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このゲームを百合ゲーとするっ!  作者: 一山幾羅
第二対決
101/149

第二対決……? ―5

 そこまで記憶を掘り返してみたところで、サレナは集中するために閉じていた目をゆっくり開いた。


「…………」


 視界に映るのは、相変わらず薄ぼんやりした天井のみ。

 飽きもせずそれを眺めることにしながら、サレナは無言で思う。


 『グラディオール・フォン・レーヴェンツァーン』に関して思い出せることはそこまでだった。

 覚えているのがそこまでだったと言い換えてもいい。


 とにかく、そこからどうしても連鎖的に、次に向き合わなければならない大問題が導き出されてしまう。

 そうだ。それどころかサレナは――"私"は、今の今までその情報をすっかり忘れてしまっていたのだ。


「はぁぁ~……あぁぁ~……」


 その、自分に関する自分でも信じられないような衝撃のボケ具合にこうして向き合ってみると、思わず盛大な、呻き声に近い溜息も出てしまう。


 普通ありえないだろう。

 自分の今生で果たすべき究極の目的である『カトレアさまと結ばれる』こと。

 よりにもよってその最大の敵となるであろう攻略対象キャラクター達、その中の一人のことをここまで綺麗に、すこんと忘れてしまっていただなんて。

 しかも、その本人と出会ってしまうその瞬間までだ。


 これはあれか、重度の記憶障害か、はたまた若年性の何とやらか。

 自分の脳にそんな何らかの異常が生じているのかもしれないと考えることは、いくら肝が太いサレナといえど思わず背筋が寒くなるものだった。


 ……いやいや、それは流石に考え過ぎとして。


 一瞬よぎった嫌な想像を追い出すようにサレナはぶんぶんと頭を振ると、思考をもう少し現実的な方へと向ける。


 あるいは、それもある程度は仕方ないことなのかもしれない。

 何せ今の時点で自分の脳内に蓄積されている記憶は二十一+十五年分、単純計算で三十六年もの分量だ。

 そこまでになると、脳に特に異常はなくとも自然と忘れていたり、薄れてしまう記憶が出てくるものなのではないだろうか。悲しくて、寂しいことだけど。

 特に前世の記憶は今の人生のそれよりも更に古いものという順番になるわけだし、忘れていくとしたらそちらの方が先になってしまうのだろう。


 そう考えると、サレナは少しばかり感傷的な気分になってしまう。

 今の人生で過ごすこの日々が鮮烈である程に、前世は遠くなっていく。

 平々凡々とした薄っぺらいそれであったとはいえ、思い出せなくなることが増えていくのはやっぱり寂しいものだ。

 だけど――。


「うーむ……」


 そんな結論に落ち着くのにも少しばかり引っかかるものを感じて、サレナは天井を睨みつけながら小さく唸る。


 そうだと考えるにしても、こうしてグラディオと邂逅したことを切っ掛けに、ゲームにおける彼についての記憶をここまで完璧に自分は思い出せてしまっている。

 ということは、少なくともナイウィチに関する記憶自体はまだ脳内にしっかりと残っていて、完全に忘れてしまったわけでも、薄れておぼろげになってしまっているわけでもないはずだ。


 そうであれば、これを機会に最近ではめっきり思い出すことも少なくなってしまっていたナイウィチというゲームについての全てのデータを洗いざらい思い出しておくべきなのかもしれない。

 人間は機械ではない。

 定期的に思い出し続けることのない記憶はいずれ重要度の低いものとして、引っ張り上げるのにも苦労するような脳の深層へと徐々に追いやられていく。

 そうしている内に下手すると無意識のうちに消去されて、完全に忘れ去ってしまう。

 最近ではナイウィチについての()()も大まかなところはともかくとして、細かい部分はそんな感じで無意識の内に今は必要ないものと判断して脳の奥深くに押し込んでしまっていたのかもしれない。

 まあ、学院に来てからは色々と予想外な事態の連続に必死で対処して忙しくしていたのでそれも仕方なかろう。


 そう言い訳じみたことを思いつつ静かに嘆息し、サレナは目を閉じると記憶のサルベージを実行しようとして――。


「…………」


 やっぱり、やめた。

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