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第一小節

昼間だと言うのに城の中は静まり返っている。

まさか自分の兵隊は全員やられてしまったのだろうか…

トーン国の国王・ロール5世は自室のクローゼットの中でぶるぶると未だかつて無い恐怖に震えていた。


先刻、この城へ魔女がやってきた。その魔女は見た目こそ可愛らしく年の頃十代後半の普通の少女と変わらなかったが、邪悪な微笑みを浮かべると魔王を召喚し、脅してきたのだ。


自分はここに逃げてきたが、家来たちが迎えに来ないと言うことは皆やられてしまったということなのか。そう考えてますます顔面蒼白になったロール5世の顔に光りが当たった。クローゼットの扉が開けられたのだ。


家来が助けに来てくれたのだろうか、と嬉々として上げた顔がそのまま凍りついた。


「国王陛下、見つけましたよ〜」


そこにいたのは優しげに微笑む魔女だった。




一月程前になるだろうか。

伝説の魔王と契約したという魔女による国王の城の襲撃が始まったのは…

被害にあったのはトーン国で既に3国目である。

魔女は最初は礼を尽くして国王に謁見し、ある物を探していることを告げ、持っていないか訊ねる。

「知らない、持っていない」と答えるとトーン国でのことのように武力行使で脅迫した挙句、兵隊は一人残らず叩きのめされ、勝手に城内を探し回るのだ。

今の所死者は出ていないが、被害に遭った国王もこれから対象にされるであろう国王もたまったものではない。

そこで各国の国王たちは魔女を倒すべく、対策を練り始めたのであった。



トーン国の領土内のある街の広場。

一人の少女がベンチに座って地図を見ていた。ボブっぽく整えられた亜麻色の髪にパッチリした碧眼、白い肌という麗しい外見を持ったこの少女こそ、世間で騒がれる魔女であった。

「ん〜次はどこの国に行こうかな〜」

などと一見旅行先を探しているのかと思う穏やかな口調だが、行き先の国のたどる運命を知る者には恐ろしい発言である。


そこに一人の金髪の青年がやってきて彼女に声をかけた。

「オイ、お前が魔女・アーサーか!?」

顔を上げたアーサーは首を傾げた。

「…そうですけど?」

青年は彼女が答えるやいなや、ひとさし指をビシッとつきつけてこう宣言した。


「オレは勇者・ジーク!お前にひどい目に遭わされた人に頼まれて、お前を倒しに来た!!」

「ぶはっ」

「ちょ、何で笑うんだよ!?」

ジークと名乗った青年の宣言にアーサーは吹き出してしまった。ツボに入ったらしくアーサーは腹を抱えて笑っている。

「くくっ…だって…その格好で勇者とか…あはははは!」


勇者・ジークは上下ともに真っ赤なジャージ…しかも背中に大きく「勇者」と書いてある…を着ていたのだ。しかも鉢巻というかバンダナも真っ赤だった。

ジークはジャージ程ではないが顔を真っ赤にして怒鳴った。

「う、うっせー!この格好が一番動きやすくてベストの装備なんだよ!ジャージ馬鹿にすんな!つーかオレの話聞いてたか!?」

「…勿論聞いてたよ…私を倒しに来たって?」

ようやく笑いも収まってきたのか、アーサーはジークに落ち着いた笑顔で答えた。

が。

「笑止!!」

「!?」

穏やかな笑顔は一転、心底ジークを侮蔑するような表情を浮かべ、はき捨てるように言った。

彼女の急変と威圧感にビビッたジークは硬直する。

アーサーは座っていたベンチに上がり、ジークを見下すようにして言葉を続けた。

「…私を倒す?はっこの身の程知らずめが!貴様は体育祭でパン食い競争にでも出てるのがお似合いだ!」

(パン食い競争!?…でもつっこめねぇ…な、なんて威圧感だ…コイツきっとすごく強い!)

威圧に耐えるジークをよそに彼女はベンチから降りた。

「!来る気か!?」

と身構えるジークを見つめ、彼女はにっこり微笑んだ。


「な〜んて言ってみたけど、私実は戦うの苦手なんだよね〜」

「えぇぇぇー!!??そうなのぉぉー!!??」

思わず叫ぶジーク。あれだけ威圧されていたオレって一体…が、今は落ち込んでいる場合ではなかった。

「と、とにかく…オレはお前を倒し…ぐがっ!?」

突如、ジークの後頭部に強い衝撃が走り、彼は倒れてしまった。

彼を襲ったものの正体は…


「あらま、折れちゃったわ〜勿体無い!」


なんとエコバッグを手にしたおばさんであった。おばさんの手には折れた大根が握られており、ジークを殴った凶器は大根だったのだ。

おばさんは倒れたジークを無視し、アーサーに近寄るとその手をとった。

「あなたが魔女さんね!アーサーちゃんって言うのね〜」

「あ、はい。そうですが…」

「あなたが王様に税金下げるように言ってくれたおかげで生活が助かるわ〜」

アーサーは城を出る前に、そこの国王に「税金下げろ」だの何かしら脅は…じゃなくて進言するので、国王たちからは恐れられていたが国民からはむしろ密かに支持されていた。


アーサーは穏やかに微笑むとそのおばさんに言った。

「そんな…奥様、私は大したことはしていませんよ」

(いや、ある意味大したことしてるだろ!!)

復活した勇者が心の中で突っ込む。

「まぁ〜アーサーちゃんったら謙虚なのね〜」


いつの間にかおばさんの他にも人が何人か集まってきて、アーサーに礼をのべていた。

ジークはその光景をしばらくポカンとして見ていたが、はっと我に返った。

彼女は悪い魔女なのだ。市民は彼女の偽善か何かに騙されているに違いない。

「おい!みんな、騙され…おげぇぇ!?」


彼の叫びは後ろから走ってきたどっかのおばさんの体当たりによって中断、人々のざわめきでかき消されてしまった。

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