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このゲームを百合ゲーとするっ!  作者: 一山幾羅
第二対決
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第二対決……? ―7

「ということで、この私が独自に調べ上げてきましたわよ! あのグラディオとかいう男のことを!」


 今夜はアネモネの方からサレナとヒースの部屋に突撃してくるや、"夕食を一緒に食べましょう"と呼びかけてきた。

 何だか有無を言わすつもりのない調子であったし、二人とも特に異存もないのであっさりとそういうことになった。


 寮生の夕飯は決められた時間の間に、各々が思い思いに寮の食堂で食べることになっている。

 この時ばかりは席の区分けなんかにも学院と違って厳密な決まり事はなく、どこでも自由に座ってもいいし、相手も好きに誘い合わせてよかった。

 まあ、大抵は生活周期が重なる関係上ルームメイトと一緒にという人間が多い。

 一人で静かに食べる姿も少なくない。

 案外大人数で固まってわいわいというグループの方が少数派だったりもする。

 みんな、寮では出来るだけ学院での人間関係から解放されて穏やかに過ごしたいものなのかもしれない。


 サレナもそんなご多分に漏れず大概は一人か、あるいはヒースと連れ立って二人で食べていた。

 たまにアネモネが混ざって三人になる時もある。今夜は丁度そのパターンになったというわけだ。


 三人の食事の席での会話、その話題はいつも他愛のない、くだらないものであった。

 授業の内容がどうの、学院生活がどうのと、何とも健全で退屈な学生ぶりである。

 しかし、今日に限っては少しばかり様子が違うらしい。

 アネモネは席につくと、食事に手をつけるのもそこそこに、そんな報告で会話を切り出してきたのだった。


「何がどういうことでそんな話になるんだよ」


 それに対して、ヒースが半目でそうツッコむ。

 サレナも口には出さないまでも密かに同意。確かに、自分達はそんな話をする約束なんてしていなかった。

 それなのに当然のようにアネモネがそんな言葉を放ってきたものだから、思わずそうツッコんでしまうのも無理からぬことだろう。


「では、お二人は気にならないと言うんですの!? あの滅茶苦茶な振る舞いの不遜な男が一体何者なのかということが!」


 しかし、アネモネは鼻息も荒く、興奮気味にそう返してきた。


 それを聞いたヒースが言外にそれを認めてしまっているような顔で押し黙る。

 だが、サレナの方は一応さっきまであの男に関して自分が知っている限りの情報を引っ張り出していたところなので、あんまりそういう気持ちはない。

 とはいえ、そんな特殊すぎる事情を二人に教えるつもりもないので、敢えてヒースと同じような顔つきを作ってみて、自分も無言を貫いておく。


 すると、アネモネの方でも上手いことその二人の表情が言わんとしていることを正確に汲み取ってくれたらしい。


「ほ~ら、やっぱりお二人も知りたいんじゃありませんの。やれやれ、その情報をこうして機敏にかき集め、入手せしめた私の優秀さと手際の良さに感謝していただきたいものですわ」


 アネモネは何とも得意満面な顔でそう言うと、小さく高笑いをする。

 サレナもヒースもその態度に少しばかりイラッときたが、二人ともどうにか何も言い返さないように努力し、アネモネのしたいようにさせておく。

 下手に言い争って機嫌を損ね、やっぱり教えないとヘソを曲げられても困る。


 特にヒースの方は本当に何も知らない立場である分、アネモネの態度への苛立ちよりもグラディオへの興味が勝っていたようだった。

 サレナにしてもすでにかなりのことを知っているとはいえ、アネモネの調べてきた"この世界におけるグラディオの情報"というものにも純粋に興味はあった。

 特に、本来のゲームでの流れが相当に歪んでしまっているらしい現状、あの男に関してはどうにも不明瞭な部分も多いので、もしかしたらそのある程度がこれで判明するかもしれない。

 元々自分が知っていた情報との差異がどのくらいあるのかというのも把握しておきたい。


「……まあいい。俺も気になってたことは否定しねえよ。お前がそれを教えてくれるってんならありがてえ話でもあるが――」


 ヒースは嘆息し、心を落ち着かせようとしている調子でそう言いつつ、


「一体、どうやって調べ上げたんだ? オレ達ぁ、まだお互い一年生だ。周りに聞くにしても、それも同じ一年生。全員この前入学してきたばかりである以上、誰もあのグラディオとかいう男と学院生活を供にしていなけりゃ、関わり合いになれるはずもねえ。それじゃ、この学年だと噂にもなりようねえだろ。そんなんで、威張れるほどの情報集められんのかよ」


 ふと、純粋に不思議に思ったのか、そんな疑問を投げかけた。

 ……確かに。

 サレナもそれに同調し、無言でアネモネへ視線を向ける。


「あら、見くびらないでいただきたいものですわね。これでも私は大貴族――ラナンキュラス一族に連なる者。そういったものを集めるためのちょっとした伝手くらいは方々にございましてよ」


 それに、情報の精度も巷間に流れる噂話をかき集めたようなものとは比較にもならないでしょうね。

 アネモネは大したこともないという風に軽やかにそう答えると、片目をつぶってみせる。

 こういう時には、流石にこの子も貴族なのだなと色々な意味で感じさせるものがあった。

 情報収集にも身分が高い者なりのやり方があり、それを駆使するのも手慣れたものなのだろう。


 何とも頼りになることだ。

 皮肉ではなく素直にそう思いながら、サレナはヒース共々納得したように頷いてみせる。


「さて、それではしばしお耳を拝借。真剣に、集中して聞いてくださいな」


 その反応に満足したらしいアネモネは上機嫌に微笑むと、自分が調べ上げたという情報を厳かに話し始めた。

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