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トラウマコンプレックス  作者: 土ノ文
緋縅の椿
13/30

余韻

「結局、琉生は何も起きなかったね」

「あぁ……何か起きそうな感じはしたんだけどな……」


 あの後、もしかしたらこれでは物足りないんじゃないかと言い出した茂さんによってここに来るまでの出来事を事細かに聞き出され、それをもとに色々と試されたのだが、結局何も起こらなかった。ただ、やはり銃のときにはあの妙な感覚があったので護身用も兼ねて何かあったらすぐに報告することと念押されてようやく解放された。


「愛璃もそういう感覚みたいなのってあったのか?」

「あるような気はするけど……それ以上にあのときのことを思い出しちゃって、怖さが勝っちゃうからはっきりとはわかんない」


 そういいながら腰の辺りにケースごとぶら下げてあるナイフを、その上から恐る恐る触れる。それに呼応して影がうごめき始めるが、すぐに手を離すと同時に元の静かな状態に戻る。


「でも、この怖さも乗り超えなきゃ。夢ちゃんを助けるためにも……心奈ちゃんの、ためにも」


 僅かにケースから浮かした左手を、白くなるほど強く握りしめながらそうつぶやく。あのときあの場所で何をされていたのか、直接詳しく聞いただけではない。だが、幼なじみでありながらいつも妹のように思っていた前の愛璃とは変わってしまったように思えた。

 なんとなく続く言葉が出てこず、お互いに無言のまま部屋に向けて歩いていると、地上に続く階段から刹那さんが下りてくるのが見えた。向こうも気づいたようで片手を軽く上げてこちらに寄ってくる。


「君らも今終わったところか? 随分苦戦してたんだな」

「俺のトリガーがわからなくて長引いてたんだよ」

「わからないって、珍しいな。それでトリガーは……銃に、ナイフか。まだ子供なのに、こんなものがトリガーになるなんてな……」


 身を少しかがめて身につけているそれに触れながら、ため息をついてそうつぶやく。いつも飄々としている刹那さんの表情が、その瞬間だけはどこか悲しそうに見えた。


「そういえば、刹那さんは地上に行ってたのか?」

「ん? あぁ、他の二人と訓練してたんだよ。普段は地下でやってるんだが、君らを巻き込んでも悪いからな」

「結構広かったのに、それでも巻き込むってどんだけ激しいんだよ」

「そこまで激しいってほどでもないんだが……千紗の戦い方がちょっとな……」


 困ったように髪に手ぐしを当てながら苦笑いをする。よくよく見れば服はあちこちが土で汚れており、髪も昨日に比べてかなりぼさぼさになってしまっていた。

 ……今度からはこの訓練にも参加することになるのか。今から先行きが不安になってくる。


「あーそうそう、そういえば琉生、なんで君の部屋に千紗が居るんだ?」

「俺が知るか。おかげさまで今は愛璃と同室になってるんだぞ」

「よかったじゃないか。まぁ一応自分の部屋に戻るようには言っておいたが、まぁ無理そうなら諦めてくれ」


 諦めを含んだ生暖かい言葉がかけられる。昨日も思ったが、千紗はかなりわがままな性格らしい。刹那さんにも手に負えないとなるともうどうしようもないかもな。


「まぁ慣れれば同室も悪くないかもしれないじゃないか。それじゃあ私は風呂を浴びてくるから、君らもちゃんと体を休めるように」

「えっ、お風呂あるの!?」


 横を通り過ぎて行こうとした刹那さんを今度は愛璃が声を上げて引き留める。しかし、当の刹那さんはきょとんとした顔で振り返り、頭に手を当てて申し訳なさそうにおずおずと口を開く。


「あー、言ってなかったっけ? 一階に温泉があるんだ。自由に使ってもらって構わない。なんなら今から一緒に行くか?」

「温泉! しかも自由に行っていいの!?」

「あーそれと、替えの服とか家具とか、その他必要なものは倉庫にあるものを好きに持って行ってくれ」


 さっきまでの空気はどこへやら、温泉があると聞いたとたんに目を輝かせる。それでも落ち込んでいるよりはいいかと思って、俺も替えの服だけでも取りに行くかと考えていると、その輝かせた目線がこちらに向いていることに気が付く。


「琉生も一緒に温泉行こうよ!」

「行くのはいいけど……一緒に入るわけにはいかないからな」

「え、なんで……あっ、そ、そうだよね! ごめん、わ、忘れて!」


 興奮しすぎてつい口走ってしまっただけのようで、すぐに顔を真っ赤にして否定する。変わってしまったかと思っていたが、こういうところはまだ前の愛璃のままらしく、なんとなく安心感を覚える。

 そんなやりとりをしていると、すぐそばからわざとらしいため息が聞こえてきて、そちらに目を向けるとこれ以上ないほどのあきれ顔をした刹那さんがジト目でこちらを睨んでいた。


「……見せつけてくれるじゃないか。いちゃつくなら私がいないとこでしてくれよ」

「い、いいいちゃつくなんて、そんな……ね!?」

「ねって言われても……いつもこんなだしな……」

「いつも、ね……。どうでもいいけど、もう先に行くからな?」

「わ、私も行く!」


 いつまでも言い合いを続けそうな雰囲気にしびれを切らしたのか先にさっさと行ってしまった刹那さんの後を急いで二人で追いかける。

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