ビッグダディと蜘蛛の目って近いものがあるよね?
いや、正確にはマジで死んじゃう30秒前。
深々と刺さったナイフは魔石まで到達していた。
倒れ込むソフィを抱きかかえると、不思議な感覚が体に流れ込んできた。
カラカラのスポンジに水が染み込んで行くような…これは、魔素の感覚か?
そう思っているうちに自分の体が元のローガンに戻っていくのを感じた。
ソフィの魔力は俺が作ったものだから、俺の体とも親和性が高く、染み込んでくるように入ってきてくれたのか。
という事は、さっきまで俺の体の中は魔素が何にもない状態だったんだな。
司祭の魔法陣に触れた時は、俺の手が絶縁体のような働きをしたってことだ。
つまり、もし俺がソフィに接触する前にソフィが死んでたら、俺は一生この姿のままだったって事か。
まぁ、その恩人のソフィさんは現在進行系で死にかかってる状態だけど、死ななきゃ安い。
という訳でローガンに戻ったのなら、色々やりようがある。
まずは回復魔法を試みる…予想通り効きが悪い。
恐らくはこの腕輪のせいだな。
この腕輪は装着者の魔力の波長を感じ取るとか何とか言ってたな…なら、ソフィの魔石を外に出しちゃえば、どうなる?
慎重にナイフが刺さったソフィの魔石を摘出した。
すると、腕輪が震えてソフィの魔石に飛び付いた。
「やはり魔石の方に腕輪が付いてったね、これなら大丈夫だ。」
ソフィの体に直接魔力を流しながら回復魔法もかけてやる。
これで俺の体が触れている間は、俺自身が魔石の代わりになってやれば良いから大丈夫。
そのうち魔素の濃い所で魔石を作ってやろう。
「そしてこの腕輪付き魔石で、ゴーレムを作ろうか。」
材料は辺りの拷問器具、これで蜘蛛型アイアンゴーレムを作る事にした。
この腕輪は魔素を振動させて装備した人間の脳や筋肉に強烈な不快感を与え、自由を奪うものものであって、魔力の流れ自体をどうこうするものではない。
ならば、この腕輪付き魔石を材料に、精神的苦痛を感じないゴーレムを作れば、正常動作するんじゃないの?
果たして、ゴーレムは起動した。
しかも思わぬ副産物として、振動する魔素がボディーに伝わり、周囲の人間に少々影響を与えるようになっていた。
ちなみに、大蜘蛛のデザインは以前ソフィが仮想空間で作り上げたあの大蜘蛛である。
主に近くまで接近するか咆哮などをすると、微弱な魔素の揺らぎが発生して軽い脳震盪のような状態になるみたい。
本来なら腕輪がそれを防ぐんだろうけど、大蜘蛛の巨体故か、又は腕輪を包み込むようにゴーレムを作り上げたからか、今回のような結果になった。
お陰で誰も殺さずに地下牢の上まで到達。
このまま俺のいるはずの場所を破壊させて、俺が脱走しているっていう証拠の隠滅を図ろうとしたんだけど、ここで幸か不幸かトラブル発生。
上空から極太レーザーが降ってきた。
回避が間に合わず、大蜘蛛は足の二本と腹部分の約半分を失った。
そして同時に、目的の地下牢も蒸発した。
ラッキー過ぎる展開だ。
後はうちの国に向かって逃げるだけだ。
最悪途中でロストしちゃっても良いけど、できれば国境まで逃げきれないかなー?
そんな訳で、国境まで辿り着くか辿り着かないか、是が非でも大蜘蛛を回収したいソフィは俺の髪をもみくちゃにした。
しかし、あともう少しの所で無情にもあのマスター粒子砲的なものが降ってきて頭部と胸部に直撃。
完全に動かなくなってしまった。
まぁこれで皆の目は欺けただろう。
ソフィは大蜘蛛に変身したけど死亡。
俺はあのメガスパーク的なものを喰らって蒸発。
報告書はそんな感じで締めくくられるんじゃないかな?
「ソフィ、このまま東に抜けちゃっても大丈夫?」
「いいよ。」
そう、ソフィの希望でこのままヒノデに向かっているのだ。
「このままじゃ不自由じゃない?」
「なんとかなるよ。このまま一生おぶってもらっても別に幸せだし。」
「よし、俺達は鋼鉄の絆で結ばれた最高のバディだ。どんな敵でも2丁拳銃でネメシスしてやろうぜ。」
「知ってる言語で喋ってプリーズ。」
そんなこんなでどうにか国境近くまで来れた。
ここから更に東に進み、海をちょっと進んだ先にヒノデがある…らしい。
「止まれ。」
まさかのここで呼び止められるパターン。
まぁ追手と言うよりかは国境沿いを警備している人とかだろう、適当に誤魔化して通してもらおう。
ゆっくり振り返って呼び止めた人物を見てみると。
「わぁ、見てリトルシスター、天使がいるよ。」
「いや、だから知ってる言語で喋ろや…って、天使だ!」
目の前にいるのは白い翼を背中から生やしたイケメンだった。