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終章 終戦から五年が過ぎた今

 「あー。だりー。マジで王様とかやってらんねー。俺、本当、こういう仕事向いてないと思うんだけど。こういう窮屈なのが嫌で家出したのに、なんで俺、ここに戻ってきてんの?」

 そう執務室で処理すべき書類に囲まれてぼやく現王ハンスに、補佐役が、はいはいその台詞は聞き飽きたので、ちゃんと仕事して下さいね、国王陛下。と適当に返す。

 「ニトは良いよな。外回り仕事で、しょっちゅうあっちこっち飛び回ってさ。俺もたまにはあいつみたいな仕事してーな。」

 そんなことを言いながら、ハンスは書類を片付けていき、溜め息を吐いた。

 「にしても、ニトの奴。前は国の運営に関わるのあんま乗り気じゃなかったくせに、戦争終わったとたん張り切っちまってさ。やたら働くし。昔なら絶対やらなかったようなことだって、積極的にやるし。前はあんな扱いにくい奴だったのに。今は何故か元々の幼馴染みちゃんバカが余計こじれて、幼馴染みちゃんの名前出してちょっとおだてるとどんな難易度高いことも二つ返事で了承して、しかもちゃんと仕上げてくるという、扱いやすさ。いったいあいつに何があったんだ?アルバート・サクリエルとの決戦前、幼馴染みちゃんと遭遇したって話しは聞いたけど、その時は幼馴染みちゃんも自分が殺すとか言っちゃうくらい荒れてたのに。それが、全部終わったら、あいつの中の幼馴染みちゃんが、元々天使みたいだったのが女神様くらい昇格しててさ。幼馴染みちゃんのこと少しでも悪く言うような奴がいれば超怖いし。あいつ、あんなんで大丈夫かね。もういい年になるのに、結婚どころか彼女もできねーぞアレは。」

 「無駄口は良いから、さっさと仕事を片付けて下さい。」

 「黙々と書類片付けるの苦手なんだよ。ちょっと無駄口叩くぐらい良いだろ。」

 そうぼやくハンスに、補佐役は、仕方がないですねと溜め息を吐いて、彼の雑談に付き合った。

 「ニトの心配より、あなたは自分の心配されたらどうですか?アレから五年。国内も安定し、巷には目立った問題もなくなって。この国は王政ですからね。最近はもっぱら跡継ぎ問題が浮上してますよ。あなたこそ本当にいい年なんですから、そろそろ正妃を娶ることを真剣に検討なされては?」

 そう痛いところを突っ込まれて、ハンスは言葉を詰まらせた。

 「あー。アレだ。正妃となると、外交の問題もはらんでくるしな。見た目が良くて、頭も切れて、ちゃんと俺のことを立ててくれる。そんな女じゃねーとダメだろ。ほら。そうなるとなかなかな・・・。」

 そう口にして、疑いの眼差しで自分を見てくる補佐役の視線が痛くて、ハンスはあーっと声をあげた。

 「正妃候補としてあげられてくる女なんて、みんなどこぞのお嬢様ばっかじゃねーか。お上品なお嬢様ぜんとした女が苦手なんだよ、俺は。くっそ。俺だってな。本当なら革命終わって王座についたときに、ちゃんと結婚してるはずだったんだよ。だけど、プロポーズしたら、ニーナに断られちまったんだから仕方がねーだろ。美人で頭も良くて、あいつなら問題なく正妃も勤まるはずだったのにさ。二十代前半の頃からずっと付き合ってたのにだぞ。プロポーズしたら、わたしは酒場の歌姫が性に合ってるの、正妃様なんて窮屈で耐えられないわ。なんて言われて、あまつさえ、愛人にならなってあげてもいいわよ、王様。なんて台詞まで吐かれてさ。くっそ。どっかに俺の性分に合う良い女いねーかな。マジで。王座ついてから、こちとら本当、全く遊んでねーんだよ。エルがあんななっちまったの見たら、もうさ。ちゃんとした后以外に手出すとか無理だろ。本当、逆にさ、よさそうな相手がいるなら、紹介して。」

 そう嘆くハンスを補佐役が心底可哀相なものを見るような目で見つめていると、執務室のドアがノックされ、使用人が封書を持って入ってくる。そしてそれを受け取ったハンスは、その中身を即確認した。

 「これは、また・・・。」

 中に入っていた書類を見てそう呟いて渋い顔をするハンスに、補佐役がどうかしたんですか?と声を掛ける。

 「いや。ちょっとな。ニトの幼馴染みちゃんバカがあまりにも酷いし。実際、幼馴染みちゃんの境遇ってアレだったからさ。うちには元々色々あって敵だったのが仲間になった奴もいるし。戦争だったんだ。お互い沢山殺し合って当然で、どちらかが一方的に悪いだとかなんだとかそういうもんじゃない。今なら良い感じにほとぼりも冷めたし、内心受け入れられなくても、表面上は誰もが皆、あの頃のことが水に流せるようになったはずだ。そうしてもらわなきゃ、俺達だってどうしようもないしな。だから今なら、ニトの幼馴染みちゃんを見つけ出して、ここに迎え入れることも可能じゃないかと思ってさ。ちょっと行方を捜させてたわけだけど・・・。コレはちょっと、あいつには見せらんねーな。あいつにバレたら色々ヤバい気がする。」

 そう言ってハンスはその書類を見なかったことにして処分することにした。

 その報告書に載った一枚の写真。そこに写っていたのは、幼い女の子の手を引くニトの幼馴染み、サヤ・バルドと、その両脇に寄り添うように立つ二人の男の姿だった。そこに写る男達は、かつてこの王国の王だったハンスの弟、エリオット・シャルマーニと、そしてその右腕の聖騎士だった、アルバート・サクリエルによく似ていた。いくら目や髪の色変えたって、三人揃ってちゃバレバレだろ。そんなことを考えて、ハンスはあの頃自分達が騙されていたことを知る。でも、そこに写る幸せそうな三人の姿を見て、ハンスは良かったなと思った。絶対悪として死んだはずの人間が生きている。それは本来赦されるべきではないと思う。でも、それでも自分の弟が生きていてくれて良かったと、今が幸せそうで良かったとそう思ってしまうのは悪いことなのだろうか。そんなことを考えてハンスは、いや、エルはあの時死んだ。ここに写っているのは、本当にただのそっくりさんさ。そう思い込むことにして、それ以上そこに弟を重ねないことにした。

 「にしても、この子供。ニトに似てる気がするのは俺だけか?いや、まさかな・・・。」

 そんなことを呟いて苦笑すると、ハンスは魔力を行使して、その手に持った書類を燃やして跡形もなく消し去ってしまった。


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