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トラウマコンプレックス  作者: 土ノ文
緋縅の椿
22/30

開戦

「愛璃! 碧! しずく! 大丈夫か!?」


 天井がパラパラと崩れ落ちてくるほどの轟音がようやく収まり、すぐ近くに居た千紗の無事を確認した後で他の三人に呼び掛ける。すぐに動けなくなってしまうような瓦礫は落ちてきていなかったようには見えたが、それでも絶対に無事だとは限らない。だが、すぐに土煙の奥に起き上がる影が見えてきて胸をなでおろす。


「こ、こっちは三人とも大丈夫です! 琉生さんと千紗さんも無事ですか!?」

「なんとか無事だ! もう一回今のが来る前に逃げるぞ!」

「あーくそっ、なんなんだよこれは!」


 しずくの返事と碧の悪態をつく声を聞いて地上へ出られる階段へ走り出す。地上で何が起きているのかは分からないが、自然災害によるものだとしても人為的なものだとしてももう一度来れば絶対に無事である保証はどこにもない。そして直前に聞いた刹那さんの焦燥感を孕んだ怒声も気になる。

 途中、三人とも来れているか後ろを確認してみると、ここが頑丈に作られているおかげか全員問題なく走れているようだった。だがそれぞれに不安や恐怖が見て取れ、突然起こった理解の追い付かない事態に対しての精神的な疲労が大きいように見えた。


「っ、もうすぐ外に出るぞ!」


 がむしゃらに走り続け、ようやく外の光が見えてきて声をかける。少しでも気力が持ち直せれば、と思ってのことだったが、自分で声に出して疑問が沸き上がってくる。地下への階段は扉で遮られていたはずなのに、なぜ外の光が差し込んでいるのだろうか。

 まさか、といくつもの最悪な事態が頭をよぎるが、その悪い想像を振り払うように階段を上る足にさらに力を込める。そしてその疑念はすぐに晴れることとなった。


「……どうなってんだこれ」

「最悪なリフォームね。これをやろうと思った奴のセンスを疑うわ」


 周囲の家が軒並み崩れている中でも唯一無事なほど強度のあったはずのこの建物の入り口が、凄まじい力で無理やりに潰されていた。どうやらさっきの衝撃はこれが原因だったらしい。千紗も軽口をたたいてはいるが、これをするのにどれだけの力がいるのかがわかっているせいか若干声が震えていた。そこに後ろをついてきていた三人も合流し、その惨状を見て言葉を失っていた。


「何これ、ひどい……」

「……そ、そうだ、刹那さんは……琉生さん、刹那さんを見てないですか!?」

「刹那さん……? そういえばどこに……?」


 しずくに言われて、逃げるよう声をかけてきていた張本人である刹那さんの姿を見ていなかったことに思い至る。降りてきていたにしてもここから声だけ上げたにしても、今まで会っていないのはおかしい。すぐに階段から出て辺りを見渡すと、すぐ後ろで瓦礫が動き、その陰からあちこちケガをしている刹那さんが現れた。


「っつぅ……! おぉ琉生じゃないか、早かったな。全員無事だったか?」

「無事は無事だ。けど、何が起きてんだよこれは!」

「敵が来やがったんだよ。人が楽しくお出かけしようとしてたってのにな……!」


 そう言って睨みつける先に目を向けると、見覚えのない人物が二人、刃が歪曲しているナイフを両手に持っている派手な金髪の女と、片方の腕だけ異様に肥大化している男がいることに気が付く。あいつら、恐らく男の方があの腕でここを破壊したのだろう。


「見て見て庸太(ようた)! あいつら皆あたしに見とれちゃってるよ! やっぱりあたし……奇麗だからさ……!」

「ンなわけねぇだろうが羅奈(らな)! あれぁ俺の本能にビビッてんに決まってんだろ!」


 こちらの視線に気が付くと、余裕の表れなのかわけのわからないことを言いながらポーズを決め始めている。だがあの男のほうはまだしも、女の方がどんな力を隠し持っているか分からない。それに、本能がわかったところでこれだけのことができる力があるわけで、まるで油断できない。戦うにしてもどうやって戦えばいいのかまるで見当がつかない。

 そう考えていると、碧が武器は持ったままでその二人の方へと歩き出した。いったい何をするつもりなのかとその様子を見守っていると、そのまま何をするでもなく前に出て立ち止まり、そして二人を指さすように武器を向けた。


「お、俺の名前は八剣碧(やつるぎ あおい)だ! お前たちは誰だ! 僕たちに何の用だ!」


 声高にそう叫び、一瞬静寂が訪れる。静寂を破ったのは羅奈と呼ばれた女の笑い声だった。


「……ふ、キャハハハ! 何あの子! ちょっと可愛いんだけど!」

「……おい羅奈、笑ってやるなよ」


 碧がひたすらに真っ直ぐな性格なのは知っていたが、まさか敵に対してもこんな律儀に聞きに行くほどとは思わなかった。相手が答えてくれるとも限らないし、危険すぎる。

 そう思っていると、もう一人の庸太と呼ばれた男が羅奈に何かを呟いてから、碧がしたのと丁度同じように一人で前に出てきて、肥大化した拳を前に突き出し、お互いにギリギリ届かない距離で同じポーズを取った。


「俺ぁ鉾石庸太(ほこいし ようた)。研究所の指示でてめぇらの中の本能を使える奴を回収しに来た。抵抗しないなら連れていく。抵抗すれば無理やり連れていく」


 そしてあちらも、これまた驚くほど正直に目的と、どこから来たのかまで明かしてくれた。大体察していたつもりではあったが、こうしてあちらから簡単に言われてしまうとこちらもあっけにとられるしかない。しかし、当事者同士はそうでもないようで、なにやら重苦しい雰囲気をまとい始める。


「……そうか。悪いけど、僕らは研究所に行く気はない」

「わぁってるよ。言っただけだ」

「――メタモルフォージ! シールド!」

「――一点集中!!」


 その一言を交わした直後、ほぼ同時に碧が武器の変形を、庸太が拳を振りかぶり、両者が激しい音と衝撃波を周囲にまき散らしながら衝突し、それを合図に戦端が切って落とされた。

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