になっているのか。

 それを知るには、時間を少しばかりここから巻き戻す必要がある。

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