第五小節
「食らえ!秘剣・ウサきち無双!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!」
魔女・アーサーは鋼の鎧を纏った兵士たちを次々打ち倒して行く。魔女の癖に滅茶苦茶接近戦が得意のようだ。
「…強…」
勇者・ジークは呆気に取られてその様子を見守っていた。その呟きを聞いて魔王・ランスロットはにやりと笑う。
「当たり前だ。この俺と一対一で渡り合った女だからな…」
「えぇぇっ!?マジかよ!!」
伝説の英雄でさえ、7人がかりでやっと封印できたこの魔王を彼女は一人で相手にしたというのか。ジークにはとても信じられなかった。
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7対1の袋叩きに遭い、封印されてしまったランスロットが千年の眠りから目を覚ますとそこには黒いケープを羽織った亜麻色の髪の少女が立っていた。
「…まさかてめぇが封印を解いたのか…?」
ランスロットは目の前の少女をいぶかしげに見やる。その視線は射抜くように鋭い。
しかし、それを気にも留めぬ様子の少女は笑顔で親指をぐっと立てて言った。
「うん、そう。というワケで契約しておくれ☆」
もちろん傲岸不遜な魔王が素直にそれに応じるワケもなく、戦いの火蓋が切って落とされた。
戦いは三日三晩続いた。二人とも服が破れたりしていたが目立った怪我は見当たらない。
息が上がっていたが、魔王は楽しげににやりと笑う。
「ぜぇ…はぁ…てめぇ…俺がまだ本調子じゃないとはいえ、ここまで粘るとはな…やるじゃねぇか…」
少女も苦しそうだが、魔王の言葉を聞くと笑顔になった。
「はぁ…はぁ…長い封印で力が弱ってると踏んでたのに弱っててこれか…そっちこそ流石魔王だね…」
二人はお互いに自分をここまでぼろぼろにした相手を認めていた。
少女はちょっと休憩しようと言うと、魔王に魔法で別空間から取り出した何かを投げてよこした。
魔王は咄嗟に受け取ったものの、投げてよこされた物を見て驚いたような顔をした。投げてよこされた物は缶に入ったスポーツ飲料だった。
魔王の表情を見てくすりと笑った魔女は同じものを自分の分も取り出しながら言った。
「敵に塩を送るってやつだよ」
その言葉に魔王も笑う。
「へっ後悔したって知らねーぞ」
二人の間には友情が芽生え始めていた。
かに見えた。
「て、てんめぇぇぇ!!!!!!何か盛りやがったなぁぁぁ!!!!!!」
地に伏してそう叫ぶランスロットを見下ろす少女は冷たく笑った。
「くくく…私が調合した猛毒だよ…魔王にまで効くとは大成功だね…さぁ解毒薬が欲しくば契約を…」
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「…というのが俺とアイツの契約の経緯だ」
「黒ぉぉぉぉ!!魔王騙すとかどんだけだよ!!??」
ジークは魔女の恐ろしさを改めて痛感した気がした。そしてちょっと魔王に同情しそうになった。
魔王の話が終わる頃には叩きのめされた兵士が山となっていた。兵士たちを踏みつけ、その山のてっぺんでアーサーは高笑いしていた。
「ふははははは!脆い!脆すぎるわぁ!!」
「ちょ、おま!パンツ見えてるから!!そっから降りろ!!」
それまで静観していたランスロットが焦ったように注意する。魔王は以外と初心だった。
ランスロットに言われてアーサーがその山から降りようとした時、辺りに轟音が響き渡った。
森の方を見ると大きな土煙が上がっており、音の原因はそこにあるようだ。
その方向を見つめるアーサーの足元で兵士の一人が笑い出した。
「は…ははは…貴様等…調子にのっていられるのはここまでだ!」