エルフの里
「うおぉ、本物のエルフだ!お耳がピーンとなってる!」
「そりゃあ、エルフだもんね。」
「エルフですからね。」
ヒノデから本土に帰ってきて北上し、俺達は魔族領のエルフの里に来ていた。
珍しい事に、この世界ではエルフの里は魔族領らしい。というか、亜人の住まう地域はほぼ魔族領だ。
まあそこまで虐げられているという話も聞かないし、人間サイドよりは差別も少なくて良かったりするかもね。
そんなわけで基本的には関わりのない種族である。
せっかくのエルフとの初対面にも関わらず、ソフィとアンナの冷めっぷりがひどい。
とはいえ、実は見たことが初めてという訳ではない。
大都市なんかには数は少ないものの、エルフやドワーフといった亜人もちらほらするからだ。
しかし、話し掛けるのは初めてである。
ドキドキしながら第一村人へ声をかけてみた。
「あのー、ここって魔族領のエルフの里ですか!?」
「んー?エルフの里ではあるが、魔族領ではないぞ。つい先日、人間の一団が魔王直轄のリーダーを打倒したのでな。」
なんと!
魔族領に入ったと思ったら国境が変わっていたらしい。
とはいえ初めてのエルフさんとの会話だ、大事にしていきたい。
「それじゃ、今は人間の国と交流が?」
「うんにゃ、別に正式には魔族領じゃなくなっただけで、人間領になったわけじゃないぞ?単純にエルフの里になっただけだ。」
「なるほど?」
「単純な話をすると、里のリーダーが入れ替わったのさ。今までは魔王の部下が里のリーダーだった。グドって奴がそいつを殺して、里のリーダーの座をてにいれたんだ。だから今は強いて言えばエルフ領という事になるのだろうな。」
「なるほど、暮らしに何か変化はありました?。」
「うむ、以前は魔族の犬であるダークエルフ共に不当な扱いを受けていたが、今では豊かな暮らしに変わったぞ!」
「ほうほう、具体的には?」
「まずは食だな、今までは質素なものばかりでそれを疑問に思う事も無かったのだが、ダークエルフ共はわれの知らない所で豪華な食事をしていたのだ。だから今では逆の内容にしたそうだ。肉や果物を毎日食べるというだけで、毎日が豊かになった気がするな。そして普段の仕事も様変わりした。今までは我らエルフが衣食住の全てを担当していたのだが、それをダークエルフにやらせる事にしたのだ。奴らめ、村の警備と称して一日中里の外側で寝ているだけだったが、今では我らがその任に就いている。おかげで最近は空いた時間で思考力を深めて日々里のはっての為に頭を働かせている。」
「なるほどなるほど!素晴らしいですね!では僕らはその発展したエルフの里を満喫させて頂きます!」
「うむ、良い心がけだな。そうすると良い。」
笑顔で手を振って第一村人の元を後にした。
彼が見えなくなったあたりで、ソフィが話掛けてきた。
「……で、どう思う?」
「嫌な予感しかしない。」
「だよね、だってさっきからちらほら見えてるダークエルフ達、ボロボロだもんね。」
「上下関係が逆転した瞬間、仕返しと称して今までされたことを一度に相手に課す残念さんにありがちな行為ですね。」
アンナがボソボソ毒を吐いてる。
今回の場合は種族単位でそんな事をしているって事だよな、多分。
そんな時、
「もう止めて下さい!どうしてこんな酷い事をするんですか!」
「お前達が我らにしていた事をやらせているだけのこと。何が不満だというのだ?」
男女の言い争う声が聞こえてきた。
声のした方を窺ってみると、1人はダークエルフの少女、もう1人は小太りな青年エルフだ。
「ダークエルフとエルフとでは体質に違いがあるんです!我々ダークエルフはエルフの皆さんのように漂う魔素を取り込むのは不得手なんです。しっかりとした食事をしなければ生きていけません!」
「またそんな出まかせを……それを言うなら我らも食事は重要だ!だが、もしお前が俺に身も心も捧げるならば少しは考えてやらんでもないぞ?」
「そ、それは……」
「んん?簡単な事だぞ?薄汚れた魔族の豚を可愛がってやると言っているのだ、光栄な事だろう?」
ゲスの極みだな。
アンナは不快げに顔を歪めてる。
ダークエルフの娘さんは究極の選択だ。
でも自分の身を差し出しても多分食生活は改善しないと思うぞ、典型的なゲスキャラだもの。
え?助けないのって?
助けないよ。面倒だもん。
言い方はアレだけど実際ただのナンパだしね。
道端で見知らぬ美女がナンパされてたらどうする?
助けでも求められない限り100%シカト案件でしょ。
「ローガン、割って入らないの?」
「ソフィさんや、あの程度のイザコザに毎度首を突っ込んでたらいつまでも次にいけないよ。しかもただでさえ遅い執筆が更に遅くなるのよ。」
「なるほど、それは大変。」
「アンナもそれで良い?」
「ええ、種族間の問題などは根が深いでしょうから、スルー安定です。」
よし。
と、いうわけで静かに二人の脇を通って行く。
「どうだ……む?そこにいる人間族の女もなかなか良さそうだな。おい、お前達もこっちに来い。一晩だけ相手をしてやろう。」
絡まれてしまった。