居合の心得
これ以上ここにいたら何のかんのと理由をつけられて貴族にされてしまいそうだ。
さっさと本土に戻ったほうが良さそう。
そんなことを考えながら客間に移動している時、
ドゴォ!
建物が揺れる程の衝撃、そして音が響いた。
何事かと音の出所へ駆けつけてみると、昨日色々あった訓練場に辿り着いた。
もしかして日常的にこんな音がなるような訓練でもしてるんだろうか。
「何事だ!?」「こっちから音がしたぞ!」
というわけでもないらしい。
衛兵と思われる人も駆けつけてきた。
そして、気になる訓練場の中では……
「グゥゥ……ハンデを貰って、手も足も出ないとは……」
「いや、キョウさんもかなりイケてると思うよ。大抵の魔物なら瞬殺じゃないかな。」
「とはいえあなたの前では子供同然。俺にはもう、強さしか貢献出来るものがないというのに……」
倒れ伏すキョウさんとその横で突っ立っているソフィの姿だった。
会話の内容からすると、恐らく模擬戦でもやってたのかな?
一応二人に聞いてみる事にしよう
「模擬戦かなにかやってたんですか?」
「そうだ。精神が戻ったとは言え、外見は魔族のままだ。身体的、魔力的に強化はされたものの、こんな肌の色では当主など務まらない。」
キョウさんが見せてきた腕の色は、真っ青に染まっていた。
「魔族が当主なんて、認められる訳がない。だからこそ当主の夢は諦めて、せめて戦力として家に貢献したいのだ。その為にはもっと強くならねば!」
「やりたいんだったらやりゃあ良いじゃないですか、当主。ジュンさんは継承権を放棄してしまいましたし、もう1人も消息不明なんでしょ?」
「そーだよね、さっきから私もそう言ってるんだけど、全く聞く耳持たないのよね。」
「魔族が当主など前例が無い。現当主が認める訳がないだろう!だいたい、魔族がトップにいたって誰も従わないだろう!」
そう叫ぶキョウさんの目からは涙がこぼれ落ちていた。
こりゃだめだな、完全にネガティブモードに入ってしまっている。
「これで弱いとなれば本当にただの穀潰しだ……どうせ何の役にも立たないならいなくなってしまった方が……」
「バカー!!」
キョウさんの弱音を止めたのは横合いから繰り出された鉄拳だった。
全く無防備だったところにイイのをもらったキョウさんは数メートル飛んで頭から地面に突き刺さった。
「弱音を吐くのは勝手だけどね、まずは私達に一言相談しなさい!!」
「そうだぞ、何のための指南役だと思っている。」
キョウさんの指南役の皆さんが勢揃いしていた。
ちなみに殴ったのは料理対決をしたお姉さんだ。
しょうがない、ちょっとだけ協力してあげようかな。
「じゃあ、僕らはキョウさんのトレーナー兼スパーリング相手という事で協力しますよ。」
「おお!ありがとうございます!!」
「キョウさんは居合の使い手みたいだから、僕から伝えられるのは幕末のるろうにの流派と岩本さんの流派とジニュアール先生の流派あたりかな」
「なんと、3つも流派を極められているとは!」
「いや、極めているというか見たことがあるだけなんですけどね、取っ掛かりは示せると思いますよ。」
指南役さん達と勝手に話を進めてしまう。
ちなみにこの間、キョウさんは地面に突き刺さったままである。
可哀想に、と思っていたら、ソフィが地面からずぼっと引き抜いてあげていた。
「というわけでキョウさん、修行の時間です。僕らは次の船の出港で帰りますから、2週間だけの簡単コースでやりますね。」
「は?んん?……つまり、俺は強くなれるのか?」
「そうですね、強くなれると思いますよ。」
ガチャリ
キョウさんに問答無用で、ある腕輪をつけてあげた。
「この腕輪は何だ?」
「これはですね、魔力の使用をできなくする腕輪です。最近作りました。」
この間つけられた腕輪の改良品を作成してみた。
改良点は着けた直後の不快感を感じなくして、普通に運動する文には問題ないようにしたこと。
「む……なんだか心なしか身体が重いぞ?」
「魔族は身体強化の魔法が常時発動してるみたいですからね、それが無くなったからでしょう。そんなキョウさんにやってもらうのが、こちら。」
キョウさんに太めの青竹を二本渡した。
「これは、竹か?」
「そうです。これを、両手で一本ずつ持って握り潰して下さい。」
「……え?」
「タイムリミットは今日中です。はい、始め。」
「……え?」
「噂では陣痛に堪える女性が握り潰した事があるそうなので、人間の限界の範疇です。」
「そ、そうなのか?よ、よーし……ふんぬっ!」
力を入れ始めて数秒……キョウさんが手を離すと、うっすらヒビが。
「よしっ、これ」「全然駄目です。握った瞬間に竹が爆散するくらいの力で。はい、次。」
「そ、そんなの無理だ!」
「出来ます。少なくとも秘剣シューティングスターを使える剣士は全員出来ます。人間の成長は、自分を乗り越える事です。今までの常識を捨てるのです。」
「そんな事言って、あんたはできんのか!?」
バキィ!
「出来ます。」
「……」
「ごく平凡な10才児にだってできるんですから、ちゃっちゃとやって下さい。」
「……(平凡ってなんだっけ?)」
……………………
「で、出来たぞ!遂に出来た!!」
「はい、おめでとう。次はナイフで小屋サイズの大岩を真っ二つにします。」
「…………え?」
………………
「よし!シューティングスターに大地切り、マスターしたぞ!」
「はい、じゃあ次は一回の抜刀で九ヶ所を同時に切ってもらいます。それが出来たら超高速の斬撃で剣圧を飛ばして敵からの魔法攻撃を斬り裂いてもらいます。」
「ヒィィ!?」
…………
「よ、よし……やっと……形になったぞ、これで免許皆伝……」
「マスターしたようですね、では次は本来物理攻撃が効かないレイス系の魔物を剣だけで倒します。それが出来たら強力な抜刀で真空を作って相手を吸い込み、更に強力な一撃を叩き込む秘剣を習得してもらいます。」
「 」
……
「遂に……これだけの期間で習得出来るとは……俺は天才だったのか?」
「次です、武器に魔法を纏わせて振り抜く最強の抜刀技テラストラッシュと、魔力で刃を任意に延長させて斬るライザーサーベルです。どちらも難易度が段違いですよ」
「……段違い?」
………………………………………………
皆さんお久しぶりです。
諸事情により、一月程遠ざかっておりました。
これからまた細々とやっていきますので、よろしくおねがいします。