第四小節
ズドォォォォン!!!!!!
ボガァァァァン!!!!!!
トーン国外れの森に爆音が幾度と無く響き渡る。
それは魔王・ランスロットと勇者・ジークの戦いによるものだった。
ただし、いくら吹き飛ばしても勇者は倒れず、勇者の攻撃(素手)は一度も魔王にヒットしていないという面白くもなんともない戦いであった。
戦いを魔王に任せ、木陰で読書を決め込んでいた魔女・アーサーは読書さえも放棄して居眠りし始めた。
ランスロットはいつまでも終わらないこの戦いが不毛な気がしてきた。そもそもコイツは防御力はともかく攻撃力は無いに等しいという弱さで自分たちに戦いを挑んでくるのか。
「諦めの悪い奴だなぁ…つーかお前さ、なんのために戦ってんの?」
ほとんど怪我は無いが泥だらけになっているジークが立ち上がりながら答える。
「なにってお前らの被害に遭った人たちの為に決まってるだろ!」
それを聞いたランスロットの顔から一瞬表情が消える。
しかし、すぐに人を馬鹿にした様な笑みを浮かべるとこう言った。
「…被害に遭った人、ね…果たしてそいつらにそこまでしてやる価値があるのかねぇ…」
「?…そういうお前らこそなんで城を襲ったりしてんだよ?」
ランスロットの言葉の意味を量りかねたジークは逆に質問をした。
ランスロットはその質問にあっさりこう答えた。
「あ?俺はほら…魔王としての義務?ステータス的な?」
「意味わかんねぇ!!!!」
どうやらランスロットには「魔王=悪事を働いてなんぼ」という概念があるようだ。
怒るに怒れない気の抜けた理由に呆れているジークをスルーして、ランスロットはさらに続けた。
「…でもまぁ、アーサーは……ん?」
言いかけてランスロットが何かに気づいたように振り返った。その先には木の根元で居眠り中のアーサー……を茂みから銃で狙う兵士たちがいた。
「撃てぇぇぇぇい!!」
リーダーの合図により、数人が一斉にアーサーに向けて銃を撃った。
「なっ!?」
いきなりの出来事に絶句するジーク。彼女は戦えないのではなかったか?それでは彼女は…
だが次の瞬間ジークがさらに目を疑う出来事が起こった。
キィンッ!!
辺りに響いた金属音は銀色の刃が銃弾を弾いた音であった。その銀色の刃を握っているのは、寝ていたはずのアーサーである。
「!!仕込刀!?」
銃を撃った兵士の一人が声をあげる。アーサーが持っていた杖はただの木の棒ではなく、中に刀が仕込んであったのだ。そしてその刀を瞬時に抜き、銃弾を弾いたのだ。
「はぁ!?ちょっと待てよ!!『戦いが苦手』ってどこがぁ!?」
そう叫んだジークにランスロットがさらりと答えた。
「服が汚れるから『苦手』らしいぜ」
「苦手ってそういうことかよ!!!!」
刀を肩に担ぐように持ったアーサーは余裕の表情で兵士たちと対峙している。
そして、にっこりと微笑みながら一歩ずつ彼らに近づいていく。
「…さて。誰の指示でこんなか弱い少女の寝込みを襲ったのかな?」
「……っ」
兵士たちはアーサーに気圧されて一歩下がるが答えようとはしない。
相変わらずの笑顔を浮かべながら近づいていくアーサー…
「…言えない、か。言えないのなら……」
それまでの一見穏やかな笑みを冷笑に変えて彼女は言い放った。
「覚悟しろやぁぁ!!!!」