男と義娘 No.2
話は2日前に遡る。
蒸れた空気が寝苦しい夏真っ只中の朝、外でけたましく鳴り響く蝉の騒音に起こされた。今日は日曜日なのでいつもなら昼ぐらいまで寝るのだが、一度起きると暑さが気になりなかなか寝付けない。明け方にタイマーで切れるように冷房を設定していたのだが、今度からはやめようと思った。
すっかり頭が冴えてしまい、重い体を無理やり起こして朝食を作ることにする。朝食を作っていると2階で物音がした。多分娘のミサトだろう。娘といっても血は繋がっていない。妻の連れ子で出会った時には10歳だった。その妻もミサトが12歳の時にこの世を去った。妻は親戚関係があまり良くなく、ミサトは俺が引き取ることになった。
そんな訳で、今は17歳の高校2年生になった義理の娘と過ごしているわけだが…、2階からドタドタとミサトが降りてきた。服を着替えて出かけようとしている。
「おはよう、ミサト。朝メシできてるぞ。」
「…いらない。」
「朝食はちゃんと食べろといつも言ってるだろ!ってその格好どこに行くんだ?」
せっかく作った朝食を要らないと言われて少し苛立ってしまい怒気が混じった声になった。しかし、ミサトはそれを無視して靴を履き始める。そんなミサトに俺はついつい怒鳴ってしまった。
「おいっ!聞いてるのか?大体お前はなぁ…、」
「うるさい!黙ってよ!父親面すんな!キモいんだよ!」
最後まで言いきる前に怒鳴り返されてしまった。ミサトはズカズカ足音をたて家を出て行く。俺は拳を握りしめた。
「情けないよなぁ。どうすればいいってんだか。教えてくれよ。」
一人取り残された俺は口びるを噛み締めて妻の写真に向かってそう呟く。父親としてミサトとの距離をうまく測れないでいた。そして、はあっとため息をついて自分を落ち着かせると、ミサトが出かけて手つかずになった朝食にラップをし冷蔵庫にしまう。
先程何処に行くのかとミサトに聞いたが実は分かっていた。十中八九幼なじみのアキって子と遊びに行くのだろう。そのアキって子はミサトが小さい時からの付き合いらしく、妻が亡くなった時にはミサトを慰めてくれていた。ミサトは家に居づらいのか妻が亡くなってからはその子の家に遊びに行くことが多くなった。あちらの両親も妻との古い友人らしくミサトのことを可愛がってくれている。ミサトが泊まることが多々あり、いつもお礼を言っているが、そんなの気にしなくても良いと言ってくれる。それでもやはり申し訳なく面目ない。そんなこんなで決して仲がいいわけじゃない俺とミサトなわけだ。
それから何もすることがなく、なんとなくだらけて過ごしていた。ふと壁に掛かった時計を見ると12時をまわっている。
「はぁ、昼にしますか。」
そうして俺は昼飯の準備に取り掛かる。取り掛かるといっても基本休みに1人でいる時は冷蔵庫にあるものをチンして食べるか、カップラーメンだ。冷蔵庫に作り置きしていたものがなかったので、消去法でカップラーメンになった。ちなみに俺はカップラーメンにお湯を注いだ後、待ちきれなくて少し硬い麺を食べるのが好きだ。お湯を注いで待つこと2分、そろそろ待てなくなりフタを開けようとしたところに家に置いてある電話が鳴った。
「はい、もしもし。」
受話器に耳を当て電話に応答すると知らない声が聞こえてきた。
「***さん(***は男の苗字)のお宅ですか?」
「そうですけど、どちら様でしょうか」
「XX病院の者ですが、先程お宅の娘さんが事故に遭い搬送されてきました。」
突然言われた言葉に理解が追いつかず必死に頭を働かせる。俺は焦って早口になった。
「本当ですか!?娘は、ミサトは大丈夫なんですか?」
「かなり危険な状態です。今すぐ病院に来て下さい。」
「…わかり、ました。」
電話が切れると俺は呆然と立ち尽くしていた。だが、こんなことをしている場合ではないと、すぐに頭を切り替えて俺は家から飛び出して病院へ向かった。
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