第二小節
市街地から離れ、広大な森への入り口に広がる草原にアーサーとジークは立っていた。
「…どうしてもやるの?」
「当たり前だ!街の人は騙せてもオレは騙せないからな!」
ジークは戦う気満々である。だが、アーサーにはそんな気は微塵もないようだ。
「わかりましたもうしませんすいませんでしたってことで、帰っていい?」
「おもいっきり棒読みじゃねーかコラァ!!嘘つくなァァー!!」
ジークが大げさに突っ込むとアーサーは不満げな顔をした。
「えーいいじゃん…見逃してよ」
「罪も無い人たちを襲うなんて許せないし、そもそも凶悪な魔王を復活させるだなんて見逃せるわけねーだろ!」
ジークに直接魔女討伐を頼んできた国王の城はそれはひどい有り様であった。壁や床が破壊され、兵士たちの多くが負傷していた。おそらく他の襲われた城も同じような感じなのだろう。
「…罪も無い…か。まぁいいや…君、後悔しないでよね」
アーサーはジークのしつこさに負け、戦う気になったようだ。それを見てジークが構える。
「よし!来い!!…あ、お前戦い苦手なんだっけ?じゃ魔王早く呼べよ」
彼は勇者だけあって正々堂々戦いたいたいらしい。それが墓穴にならないことを願う。
「じゃあ行くよ?出でよ杖!」
アーサーの手元に光りが収束し、魔女に不可欠な魔法の杖が現れた。
が。
「なんじゃその杖はァ!?」
勇者が思わず大声で突っ込みを入れたその杖は…杖というか物干し竿位の長さのただの木の棒に、可愛らしいうさぎのぬいぐるみがヒモでぐるぐる巻きつけられているというなんともいえないシロモノであった。
「可愛いでしょ?ウサきちって名前なんだ」
ジークはウサきちが可哀想じゃねーかと突っ込みたかったが、流石に面倒くさくなって突っ込みを放棄した。
「じゃ、魔王呼びまーす」
アーサーが杖を構えると魔方陣が足元に現れ、ジークはゴクリと喉を鳴らした。何せ相手は最強の魔王である。
アーサーが不敵に微笑み、魔王を召喚する。
「来たれ!我が盟友ランスロット!」
彼女がそう叫ぶと魔方陣が強い光りを発し、その中に人影が現れた。
「!こいつが…最強の魔王…!」
光りが収まってくるとその人影の姿が徐々にあらわになってくる…
黒い大きな翼…
闇のような漆黒の髪…
鋭い真紅の瞳…
そしてその手にはカップに入ったプリン…
一瞬その場の空気が止まった気がした。
我に返った魔王・ランスロットはスプーンを手にしたまま、アーサーに食ってかかった。
「おまっおやつの時間に呼び出すなっつったろーがぁぁ!!!!返せよ!俺の魔王としての威厳返せよ!!」
「はっはっはっめんごめんご」
全然謝罪の気持ちがこもっていない謝罪をするとアーサーがジークの方を指差す。
「彼が私たちを倒すっていうからさ〜」
「…へぇ…いい度胸してんじゃねぇか…」
ランスロットはをジークに目をやると整った相貌を歪めてにやりと笑う。その瞬間ジークに悪寒が走った。
あんな登場の仕方だったが、やはり最強の魔王の名は伊達ではないようだ。
ジークに眼つけているランスロットにアーサーがビシッと親指を立てて言う。
「それに彼を消せば『プリンを食べる魔王』の目撃者も消せるワケで一石二鳥だよ」
「…お前マジ腹黒いよな…」
魔王は心底呆れたように言った。しかし、すぐ気を取り直したように勇者をにらみつける。
「まぁいい…さっさと始末してやらぁ!」
「あ、ちょっと待って」
さぁ戦うぞという時にアーサーが制止したのでランスロットは流石に怒った。
「んだよ!?ふざけてんのかてめぇっ!!」
「いや、戦う前にさ、その翼しまってくんない?なんとなく邪魔だから」
「はぁぁ!?邪魔っておま、これないとただのその辺の人間に見えるじゃねぇか!!…じゃなくて、この翼のある本来の姿じゃねーと力が半減しちまうんだぞ!」
魔王はよく見ると着ているのは黒地に桜模様のシャツにジーンズといったチンピラっぽいファッションで翼が無ければただのチンピラにしか見えなかった。
しかしアーサーは彼の言葉を聞いてにっこりと微笑んだ。
「最強の魔王様なら本来の力の半分でも楽勝だよね?」
「…てめぇ…言うじゃねぇか……まぁいいぜ。あんな体育祭野郎、半分の力でも有り余るくらいだぜ!オラァァ!かかって来い体育祭!!」
魔王は素直に翼をしまうと不敵な笑みを浮かべてジークに言い放った。
魔女と魔王のツッコミどころ満載のやり取りに呆気にとられていた勇者だが、ハッと我に返ってつっこんだ。
「オレの名前体育祭じゃねえよ!!」