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はじめまして〜。ちょこちょこ暇な時に更新します。
「殿下、コレをいったいどうするおつもりですか…」
オルフィネストリア王国の皇太子であるロゼリア・ヴァン・オルフィンの臣下であるロイド・アルデイトは目の前の光景に頭を抱えていた。
「ロイド、レディに対してコレとは頂けない…。紳士として恥ずかしい発言だよ」
「いや、アンタ、今はそんな事言ってる場合じゃないですからね!?こんな何処の馬の骨かも分からない女を拾って来たと思ったら自室に連れ込んでるなんて!?」
ソファに座るロゼリアの足下には膝を抱えて座る少女がいた。
風呂上がりの髪をロゼリアに拭いて貰いながら、何やら本を読んでいる。
「大きな声を出すなよ。彼女が怖がるだろ」
溜息を吐いたロゼリアにこっちが溜息を吐きたい気分だと言いたい気持ちをロイドはぐっと堪えた。
「何処で拾って来たんですかソレ…基、そちらの女性を」
「城下に散歩に行った時に路地裏に傷だらけで倒れていたから、服もボロボロだったし、暴漢にでも襲われたのかと思ってね〜」
「そうですか。それならもう傷の手当も着替えも全て終わったんですから元いた場所に戻して来てください」
「お前…そんな犬猫みたいに言うなよ」
ロゼリアはピンクゴールドの少女の髪に指を滑らせた。
「そういえば、君、名前は…?」
「そんな事すら知らないで、自分のプライベートスペースに連れ込んだんですか…」
ロイドのガッカリ顔を無視しながら、ニコニコ顔のロゼリアは少女を「よいしょ」と言って膝の上に乗せた。
少女と言っても17、8歳ぐらいの背丈なのでロゼリアやロイドとは同年代ぐらいに思われる。
突然のことに目を丸くした少女は本をバサリと落として固まってしまった。
「あ、の…私、自分の名前が分からなくて…どうしてあそこにいたのかも…何も覚えていないんです…」
「記憶がないってこと?」
「はい…」
「何処で生まれたかも?」
「はい…」
「誰に育てられたとかどんな物が好きだとかもですか?」
「はい…」
「ったく…最悪な状況じゃないですか」
「ご、ごめんなさい…」
演技でないのなら彼女は本当に何も分からないようだった。
暗い顔をする少女に面倒な物を見る様な視線を向けるロイドをロゼリアは無言で睨みつけた。
その視線に気づいたロイドは軽く舌打ちをすると視線を外し、お茶を入れて来ますと言って大きな音を立ててドアを閉めた。
ロイドの態度に顔を青くした少女はブルブルと震え、「ごめんなさい」とロゼリアにも頭を下げて謝まった。
そんな彼女の姿にロゼリアは落ち着かせる様に少女の頭を撫でた。
「彼は根はいい奴なんだけど、言葉や態度が悪くてしょうがないんだ。そんなに縮こまらなくても大丈夫だから顔を上げて」
ロゼリアの言葉にゆっくりと顔を上げた少女の目にはサファイアの様にキラキラとした瞳を持つ白金の髪の美しい青年が映った。
「それにほら、こうして会話ができたり、本が読めるということはオルフィネストリア語が分かるという事だ。こうやって徐々に色々な物に触れて行くうちに何かが分かったり、思い出したりするかもしれない」
「………」
「一緒に一つずつ見つけて行こう」
ロゼリアのその言葉に少女の目からはポタポタと大粒の涙が溢れた。
本当は心細くて仕方なかったのだ少女も。
名前も生まれた場所すら分からない彼女にとってこの先どうして行くべきかも分からなかった。
「君、ってのは呼びづらいから君の本当の名前が分かるまで何か他の呼び方を考えないと…」
顎に手を当てて考えるロゼリアの目には先ほど少女が落とした本が入った。
本はかつて国を滅亡の危機から救ったとされる聖女、シャデライトの伝記について書かれた物だった。
「シャデライトね…シャディなんてどう?」
「シャディ…」
「うん。嫌かな?」
ブンブンと顔を振る彼女は嬉しそうに胸に手を当てた。
「ありがとうございます。殿下」
彼女の笑顔に少し頬を赤く染めたロゼリアは照れを隠す様に視線を外した。
読んでいただきありがとうございます。次回もお楽しみに。