里帰り
エルフの里を出てしばらく後、俺たちは魔族領の首都に到着した。
「これが魔族の本拠地……勇者達の終着点か!!」
「別名、私の実家のある街だね。」
ソフィ、首都生まれだったんだな。
「ソフィ、せっかくだから実家に顔出す?」
「 お嬢さんを僕に下さいっ!」
「え…それ俺が言うの?ソフィのお父さんに?」
「いや、既に死んでる扱いだろうから無視で良いよ。」
「良かった~、もし挨拶なんてしたら絶対面倒な事になるもん。」
胸を撫で下ろした直後、
「ローガン様、残念な事に面倒な事はありそうです。」
注意を促してきたアンナの視線の先には高級そうな服を纏ったおじいさんがこっちに向かって歩いて来るところだった。
おじさんは迷わずソフィの前まで来ると、執事の礼をとりながら話しかけてきた。
「お嬢様、お待ちしておりました。」
「……誰?」
「クラークでございます。」
「知らない。」
「あれから100年も経っておりますからな。お嬢様はお変わりないようで、このクラークすぐに気が付きましたぞ。」
「それは……」
「お陰ですぐに気づくことができました。ささ、こちらです。」
クラークという老人の案内で大きな屋敷に連れてこられた。
もしかしてもなにもないけど一応確認。
「ソフィの実家?」
「そう。だけどもう私の家ではないけどね」
「というか、死んだ扱いになってないのかな?」
「うーん……どうなんだろうね?私が帰ってきたのも察知してたみたいだし。」
なんだかおかしな事になってきてるな。
とはいえ、虎穴に入らずんば虎子を得ずとも言うし、気がすすまないけど親族挨拶といきましょうか。
……
応接室に通された俺たちを待ち受けていたのは、豪華な服を着た初老のおっさんだった。
「おお、よくぞ無事に帰ってきたなリーゼロッテ!」
(リーゼロッテって誰?)
(ここにいたときの私の名前)
……そうだった。
そういえばソフィって俺が名付けたんだった!
「はて?私の名前はソフィですが、リーゼロッテとはどちらさまですか?」
そしてソフィは他人の空似で通すつもりらしい。
「ふむ、今はソフィと名乗っておるのか?伝統ある我が家の名を捨てるとは嘆かわしい。」
そしてソフィのすっとぼけをスルーするおっさん。
「何を言っているのか全くわかりませんが、100年も経ったら娘さんも見た目が変わっているのでは?」
「そう、それが疑問なのだ。あの方の話では異形の姿になったと聞いていたのに、何故か元の姿に戻っている。一体何があったのだ?」
異形、と聞いたソフィの肩がピクリと反応した。
おそらくおっさんにも動揺を気取られたことだろう。
「……異形になったというのならやはり人違いですよね。私は生まれたときからこの姿ですから。」
そのまますっとぼけで通すことにしたソフィさん。
さて……おっさんの返答やいかに?
「ふん、まぁ良い。実は君たちに見てほしいものがあるんだ。ちょっと着いてきてほしい」
(罠かな?)
(罠だろうね。)
(どうする?逃げる?)
(何を見せたいかも気になるし、見に行ってみようよ。不意打ちさえ注意すれば大丈夫でしょ。)
「娘でもない私に何を見せたいのか知りませんが、貴族様のお願いであれば従わないわけにもいきませんね、参りましょう。」
……
そんなわけでおっさんの先導で屋敷の地下に案内された。
ちなみに俺とソフィ、おっさんの3人だけだ。
アンナは最初の応接室で待機するように言われていた。
地下は広く、ワインセラーやら牢屋のようなものやいろんな部屋があった。
そんな中の一角でおっさんが足を止めた。
「ここだ。」
何の変哲もない扉だ。
宝物庫とか牢屋とかを想像してたんだけどな。
おっさんは扉を開けてそのまま入っていった。
続けて俺たちも扉をくぐる。
殺風景な部屋だった、簡素なテーブルと椅子、小さな棚、調度品はそれだけだ。
こんな所に何があるんだろう?
と思ったのもここまでだった。
「ここまで何も言わずに着いてきてくれて礼を言う。」
おっさんの姿が突然かき消えた。
と同時に俺たちの入って来た扉が閉められた。
「やっぱり罠だったかー。」
「さてさて、どんな罠なんだろう?」