魔除けの手紙
フリーズしてしまったお兄さんの横を通って出口へ。
ついに俺達は死地を脱出したん……
「ちょっと待て!」
駄目だったみたい。
「この俺に向かって無理難題を押し付け、できないと嘲笑うようなその態度……許さん!そこに直れ、切って捨ててくれる!」
からの抜刀。
抜刀って万国共通の闘いのゴングだよね。
とはいえこちらもあまり大事にしたくない。
そんな訳で、秘密兵器を投入だ。
「ちょっと待って下さい。こちらをご覧下さい。」
そう言いながら一通の手紙を取り出した。
さらにその封蝋を見せる。
「この家紋……貴様らは一体何者だ?」
どうぞお読み下さいと促しながら説明を始める。
「僕らはついさっき到着したばかりの観光客なんです。この国についての常識や作法が分からないので、粗相があったのなら謝罪いたします。どうかお許し下さい。」
そんなこちらの話を聞いているのかどうか、お兄さんは食い入るように手紙を見つめている。
ちなみに、あの手紙はカジノのジャンさんに書いてもらった物だ。
どうやらジャンさんはこの国の良いトコの坊っちゃんみたいで、その家はかなり権力のある所だそうだ。
とはいえ本人は家督相続の争いに敗れて隠居状態みたいだけどね。
そんな訳で、俺達がヒノデに行くと知った時に、何かあった時の為にと、この手紙を持たせてくれた。
偉い人に絡まれたときに渡すと良いと言って。
「ローガン、あれって何が書いてあるんだろ?」
「この人の事はジャンさんの家で保証しますとか書かれてるんじゃない?」
さすがはジャンさん、根回しが上手。
手紙を読むお兄さんの手がぷるぷる震えている。
ふふ……今頃手を出そうとした相手のバックを知って震えているに違いない。
さてさて、ちょっと煽ってやるか。
「えっと……何が書かれているんですか?僕らも手紙の中身は読んでないので。」
「ああ、お前達2人を城乃内家三男ジュンの指南役に任命すると書いてあるな。」
おお、指南役。
なかなか強そうなカードじゃないか。
観光で使っている分には無敵じゃないのかと思うくらい役が足りている。
……城乃内家というのが大家なら、ね。
と言うかジュンなの?ジャンじゃないの?
「なるほどな、お前達の態度がそうだったのも頷ける……」
「つまり?」
「お前達はここで解放、と言いたい所だが……城乃内家の指南役なのだ、せっかくだから俺の家で歓待してやろう。」
「いえいえ、無関係の方にそこまでしていただかなくとも……」
「俺の名は城乃内キョウ……ジュンの兄だ。」
「へ?」
「残念ながら関係者だ。ウチの指南役をそこらのボロ宿に泊めなどしたら、それこそウチの沽券に関わる。ついてきてもらうぞ?」
まさかのご兄弟一本釣りでした。
……
キョウさんの案内のもと進んでいくと、白い壁に緑に瓦の乗った純和風のお城が見えて来た。
マジか……この人ヤのつくあっち系の人かと思ったら殿的なそっち系の人だったのか。
さっきまでの無礼な発言とかノーカンにできないかな?
「ここだ。」
と思ったらお城のすぐ脇のお屋敷でした。
殿では無いと分かってちょっと一安心。
でも相当立派なお屋敷だ、これまた黒の瓦に白壁が美しい……そして。
「……これは見事なお庭ですね。」
「きれーい。」
「そうだろう、我が家自慢の庭園だ。」
目の前にはきっちり線対称に植えられた色とりどりの花たち……西洋風の庭園だ。
ここまで純和風でやってきたのに庭が西洋風とか……
ここにもミックス文化のカオス理論がトゥギャザーしてるな。