男と義娘 No.1
本編スタートです。
といっても、男と義娘のプロローグのようなものです。
夜の11時を回った頃だろうか。そんな真夜中でも街は明るく、ピカピカと眩しく輝いている。そんな街並みの中にどっしりと佇む大きな病院があった。その病院の屋上には男と少女がポツンと存在している。男の方はだらしなく伸びた無精髭に目の下にはくっきりとした隈。年は30代後半ぐらいだろうか、それよりも上かもしれないが、明らかに衰弱しており痩せこけているため、はっきりと分からない。一方で少女の方はというと、赤いリボンのついた麦わら帽子に白いワンピース、首元には空色のスカーフを巻いている。髪は明るい茶髪で透き通るような肌をしていた。こうして見る限り、なぜ一緒にいるのか分からない組み合わせだが、男と少女は何か会話をしていた。しばらくして時計の針が丁度重なる頃になると、男は屋上と空中の際まですっと移動した。屋上から地上まで30メートルぐらいあるのではないだろうか。落ちてしまえばそれまでだ。そんな場所で男は少女の方に向き直り口を開く。少女に何かを話しているのだろう。すると、少女は初めて驚いたような顔をして、男に何か告げた。口の形からそれはありがとうだと読み取れる。そうして男は重心を後ろに傾け、空中に身を投げ出した。それはとても満足そうな父親の顔をして。
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