メビウスエンゲージの副産物
「いやー、今のは決まったね。アニメだったら俺達二人の顔のカットインが入ってあしゅら伯爵みたいになってただろうね。」
「言った意味の半分以上解らない。でも、」
「でも?」
「おかげで私も成長したぞ!」
そう言って繋いだ手を放すソフィ。
「そ、ソフィ!?魔石が無いと死んじゃうよ!?」
「コォォォォ。」
「こ、これは!?吸血鬼に特効つきそうな呼吸法!?」
(呼吸で魔素を体に取り込んでいる!?)
「心と言葉が逆。」
「分かってるじゃん。」
「まぁ呼吸法を工夫しなくても自然に取り込めるんだけどね。」
「できるんかいっ。」
恐らく、さっき土壇場で思いついたメビウスエンゲージのおかげだな。
お互いの魔力をお互いに高めながら循環させる事で、相手の能力と考えをノータイムで共有しあえる状態から、俺の魔素の扱い方を学んだんだろう。
おかげでソフィは漂ってる魔素を体に取り込む事ができるようになった。
魔族なのに体内に魔石をもってない不思議な生命体になってしまった。
この場合、分類は魔族なのか人間なのか。
まぁ今の所、それなりに魔力を取り込まないと生きていけないって事で魔族≧人間ってとこか。
食べるのが好きだし、そのうち食物で十分生きていけるようになって魔族≦人間になっちゃうかも?
ちなみに、俺はアイテムボックスが使えるようになってしまった。
…なんてこった、理論は全く分からないのにできるのが分かる、結果できる。
悔しい!いつか自分で納得のいく空間魔法を開発するはずだったのに!
とまぁ、せっかく編み出したメビウスエンゲージ。
二人で魔力制御が同時にできるなら色んな事できるんじゃね?
とやってみたのが、勇者くらいしかできる人間がいないらしいデュアルスペル。
やってみたら、できた。
1人で頑張ってた時はどうにもならなかったものが、ソフィと一緒だとどんな魔法になるのかまで自由自在だった。
今回作成した魔法は鉄の処女をモチーフに、氷の柩と闇の棘を材料にした。
氷の壁は攻撃を受け付けずに全て受け流してしまう。
そこを回転する棘、というか杭が襲いかかってくる、氷の壁は杭も反射してしまうので注意が必要だ。
杭が回転するようになったのは恐らくメビウスエンゲージの回転する魔力の影響。
相手を空間に捕らえて穴だらけにしてしまう恐ろしい魔法と思いきや、制限時間もあるし頑張って避ければ意外に軽症で済むはず。
ルナシューターなら気合い避けで無傷で生還できるだろう。
だんだんと氷の壁が宙に溶け込むように消えていく。制限時間の3分が終わったみたいだ。
「さてさて、どれくらいダメージを与えられたかなぁ?」
「足と翼が傷ついてたら即逃げするからね。別に殺そうとは思ってないし。」
果たして…
ちょうど氷の柩の中央くらいの位置で蹲る天使を発見。
…なんか体中に杭刺さってる、そして傍らに落ちてるボロボロの剣。
まさか、剣で杭を打ち落とそうとしたのかな?
高速回転していて直進力のある杭を打ち落とすとなると、足を止めてやる事になり一瞬でも処理に手間取ると穴だらけにされてしまう。
だから最初のうちは薄めに弾幕を張って、全てを打ち落とすのは無理だよーという事をアピールする事になってるんだけどな。
まさか避けるのが嫌いなタイプだった?
そこらへんに落ちていた木の枝でツンツンしてみる…反応無し。
はっきりとは分からないけど、生きてはいないのではなかろうか。
「何てこった、まさか死んでしまうとは…」
極力人間は殺さない方針で行く予定だったのにな…
事件の容疑者である自称冒険者(10)の男は、殺すつもりは無かった、常識的に考えて避けると思っていた、などと供述しており…
「ローガンどーしたの?朝ご飯に肉が一品も無かったみたいな顔になってるよ。」
「肉が無くて残念な顔になるのはソフィでしょ!俺は野菜と果物派だよ。」
「で、その魔物の魔石はもらってく?」
「ん?魔物なんている?」
「いや、そこの天使よ。」
天使って魔物なん?
よくよく調べてみると確かに魔石っぽい魔力反応がある。
そっかー、天使が悪魔で仲魔みたいな世界なんだな。
人間じゃなくて、魔物なら正当防衛でヤッてしまってもしょうがないな。
じゃあ折角だから貰っていこうか。
と思ったけれども、ここでその魔石近くにもう一つ魔力反応がある事が分かった。
これは…さっきこの人が外していたピアス?
魔石はちょうど心臓の位置辺りにありそうだから、この人はきっと、このピアスを傷つけないように抱え込んで杭を甘んじて受けて息を引き取ったのか…
「うーむ、やっぱりやめとこう。」
「どして?」
「この人の意志に敬意を表して。」
「ローガンがそう思うなら、それで良いんじゃない?」
「ソフィも魔石必要無くなったもんね。」
そこまでして魔石も必要としなくなったからね。
「だな、コー、ホー。」
「パロスペシャルが得意そうな呼吸!」
「パロスペシャルて?」
「痛いおんぶみたいな関節技。」
…
「パロスペシャル!これが伝説の筋肉ドッキングって奴ね!」
「いや違うから、俺が痛いだけだから。」
「それでもローガンなら戦える!」
「流石に無理。」
次の追手が来る前に、さっさと移動しなきゃ。