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「ある程度の知識もついたので、働こうと思うんです」
政務で忙しいはずなのに何故か私の部屋に遊びに来ていたロゼリア殿下にそう告げると、ものすごい満面の笑みで「ダメ♪」と言われた。
「どうしてダメなんですか」
「どうせ、『いつまでもお世話になりっぱなしは悪いから』とか思ったんでしょ?そんな事は気にしなくていいのに」
「いや、私も元はユーシリアの人間だったかもしれないけど、今ではオルフィネストリアの一国民ですから、定職が無いとそれこそダメでしょ。それにこう暇だと頑張って働いている方々に罪悪感しかないですから」
「そっか……でも、シャディはこうやって俺のお世話してくれてるじゃん」
「してないですよ。お話してるだけじゃないですか」
「シャディ、前にも言ったけど、俺は君の側にいたいんだよ?」
「こう毎日毎日何の用事もないのに来られてもプライベートが無くて正直迷惑ですから」
「……そっか…シャディは俺とはいたくないのか」
何この人を。
すっごく面倒くさいんだけど。
私のどの辺にそんな固執するところがあると言うのか。
「私は殿下や王宮の方々に大変助けて頂いているんで、それに見合った恩を返したいんですよ」
私の働きごときでは全然お返しなんて出来るとは思えないけど。
「恩なんて……俺は君が生きていてくれるだけでいいのに…」
「いや、重すぎ。人並みに生きてみたいって言ってるだけじゃないですか。お願いします」
「お願い……?」
溜め息を吐きながら言った「お願いします」に反応を示したロゼリア殿下。
「お願いします」
「もっと甘えるようにおねだりしてくれたら考える」
「そんな事するぐらいなら死んだ方がマシなんですけど」
「おーねーがーいー!」
「殿下が私に甘えて来てどうすんですか…はぁ…」
私の呆れ具合を見てもなお、『おねだり』を要求してくる殿下に血管が切れそうだ
でも、この人には返しきれない恩があるし……
「お願いー!!」
「はぁ……」
これも仕方ない事だと思い、腹をくくろう
私は隣から「お願いー!!」と抱きついて来ている殿下をひっぺがした。
すかさず、彼の首筋から胸にかけて指を這わせて下から見上げるようにサファイアの瞳を見つめた。
「ロゼ……」
愛称で呼ぶと、ピクンッと反応したロゼリア殿下に微笑んで見せた
胸に当てていた手からは彼の鼓動が速くなるのを感じる
「お願い……」
耳元でそう言うと、彼はそのまま横向きでソファに顔を手で覆って倒れた
何事かと思い目を見開いていると、少し開いた指の隙間から彼の瞳が熱を帯びて潤んでいるのが見えた
「うぅ~……心臓もたない……」
顔を隠して蹲る殿下がどうしたのかなかなか起き上がらないので心配になり、「大丈夫ですか」と覗き込んでみたけどやっぱり大丈夫そうに見えない
私のおねだりは気に入らなかった感じか?
やっぱり愛称呼びは不敬だったか……
思いきって呼んで、一生分の恥をあの瞬間に注ぎ込んだのに……
「殿下……ごめんなさい」
「…………」
「お気に障ったらならもうやりません」
「…………」
「殿下……だから、顔を見せてください」
「…………」
殿下は許してくれないらしい
無言を貫かれ不安だけが募っていく
「シャディ……」
「!!は、はい…」
顔を隠したままの殿下にピシッと背筋を伸ばした。
「……働くのは俺の秘書ならいいよ」
「え……」
「そうすれば俺の希望も君希望もどっちも叶うし、君の記憶を辿るのに外国の事を知る必要があるのなら、俺の側が一番いいはずだよ」
「それは…そうかもしれないけど……」
外交は王族の義務だから、彼の言い分は正しいかもしれないけど……
皇太子の秘書なんてそれ相応の身分と才能が無ければ出来ないものだろうに
私ごときがやっていいものじゃないと思う
「ユーシリア語はオルフィネストリア語と母音の数も単語の発音も大きく違うからあまり解る人がいないんだ」
「そうなんですか……」
「俺も完全に読解出来るわけじゃないから、正直シャディがいてくれた方が助かるんだよ」
「………………」
そこまで言われると断り辛い……
私に出来ることで恩返しをしたいと思ったのならこれ以上に最適なことも無いように感じる
「分かりました。殿下の秘書として王宮に勤めさせていただきます」
「うん。宜しくね」
こうして、私はオルフィネストリア国の皇太子秘書という肩書きを手にいれたのだった。
~追伸~
殿下にそのあと「俺以外に『おねだり』はしないでね!」と言われて、「あんな生きている事が恥ずかしくなる様なこと殿下も含めて二度としません」と返したのは言わずもがな。
次回もお願いします!