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それぞれの正義(レイ視点)

「“ホーリィレイ”」

「……ッ!“マジックシールド”」


相手の放つ魔法は初級の光魔法。

でも、そこらの魔法使いが使うものとは一線を画した威力のあるそれを、私は魔法障壁を斜めに構えて受け流す。

マトモに受け止めたら私の障壁なんてあっという間に貫かれてしまう。

光の奔流が止んだ直後、目の前には天使(ラエルと言ったか?)の顔が間近に、拳は既にこちらに振り下ろされている。


「フンッ!!」

「……クッ!」


ギリギリの所で地面に転がり直撃を免れたけれど、天使は気にする事なく拳を地面に打ち込んだ。

どれほどの威力が込められていたというのか、まるで爆発でも起こったかのような大地が抉れる程の衝撃。

その衝撃波を受けて私の体は近くの木に強かに叩きつけられた。

肺の中の空気が絞り出されるような感覚……咽ながらもすぐに立ち上がって身構える。

さっきから魔法を防御して、拳を避けて衝撃波でふっ飛ばされることの繰り返しだ。

単純な戦法故に中々崩せず、こちらの体力だけが削られている状態……もう何度も耐えられるものではない。


「人間の割には、よく頑張った方だな。しかしそのボロボロの体ではそろそろ限界だろう」


勇者達の援護は期待できない。

彼らも必死に戦っているが、分が悪いように見える。

勇者の攻撃や魔法は相手を傷付ける事ができないようだ。

鎧の材質を聞いて勇者が悲鳴のような声色になっていた事から、相当上位の代物なのだろう。

アランに至っては魔法を無力化されてしまい、防戦一方になってしまっている。

魔法の洗礼儀式は神教国の教会が執り行っている、何か権限で相手の魔法を無効化できるのかもしれない。


「まだまだ余裕よ。あんたの相手なんてさっさと終わらせて二人の援護に駆けつけなきゃいけないんだから。」

「それはそれは剛毅な事だ。ならば、もう少し強くしても大丈夫だな?“アークボルト”」


天使の手に浮かび上がった魔法陣は、さっきのものより大きく、複雑な紋様が浮かび上がっていた。


「“マジックシールド”」


障壁が完成した直後、魔法陣の中心から真っ白な稲光がこちらに向かって放たれた。

あまりの威力に私の障壁は破られ、全身を激しい痛みが襲ってくる。

膝がガクガクと震え、立っていられない。

身体を叱咤して立ち上がろうとしても、全く力が入らない。

天使はそんな私を嘲笑いながら、逆にゆっくりと近づいてきた。


「おいおい、大丈夫か?早く立ち上がらないと、トドメの一撃を避けられないのではないか?」

「あ、あんた……一体……何を?」


喉も痙攣してうまく言葉にならない。


「単純な話だ。感電して身体が麻痺したんだろうさ。」


どうにか顔を天使に向ける。

天使は私のすぐそばで腕を振り上げた。


「じゃあな、結構楽しかったぜ。お前のミンチの破片が仲間まで届くように精一杯やるからな。お前さえ死ねば後の二人はお役ごめんで解放だ、良かったな。」


振り下ろされる腕、超高速で迫る拳。

それをただ眺める事しかできない。


……


私が産まれたのは、ゴミ溜だった。

街の隅で、食べられず、寒くて、痛い……毎日が苦痛だった。

そんな私に、転機が訪れる。


「こんにちわ、あなた親はいないの?」

「?」


当時は言葉も知らなかったので、彼女が何を言っているのかは分からなかった。

でも、その時の微笑は今でも覚えている。

彼女は教会のシスターエルザだった。

何故か私を拾って、育て、文字を教え、魔法の指導をしてくれた。


どうして助けてくれたのか聞いてみると、自分に都合の良い戦力が欲しかったからだそうだ。

その意味を知ったのは、エルザから色々な仕事をお願いされた事だった。

町にいる子供の情報を集めたり、物を盗んできたり……そして、人を暗殺したり。

彼女の為に何でもしたいとは思っていたが、どうしても暗殺はできそうになかった。


それだけはやりたくないと懇願すると、彼女は私に魔紋を刻んだ。

そこからじっくり調教され、私はご褒美のためなら何でもするクズに成り下がった。


さらなる転機は最近だ。

エルザがついに討伐されてしまったのだ。

私が気絶させられ、目を覚ました時に目の前にいたのは、私を気絶させたルミナスブラックと名乗る黒装束だった。

しかもここで、私は魔紋が体から無くなっている事に気付いた。

エルザが倒されて自動的に消えたのか、もしくはこの黒装束に消されてしまっていたのか分からないが、エルザとの繋がりが絶たれてしまったのは間違い無い。


「どうしてこんな真似を!?エルザはとても優しかったのに!」

「優しかったのは、君に対してだけだろう。」

「それならば、何故私が生きている!?」

「君の罪は彼女の罪だ。君の罪は魔紋と一緒に彼女に持っていってもらった。これからは、彼女の為でなく、自分の為に生きる事だ。」


エルザは善なるものでは無かった。

それでも、私にとっては最底辺から救い上げてくれた恩人だ。


「殺す、お前は絶対に殺す!」

「……生きる目的があるのは良い事だ。では、その日まで。」


その後、体が癒えた私はエルザの同僚に助力を願い、逆に裏切りの疑惑をかけられ命を狙われた。

命からがら逃げ込んだ教会の関係者も同罪と見なされ殺された。

私を取り囲んだ兵士の顔を見て、以前私がエルザの命令で浚ってきた子供だと認識してショックを受け、更にそれらが魔物に変貌してしまった事で更に衝撃を受けた。


もし黒装束がエルザを止めなかったら、この街は魔物だらけの街になっていた……

責任を取らなければならない。

黒装束を殺すより前に、成さねばならぬ使命を見つけた気がした。


とはいえ、魔族の側に属した過去は消える訳ではない。

神教国の教会に裁かれるのは、志半ばとはいえ致し方無いのかもしれない。

どうにか足掻いてやろうとしたけれども、それもここまで……


目の前には人一人を殺すにはあまりにも強力すぎる拳が迫ってきている。

私は己の結末を自覚し、目を閉じた。

ほんの少しだけ動くようになった体で、自然と手を握りしめ来たる衝撃を待った。

……いつまで経っても、衝撃が来ない。


「ギリギリではあったが、間に合ったようだ。」

「な…私の全力攻撃を…だ、誰だ!?」


何かおかしな事になっている?

恐る恐る目を開けると、


「空が呼ぶ……大地が呼ぶ……人々が呼ぶ。悪を倒せと、私を呼ぶ。ルミナスブラック、参上。」


私が標的にしているはずの者が、そこに居た。

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