Report02. AIロボットは異世界へ転生できるのか? part.1
しんと静まり返った日比谷研究所の実験室。
その部屋の中央に一体の男性型AIロボットが鎮座していた。
とはいっても、見た目は人間と全く変わらない。AIロボットであることを知らなければ、若い男性が目を閉じて座っているようにしか見えなかった。
「やっぱりいつ見ても人間にしか見えねぇんだよなあ。」
羽倉は感心しながら、今しがた出来たばかりのAIロボットをまじまじと見つめた。
それを見た日比谷は、少し得意げになりながら自身が作ったAIロボットの紹介を始める。
「紹介しよう羽倉。これが異世界転生用自律型AIロボットの試作第133号機、その名も『133』だ!」
「びっくりするぐらいそのまんまだな。」
日比谷のネーミングセンスの無さに羽倉は呆れていたが、日比谷は全く気にしていない様子で紹介を続ける。
「こいつはすごいんだぞ羽倉、私の最高傑作と言っても過言ではない。まずはその耐久性能!軽量かつ最強硬度を誇る合金を防具に使用したことで、あらゆる敵の攻撃や衝撃に耐えうることができる。
そして攻撃面では10種類の武器を標準装備し、様々な戦況において柔軟に対応することができるのさ!はっきり言って戦闘においては、ほぼ向かう所敵なしと言っても良いだろう。さらにー」
「ちょっと待った、日比谷。」
目を輝かせながら説明を続けようとする日比谷を羽倉が制止する。
「どうした、羽倉?」
「イサミの素材データの資料を俺に見せてみろ。」
「ギクゥッ!!」
日比谷はとっさに手に持った資料を背中にサッと隠した。
「あーどこやったっけかなー?すまんがすぐに見つかりそうにないなー。」
「すぐバレる嘘でごまかそうとしてんじゃねー!今てめーが後ろに隠した資料を寄越せっつってんだよ!」
「うわあああーー!羽倉やめろーー!」
今まで運動という運動を一度もしてこなかった虚弱な日比谷は、羽倉の前になす術なく力づくで資料を強奪されてしまった。
「えーと何々…?防具素材がガンパニウム合金に、武器がアルヘイム社の高性能重火器などなど…それで総合計費用が一、十、百、千…………………1,000億円……だと……?」
日比谷は、羽倉が素材データの額面を見て青ざめている隙に実験室からの脱出を試みようとした。しかしその作戦はすぐに失敗してしまう。
「どこへ行く、日比谷?」
「あ、いや…ちょっとお手洗いに…」
「この金額は一体どう説明するつもりだ?ああ!?」
羽倉は鬼の形相で日比谷に問い詰める。
「…どうしても必要な素材だったので、私がこっそりと発注した。でもこれは実験を成功させる為の必要経費なんだ!わかってくれ羽倉!」
「開き直ってんじゃねぇぞ日比谷ぁ!この一機のAIロボットの為に1,000億円だぞ1,000億円!総研究資金の3分の1がこいつに消えたんだ!それを、はいわかりましたで納得できると思ってんのかコラァ!!」
「私だってこんなに費用をかけたくはなかったさ。できることならロボットに任せず、自分を被験体にして異世界へ行く研究をしたかった…でも、それをお前は許してくれないだろう?」
「……当たり前だ!お前はこの世界におけるロボット工学の権威なんだぞ。異世界なんかに勝手に飛ばれた日にゃあ、この世界の大損失だ。お前はもう少し自分の立場というのを理解しろ!
この世界にはまだまだAIロボットを必要している場所がたくさんある。お前がそれを投げ出しちまったら、何十年実現が遅れるかわからねぇ。
お前はまるで理解しちゃいねーみてーだが、異世界に行くよりもこの世界を発展させることの方がはるかに大事なんだ!お前に憎まれようがなんだろうが俺はお前を全力で阻止するぜ。」
羽倉は強い決意を持った眼差しで日比谷を睨んだ。
「私もそれは十分に理解しているつもりだよ羽倉。私はこの世界に留まり人々の役に立つAIロボットを作り続ける、それが私の仕事であり使命だ。
だからこそ私の悲願を、私が開発したAIロボットに託すことにしたんじゃないか!
研究資金を大量に使い込んでしまったことは本当に済まなかった。だが、この実験は私にとってこの世界を発展させることと同じぐらい大事なことなんだ!」
日比谷も負けじと強い眼差しで羽倉を睨んだ。
日比谷の強い決意に羽倉は根負けしたと言わんばかりに、大きなため息を吐いた。
「はあ…わかったよ。今回の件は俺の監視が甘かったっていう部分もある。だからまあ…今回は大目に見てやる。だが、次からは監視体制をさらに厳しくするから覚悟しておけよ!」
「ふっ…ありがとな羽倉。だが許してもらうだけではフェアじゃない。私も一つけじめをつけよう。今回の実験が失敗したら、この異世界転生プロジェクトを凍結させる。それでいいか?」
「俺はそれで構わないが…お前はそれでいいのか?研究資金が底をついてもやり続けるって言ったろ?」
「ああ。というか、恐らく今の私にはこれ以上のAIロボットを作ることはできない。最高傑作のこのロボットでダメだったら、当分はできる気がしないんだ。」
「…そうか。じゃあ悔いが残らんよう、せいぜい頑張るこったな。」
「ああ、そうさせてもらう。じゃあ、早速イサミを起動させるぞ。」
そう言って日比谷はイサミの起動スイッチを押したのであった。