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Report30. 天災のハリル

「アンタが…ソニアの婚約者だって?」


イサミは訝しげにハリルをじっと見つめた。


「そうさ。でも、ソニアはディストリア帝国から逃げ出した。僕はね、彼女を連れ戻しにきたんだよ。いるんだろう?このエルトのどこかにさ?」


「ハリル…と言ったか。アンタたちはソニアを連れ戻す為にこのエルトに攻めてきたのか?」


「いや?あくまで、エルト王国と魔晶石を我が国の手中に収めるのが第一目的さ。

この国を落とせば、ついでにソニアの身柄も確保できる。探す手間が省けて一石二鳥ってもんだろう?」


「ついで…だと?」


イサミは、ギロリとハリルを睨みつける。


「おっとっと…そんなに怖い顔をしないでよ。」


ハリルは悪気がなさそうに笑いながら、イサミをなだめる。


「フッ…だが今の反応を見ると、イサミくん。君とソニアはどうやら近しい関係にあるようだね。だとしたら、僕のやることは一つだ。」


そう言うなり、ハリルはローブの内側から魔導書を取り出した。


「君を捕縛して、ソニアの居場所を洗いざらい吐いてもらう。このデカブツジジイに消し炭にされる前にね。」


ハリルは後方にいるガーレンを顎で指し示す。

そのガーレンはというと、覇道砲を最大出力で発射する為に力を溜めているのであった。


様子を見るに、発射までの時間はもう幾許の猶予もない。


それまでにこのハリル、ディストリア帝国兵たちによる防衛の布陣を突破しなければならない。


「絶体絶命…か。」


イサミは、誰に言うでもなく小さく呟いた。


その時ーー


一陣の風が戦場を駆け抜ける。


「イサミーーーーーッ!」


「ヤッホー♪イサミくん。なんだか大変そうな状況ね。」


ソニアをお姫様抱っこしながら、リーゼロッテが空から舞い降りてきたのであった。


リーゼロッテの腕から降りたソニアは、すぐさまイサミの元に駆け寄る。


「大事ないか?イサミよ。」


「ソニア!?どうしてここに来た!あそこにいるハリルは、お前を連れ戻そうとしているんだ!今からでも城に帰るんだ!」


イサミはソニアの肩を掴み、安全な場所へ戻るよう説得を試みる。


しかしソニアは首を横に振るだけで、全く聞く耳を持たなかった。


一方、ソニアの思わぬ登場にハリルは嬉しそうな声をあげる。


「ああ!愛しき我が婚約者ソニアよ!無事で良かった!僕は君の安否が心配で心配で夜も眠れなかったんだ!

さあさあここは危ないから、こちらへおいでソニア!僕と一緒にディストリアへ帰ろうではないか!」


ハリルはオーバーリアクション気味に、ソニアに手を差し伸べる。


だがーー


「その汚い手をしまえ、ハリル。」


ソニアは穏やかな笑みを浮かべながら、強烈な暴言を吐き捨てた。


一方で、満面の笑みを浮かべていたハリルの顔は一瞬にして強張る。


「ん…?何かの聞き間違いかな?今、僕の手を…何だって?」


「だから。その汚らしい手をわらわに向けるなって言っておるのじゃ、ハリルよ。」


容赦ないソニアの暴言を聞いたハリルの額には青筋が浮き出す。

そして、引きつった笑みを浮かべながら、手に持った魔導書を開くのであった。


「ソニア。あんまり僕を怒らすようなことを言わないでおくれよ。見つけ出すのが遅れてしまったことなら謝る。だから、そんな男から離れてこっちへ来るんだ、良い子だから。」


ソニアはうんざりとしたため息を吐き、冷ややかな目でハリルを見つめた。


「はぁ……別に誰も見つけてくれなんて頼んでおらんし。はっきり言わないとお主には分からないらしいの。

ハリル。この際だから言わせてもらおう。

お主との婚約は、今この瞬間を持って破棄させてもらう!」


ソニアは、戦場のど真ん中で高らかに宣言する。


「な…なんだと!?」


ソニアの爆弾発言に、ハリルは目を丸くする。


そしてイサミの方に向き直ったソニアは、イサミの腕をぐいっと自分の方に引き寄せた。


「ソ…ソニア?一体、何を……?」


困惑するイサミをよそに、ソニアは悪戯っぽい笑みを浮かべ、人差し指を口元へと近づけた。


「しーっ。ここは、わらわに任せてくれんかの?」


一つ咳払いをした後、ソニアは呆然としているハリルに話を続ける。


「そして……この隣にいる者こそが、わらわの真の婚約者であるイサミじゃ!」


その瞬間、戦いの喧騒は一瞬にして止み、敵味方問わず、一斉にイサミに注目が集まる。


「……え?」


状況把握の処理が追いつかないイサミは、思わずソニアの顔を見る。


そのソニアは、言ってやったと言わんばかりの清々しい爽やかな笑顔を浮かべているのであった。


そしてこの状況を最も面白くないと感じているのは、元婚約者となったハリルである。


既に笑顔は失われ、憤怒の表情へと変化し、その両手は魔導書を引き裂いてしまうのではないかというぐらいに、わなわなと震えているのであった。


「ふざけるな…ふざけるなよソニア!ここまでコケにされたのは生まれて初めてだ……

名家の出身である僕との婚約を蹴って、どこの馬の骨とも分からない、その男と添い遂げるだって……?

そんなこと許されるとでも思っているのか!

ディストリア家とワードニクス家の両家が認めた婚約なんだぞ!」


「わらわの親族はもういないし……何よりわらわの預かり知らぬ所で進められた縁談など、わらわが納得できるものか!

ディストリアの王座にしか眼中にないお主なんざ、馬の骨以下なんじゃよ!ハリル!」


「くっ…!言わせておけばこの女……!無限炎獄!」


「いかん!イサミ下がるぞ!」


ソニアは、イサミの腕を引っ張り後方へと回避する。

その直後、火山が噴火したような爆音とともに黒い火柱が立ち上る。

先程まで二人がいた場所は一瞬にして焦土と化すのであった。


その魔法を発動したハリルは怒りを通り越して、虚ろな表情を浮かべていた。


「どいつもこいつも……僕を馬鹿にするな!

イサミとか言ったか…貴様は生け捕りにして研究材料にしようかと思ったが、もういい。

跡形も残らないぐらいにグチャグチャにしてやる……

そしてソニア……お前はそれを見て泣き叫んでいるといい。

僕に楯突くとどういうことになるのか、その身を持って知るといいよ。」


ハリルは血走った目を二人に向けながら、不気味にニヤリと笑うのであった。










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