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大司教のライフワーク

その日は私にとって最低の日であり、しかしそれが最高の日に変わった日でもありました。

聖女が思いの外役に立たず、捕らえるべき者を無力化できなかったばかりか、その殺そうとした相手に命を助けられる始末。

あまりの無能さに、やはり聖女の総入れ替えをするべきかとも考えましたが、それだけの事をするには流石に私一人での判断はできません。

しかし、相手が投降してくれたので、最高の素体を傷つけることなく手に入れることに成功しました。


「泣き叫んでも良いし、痛みに耐えて歯を噛み締めても良いですよ。どちらも最高の顔になるはずですから。」


言いながら彼女の真っ白な肌にナイフを滑らせようとした所で。


「それは困るな、依頼が達成出来なくなる。」


邪魔が入ってしまいました。

私と彼女のたった二人だけの聖域にズカズカ入り込んで来るとは…

私は怒りでどうにかなりそうなのを抑え、ゆっくりと声のした方に振り向きました。

目の前には珍妙な格好をした男が一人、扉の前に佇んでいました。


「おや、この部屋は関係者以外立ち入り禁止ですよ?」

「そうだろうな、だからしゃがんで入ってきた。」

「…ふざけているのですか?」

「いいや、これは俺の故郷のとんちってもんだ。坊さんが使ってたもんだし、こっちの坊さんにも通用するんじゃないかと思ってな。」

「それはそれは、貴方の故郷の僧侶の程度が知れますねぇ。」

「そうだな、あんたらと違って頭の柔らかさが違うらしい。」


男の小馬鹿にしたような態度に再度怒りが湧き起こるものの、ここは穏便に人を呼んで連れて行かせる事としましょう。


「誰か、部屋に侵入者がいます。早々につまみ出しなさい。」

「ああ、この辺りをプラプラしてた奴らなら、眠いから寝るって言ってたぞ?」


人を呼んでも誰も入って来ないという事は、もしかするとこの男の話も嘘ではないのかもしれません。


「そうですか、それならしょうがありませんね。私が直々に相手をしてあげましょう。言っておきますが、ここで一番強いのは私なのですよ。ですから、死んでも知りませんよ?“インフェルノ”」


私の手元から魔法陣が発生、そこから浄化の炎が迸り、あっという間に目の前の男を包み込みました。

凶悪なレッドボアすら一瞬で灰にする高火力な魔法です。

例外なくこの男も灰になった事でしょう。


「全く、私の貴重な時間を浪費させるとは…」

「まぁまぁ、あとちょっとだけ付き合ってくれよ。そんなに時間はとらせねぇから。」

「何!?」


この炎で無事な人間など…


「いやー流石は我が国の技術の粋をこらしたトレンチコートだわ。防弾、防塵、耐冷、耐熱…何と宇宙空間でも使えるってシロモノだ。それにしても…宇宙空間でトレンチコートなんて着ることあるかねぇ?」

「どんな手品を使ったのか分かりませんが、そんな布切れ一枚で私の魔法が防げる訳がないでしょう。」

「まぁ、信じてもらえないだろうなぁ。」

「ならば、今度は光の弾丸です。“ホーリーレイ”」


高速の光弾ならば、避ける事は難しいでしょう。

しかし、


「おらっ!」


男は思いの外素早く接近し、拳を突き出して来ました。

とはいえ、私に詠唱は既に完了しています。

軽く拳をいなすと、


「少々遅かったようですね。さあ、私の魔法に貫かれなさい。」


男に対し、遠回しな死刑宣告をくれてやりました。


「…私の魔法ってのはいつ発動するんだ?」

「な、何故!?詠唱してしまえば途中で解除される事など…」

「今度はこっちの番だな!」


私が動揺した隙をついて、男が目の前で両手を振り回しました。

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