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トラウマコンプレックス  作者: 土ノ文
緋縅の椿
25/30

真っ向勝負

 羅奈との戦いが終わる少し前、もう片方の戦場では激しい暴力のぶつかり合いによって轟音が響き渡っていた。そこには戦術も、知略も何もなく、ただ力の強いものが最後に立っている。そういう戦いが繰り広げられている。そして、今そこに立っているのは庸太の側であった。


「おいおいどうした! ご自慢の武器も本能も役に立たねぇな!?」

「……役に立たないなんてことはない……! この服だって僕の本能で強化してる!」


 瓦礫の山から起き上がる碧の手には先ほどまでの守るための盾ではなく、攻めるための長剣が握られていた。しかし、その本能で強化した武器をもってしても庸太の力任せの一撃に対して何も成すことができていなかった。唯一幸いなことがあるとすればそれのおかげで致命的なダメージは受けていないということだろう。


「さぁ! もう一回来い!」

「はっ! 何回だってやってやるよ!」


 一方は剣を向け、もう一方は拳を向け、そして示し合わせたかのようなタイミングで同時に二人が踏み出す。直後、硬質の物体同士が激しくぶつかる鈍い音が散り、またも碧だけがその衝突した場所から弾き飛ばされる。


「でもよぉ、てめぇももうわかってんだろ? 今のてめぇじゃ一生かかっても俺には勝てねぇんだよ。さっきも言ったがケガさせてぇわけじゃねぇんだから大人しくついてくんならそれでいいんだよ。それとも何か? 時間稼ぎでもしてぇのか?」


 一切変わらないその光景を繰り返すことに辟易したように、ため息交じりに瓦礫の山へと文句を飛ばす。返事はないが、その代わりとでもいうように再び立ち上がり、剣先を庸太へと向ける。

 碧にも今の状況に勝算があるわけではない。時間稼ぎをすることで誰かが援軍に来てくれることを期待して、それまでこの自分にとって利があるわけでもない戦いを狙って繰り返しているわけでもない。ただ一つ、今の碧にあるのはこの相手に、庸太に勝ちたいという執念だけだった。


「来い! もう一回だ!」

「……あぁそうかよ。ならお望み通り次で終わらしてやるよ!」


 そうして再びお互いの武器を向け合い、その直後に同時に踏み出し――衝突する直前で庸太の体勢が崩れ、先ほどまでのような衝突は起こらなかった。だが、激突する勢いのまますれ違ったせいでその勢いを殺しきることができず、二か所で同時に瓦礫がはじけ飛ぶ。


「っだあぁ! んだよ今のはよぉ!」

「ちっ外した。これだから野蛮なやつは嫌いなのよ、変に勘が鋭くて獣みたいで」

「……痛ったぁぁ……! 今何が……って千紗? どうしてここにいるんだよ、もしかしてあっちは終わったのか?」

「なわけないでしょ? あんた一人じゃ勝ち目がないから援護にきたのよ」

「援護だって?」


 そう言って起き上がる碧に冷ややかな視線を送りながら、数メートルはあろう長い鞭を引き寄せるように振って手元に戻す。しかし、今まで苦戦していたはずの碧の表情はどこか浮かない。それどころか不満そうに眉根を寄せる。


「何よその顔、何か文句でもあるの? 言っておくけどさっきみたいなバカみたいに突っ込んで殴り合ってるだけじゃ死んでも勝てないわよ」

「そうじゃない。ただ、これだとニ対一になるだろ。そういうのってなんか……ずるくないか!?」

「……はぁ?」


 さも当然とでもいうように力強く語る碧の言っていることがまるで理解できない千紗から素っ頓狂な声が上がる。いや、それなりに知った相手ではあるからこそ何を言いたいのかは分かってはいるものの、その言葉がここで出てくるという事実が理解できなかったのだ。


「今更何言ってるの、そのために来てるんだから当たり前でしょ?」

「だけど……! ずるいじゃないか! 僕は正々堂々と勝ちたいんだよ!」

「……はぁ……じゃあ……そうね……今から私があれと戦うから、あんたは私の武器になりなさい。それなら一対一でしょ」

「……? でもそれじゃあ……」

「ぁぁあああ! もういいから! つべこべ言わずにやれ!」


 今度は碧が千紗の言っていることを理解できていない様子で頭にはてなを浮かべて固まるが、そこから復帰するよりも早く千紗が半ば強制的に碧を最前線へと文字通り蹴り出す。


「話は終わったか? さっき何しやがったのか知らねぇけどてめぇが増えたところでなんか変わんのか? え?」

「変わるに決まってるでしょ。私をこんな頑丈さだけが取り柄の男と一緒にしないでくれない?」

「頑丈さだけって……」

「あぁそうか……ならてめぇらがどれだけ耐えられるのか見せてくれよ!」


 増強させた腕を振りかぶり、まっすぐに千紗に向かって突撃してくる。間には碧がいるものの、そちらにはまるで目をくれる様子もなく、その奥にいる千砂だけを狙っている。


「んなっ!?」


 しかし、再び途中で体勢を崩し、二人のすぐ横を高速で通り過ぎてさらに奥の瓦礫の山へと頭から飛び込んでいく。それは傍から見れば庸太が一人でふざけているかのようにも見える奇妙な光景だった。だが、当の庸太ですら、その体勢を崩されたことに対して隠すことのない苛立ちを露わにし、その矛先を千紗に向けている。


「……てめぇ、さっきから何しやがってんだ!」

「私じゃないわよ。碧が本能でやったの」

「は!? いや僕は何もしてない……」

「まっすぐ向かってくるだけの馬鹿正直なやつかと思ったら、てめぇ……」


 明らかに千砂のせいではあるのだが、なんの悪気もなく碧にその原因を全て押し付ける。そしてそれを聞いた庸太も何一つ疑うことなくその言葉を信じ、千紗に向いていた怒りの矛先を碧へと向ける。


「ほら碧、あんたあれ出来たでしょ? 地面の材質を変えるやつ。あれであいつの足元奪って嬲り殺すわよ」

「あれは……確かにできるけど、なんか……ずるいだろ?」

「……また? あんたが正々堂々とかいうよくわからないものにこだわるのは勝手だけど、そのせいであんたも私も死ぬのよ?」

「そ、れは……」


 そんな二人の会話を遮るように、隕石が落ちてきたかのような衝撃が碧の眼前へと降ってくる。その瞬間、舞い上がる砂埃に二人の視界が奪われ、その暗闇を縫うようにして肥大化した腕が千紗へと迫ってくる。


「おしゃべりばっかしてんじゃねぇよ!」

「くっ……!」


 しかしその拳がぶつかる直前、不自然な動きで瓦礫が複数、間へと割り込んでくる。それによって勢いが殺されたものの、完全に抑えきるには至らず千紗を後方へと大きく吹き飛ばす。とはいえ、碧が幾度となく攻撃を受けつつ無事だったのは持ち前のタフさに本能による防具があってこそのものだ。生身、それに特別丈夫な体というわけでもない千紗の受けたダメージは多少勢いを殺したとはいえ非常に強烈な物だった。


「っぱてめぇのせいじゃねぇかよ。てことはてめぇさえ倒せば俺の勝ちっつうことだよな?」

「……か、はっ……! はぁ……っ、あんたも碧と同じかと思ってたけど、まだ頭が回るみたいね……」

「ったりめぇだ。俺ぁ死なねぇように色々と頭使って生きてんだよ。そこらのぬるま湯に浸かってるガキと一緒にすんじゃねぇ」

「はっ、あんたもガキでしょうに……」


 会話を続けながらも、千紗は周囲の瓦礫を使って抵抗を試みようとして、しかし何も起こらなかった。見れば、先ほどの衝撃でいつの間にか手放していたらしく鞭がどこかへ消えてしまっていた。

 そんなこととは知ってか知らずか一歩ずつ倒れこんでいる千紗との距離を詰めていき、すぐ手前で立ち止まると拳を大きく振り上げた。


「最後に聞くが、大人しく俺らについてくる気はあるか?」

「誘い方が下手すぎて聞く気にもならないわね。そんなについてきてほしいんだったらもっと魅力的な場所を提案してみなさいよ」

「そうかよ。ならこれで終わりだ……一点集――!?」


 その拳が振り下ろされる直前、一瞬だけ辺りを暗闇が包み込む。それはすぐに晴れたものの、その一瞬だけであれほど散らばっていたはずの瓦礫の、その半分ほどが消失していた。そして、それ以上に異質なものが三人の目に映っていた。


「……おい、んだよあれはよ……!? てめぇらの仲間の本能じゃねぇのかあれは!」

「……わかるわけ、ないでしょ。何よ……あれ……。でも、確かあそこは……」


 ここに来る直前、千紗のいた場所。つまり、琉生と愛璃、そして羅奈の戦っていた場所に、光すら飲み込むほどのおどろおどろしい影が蠢いていた。

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