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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

直情彼女と、恋人の愛情表現に戸惑う彼女。

いつも題名を考えるのに苦労します、あまり気にしないで読んでいただければと思います。

待ち合わせ人はひどく目を引いた、私はなるべく目立たないようにと注意したのだけれど身から出る無意識のオーラがそれを許さなかったらしい。

「ごめん、静。」

私にそう謝ってからカフェのテラス席に座った。

モデルの篠原奈央。

名前からその容貌はマッチしない、多分名刺をもらったとしたら思わず顔と名刺を何度も見比べてしまうと思う。

ボーイッシュである。

が、身体の細さが男性のそれと違うし、顔も草食系でもビジュアル系でもない。

「歩いていたら捕まってしまって遅れちゃった。」

「だと思った。」

私は先に頼んでいたココアを飲む。

「またいつもの?」

飲んでいるものを指して。

「コーヒーは飲まないのは知ってるでしょ?」

「紅茶は?」

「今日はココアな気分なの。」

「ふうん、私にも頂戴。」

そう言って私からカップをぶん取って、飲む。

私はいつもの事に何も言わない、多少呆れてはいるけれど。

「頼んできたら?」

「注文取りに来てくれるかな?」

ウェイターは男性二人、巡回している。

しかたなく私は一人を呼んだ。

奈央でもいいけど、目立つからしょうがない。

「コーヒーを一つ。」

注文を取りに来たウェイターに私は注文し、彼はチラッと奈央を見てまた伝票に目を落とす。

正体はばれたかもしれない、さすがに職業柄か騒ぎたてはしないので助かる。

「かしこまりました。」

にっこり、さわやかな笑顔で戻ってゆく。

少しイケメンで女の子にも人気があるようだった。

目で追っていてココアを飲もうとカップに目を落とすと奈央がじっと私を見ていた。

「なに?」

ドキリとする。

外で視線が合うことなんてあまりないから。

「静はああいうのがタイプ?」

薄ら笑いで言う、少し嫌な感じに。

「どうしてそういう話になるの?」

「目で追ってたから。」

「つい、見ちゃうでしょ? 見ちゃわない? 奈央だってかわいい女の子が居たら。」

私がそう言うと今度は奈央が眉をしかめた。

「なんで女の子なの?」

「好きなんでしょ、女の子。」

ココアを一口、砂糖があまり入っていないのでココアの風味と舌触りを楽しめる。

「怒ってる? もしかして・・・」

「どうして私が怒る必要があるの?」

嫌な感じに言ってきたことを怒っているのであって、彼女の”何か”に怒っているわけではなかった。

奈央は私が怒っている理由は後者ではないかと思っているようだった。

噛み合わない(苦笑)。

「う・・・」

私にそう言われて言葉を詰まらせる。

「奈央だって、見られる事あるでしょ? それは仕事での露出の問題もあるけどそれ以外でも何か人の目を引き寄せるものがあるのよ、その人に。」

「それは分かってる。」

「なら、私があのウェイターを見たくらいでそんな言い方して欲しくない。」

・・・喧嘩ではないけれど、こんな言い合いはままある。

それもほとんど奈央のヤキモチで。

「ごめん。」

彼女が謝る、悪いということは分かっているらしいのだけれどどうにも許せないらしい。

付き合ったら束縛するタイプだ。

「いいわ、許してあげる。」

それから私は鞄から包みを取り出して彼女に渡した。

「なに?」

「遅くなったけど、誕生日のプレゼント。」

「えっ、うれしいなあー」

顔をうれしそうにほころばせる。

すっかり忘れていたのか、予想以上のうれしがり方で。

「誕生日おめでとう、奈央。」

改めて言った、誕生日は1週間も前だったけど。

がさがさと包み紙を開けながら『ありがと』と応える。

子供がプレゼントを開けるように。

出てきたのは小型の電子辞書。

以前、欲しいと奈央が言っていたものとは違うけど機能はだいたい変わらない。

小型だからバックに入れてもかさばらないはず。

「あ、嬉しい。電子辞書は欲しかった。」

「ご希望のものじゃないけどね。」

「うん、ありがと静、愛してる!」

感極まって私の両手を握った。

すると頭上でガチャンと食器が当たる音がした。

目を向ければウェイターがコーヒーを持って来ていた。

表情は硬い、奈央の言葉を聞いたかららしい。

「お、お待たせしました、コーヒーです。」

「ありがとう。」

私は奈央の手を軽く払ってコーヒーを受け取った。

「誤解する人がいるから、そういう事は言わないのよ。」

いつものことなので私は慌てない、こんな事は日常茶飯事で行く先々いろいろな人の反応が見られた。

奈央は無頓着で、何も考えずにものを言う。

それが彼女の純粋さといえば、聞こえはいいのだけれど少し自分の言葉の大きさとか考えられるようになったらいいのにと思ってはいる。

でも、それは彼女の努力することなので私ができるのはたしなめる程度だけだった。

「ほんとだよ、嘘じゃない。」

テーブルに置いた私の手を握る。

「はいはい。」

「・・・ちゃんと聞いてよ、静。」

握る手に力が込められた。

視線が絡む。

「聞いてるわ。」

「愛してる。」

一つ向こうのテーブルの様子が変わったのが分かった。

女性3人いたけれどざわついている、奈央の言葉が聞こえたらしい。

奈央の正体もバレているにちがいない、私はため息をついた。

「奈央、自分の発言には注意して。」

「嘘はついてない。」

私の忠告は受け付けられなかった。

まっすぐで、正直なのはいいけど世間体というものがある。

こんなカフェで女の子同士で居て、片方が愛してるって言っているシチュェーションは・・・

モデル篠原奈央に業界でも有名な噂があった。

いや、もう噂とは言わない。

本人も認めているから。

「それを言葉に出すのは、間違ったことなの?」

真剣な表情で言う、さっきまでの軽い態度とは正反対。

「時と場合があるということよ。」

たしなめる、私だって奈央のことは・・・。

「ごめん、静のこと困らせた。」

私の困惑を察したのか、スッと私の手から奈央の手が離れ、彼女はゆっくりとコーヒーを飲んだ。

私たちの間に気まずい雰囲気が流れたまま、その日は終わってしまった。




その日、私は会社の送別会で帰宅が遅くなってしまった。

2次会までは参加したけど、さすがに3次会までは参加できない。

しかし、男性社員たちは少し強引に誘うので断るのが大変で今の今まで帰れずにいたのだった。

マンションの廊下まで来て、ため息をつく。

それは安堵なのか、疲労によるものなのか考えるのも面倒くさい。


早くお風呂に入って、寝たいわ。


正直な感想だった。

すると玄関の扉の前にうずくまっている物に目がいった。


不審者? 不審物?


警戒して私は近づく、するとそれはもぞっと動いて顔を上げた。


「奈央・・・」


驚いたことにそこにうずくまっていたのは奈央だった。

来るとも、連絡を私はもらっていない。

「あ、静・・・お帰り。」

「お帰りじゃないわ、どうしたの?」

真冬じゃないとはいえ、コートは着ているようだけどさすがに寒いはず。

「近くで仕事だったから、寄ってみた。」

「電話をくれなかったの?」

連絡をくれたら、もっと早く帰ってきたのに。

「携帯、忘れちゃって・・・。」

ズズッと鼻をすする。

「ちょっと、風邪ひかないで頂戴。」

私は鍵を開けて奈央を部屋に入れた。

「いつからいたのよ、まったく。」

部屋にはいると急いでエアコンをつけ、お湯を沸かす。

ソファーに座らせた。

「ごめんー」

「ほんとに大丈夫?」

おでこに手を当てて熱がないか調べた。

熱は無いようである。

「明日は仕事?」

「ううん、オフ。だから来た。」

「だからって、なにもあんな寒い中居なくてもいいでしょ?もう。」

「静に会いたかったんだもん。」

私を見上げて言う、甘えているようにも見える。

流れで奈央に腰を抱き寄せられた。

「たばこのにおいがする・・・」

「今日は会社の送別会だったの、男の人たちが吸うたばこの臭いがついてしまったのね。」

「お酒、注いだの?」

「もちろん、仕事のひとつだって割り切ってるわ。」

「笑顔で?」

私を見る、その表情に嫉妬が混じっているのを感じた。

「作り笑顔よ、わかってるでしょ?」

私は笑っていた。

笑顔じゃないけれど、お酒を注いであげた時には見せない彼女だけに見せる笑い。

「役得かな、私の。」

そう言って私のコートに顔を埋める。

「そうよ、奈央だけのものよ。」

私は奈央の髪を優しく撫でた。




火照った身体はなかなか冷めない、熱く燃えた身体と熱気を帯びた部屋も。

私は奈央の身体に密着して寝ていた。

熱いはずなのに、身体を離すことができない。

彼女の腕は私の身体を抱え、足は私の足に絡み付いている。

唇が触れ合い、キスをした。

あんなに激しく求め合ったのにまだキスをしてしまう。

「静」

耳に心地いい。

「なに?」

「今度ね、パリに仕事行く。」

「へえ、パリね。いいわね。」

私は奈央を見た。

モデルって色々な場所に行けるからいいわねと、以前言ったことを思い出した。

うらやましいとは思っているけど、自分ができるとは思っていない。

ああいうものは才能なのだと思っていた。

「お土産、何がいい?」

「別にいいのに、いらないわ。」

「香水とか、小物とか欲しいって言わないの?」

誰かにもそう言われるのか、私にもねだって欲しいのか。

せっかくの申し出なので希望を言う。

「メールを頂戴、画像つきの。」

私がそう言うと不思議そうに見る。

「そんなのでいいの?」

「私の希望よ、他にはいらないわ。」

腕を奈央の身体に回し、さらに身体を密着させた。

「・・・そんな欲のない静が好きだよ。」

「ほんとに欲しい物はないのよ、欲しい物は自分で買えるから。海外にだって行けるけど、行かないだけ。」

「出不精だもんね、静。」

くすくすと笑う奈央。

「パリからの写メ、もちろん奈央が写ってるやつね。」

「了解、アリバイには使わないよ。」

「別に、浮気はオッケーよ。気にしないわ。」

男女問わず人気があるのは分かっている、特に女子に人気が高いのも。

奈央自身、かわいい女の子は好きだから寄ってきても拒まない。

声をかけるのは本人は興味を持った時だけなのだけれど、かけられた人は勘違いをしてしまうくらいの雰囲気があった。

「浮気承認って・・・なんか、私は静に想われてないような気がする。」

「私は束縛したくないのよ。」

「私はして欲しい、自分だけのものって。」

束縛するタイプは束縛して欲しいものなのだろうか。

性格的なものなのだと思う、本当に自分だけのものにしたいとは思わないのだ。

「意見が合わないわね、お互い。」

苦笑してみる。

「・・・だからって、別れるって思わないよね?」

不安そうに首を下げて私を見た。

本当に不安そうだったから笑ってしまった。

そんなに危機感を覚えることなのか、と思ってしまう。

「そんな事で別れるって言ってたら、とっくに別れているわ。」

人のココアを飲んだり、公の場で告白したり。

「とっくにって・・・そう思ったことあるわけ?」

「別れようと思ったことはないけど・・・呆れたことは何度も。」

「うーーー」

うなる。

本人には予想外だったらしい(笑)。

「今後は、注意する。」

「止めた方がいいわ、自分らしさを無くしてしまうから。」

「でもさ、呆れたんでしょ?」

「呆れただけよ、言ったと思うけど別れようとは思ったことはないって。」

どくどく、と奈央の心臓の鼓動の動きが早くなったような気がする。

ホントに、びっくりしているんだわ。

「ホントに?」

「しつこい、別れようと思っていたら今ここに居るわけないでしょう?」

私は腕を抜いて、奈央のおでこを弾いた。

「痛ッ」

痛みに全身の筋肉を緩めた奈央をベッドに仰向けにして、私はその上に身体を重ねた。

「私も、奈央のことは好きよ。」

「静。」

おでをこを押さえながら痛みに耐えて、私を見る。

「・・・私は愛してる。」

「愛してると、好きってどうちがうのかしらね。」

奈央を見ながら両手を絡めた。

「静は私のこと、愛してくれていないの?」

「愛してるって言葉より、好きって言葉の方が好きかしら私は、でも愛していない訳じゃないわ。」

「静の・・・言い回しって難しい。」

「想いは奈央と同じと、いうことは分かってくれるわね?」

「うん。」

絡めた指を動かすと奈央も私に応えてくれる。

「また、する?」

奈央は笑って言った。

「しないわ。ホントは家に帰ったらお風呂に入って寝たかったのよ、奈央が来たから寝るタイミングを逃したの。」

「ごめん、静。」

そう言いながら、悪く思っていないような表情。

まあ、いいわ。

帰って来てからの眠気は吹き飛んでしまったけど、普通に眠い。

彼女の上に乗ったのはただ、言いたかっただけ。

手を離し、ゆっくり動いてとなりに身体を並べた。

「やっぱり来て良かった。」

「何かあったの?」

「・・・色々と。」

そう言ったきり、なにも言わない。

グチを言われても聞いていられないので、深くは追求しなかった。

「そ、奈央がうちに来て気を楽にできるならいいわ。」

「うん、静と話すと落ち着く・・・それに触れられると嬉しい。」

「色々とストレスがたまる職業だものね、仕方がないわ。」

「OLだってストレス溜まりまくりじゃん?」

「それは会社で解消しているからよ、秘密理に。」

仕返しを密かにしているのだ、内容はとても言えないけど(笑)。

「それは・・・怖いなあ。」

あふ・・・私はあくびをした。

そろそろ本格的に眠い。

「悪いけど寝るわ、奈央。」

「年寄りは仕方ないね。」

「・・・・・」

ボスッ。

軽くだけど拳をお腹に入れてやった。

「い、たー・・・暴力反対。」

「2つしか違わないでしょ、誰が年寄りなのよ。」

本気で怒ったわけじゃないけど私は背を向けた。

「ごめん。」

答えてやらない。

「ごめんって、静。」

情けない声で謝ってくる、これがあの人気モデルかと思うほどに。

「軽口叩いてごめんなさい、お姉さま。」

ぞわっと、なる。

さすがに、奈央に言われると微妙だった。

女子校出身で、そう言われることに慣れた私でも奈央に言われると鳥肌が立つ。

それにまた抱きついて来て、耳元で囁くものだから・・・。

「奈央、そのお姉さまは止めて。」

抱きつくのと囁くのはよしとする、寝るのになにも問題はない。

「さっきの失言はNGなんでしょ? 2つ年上なんだからお姉さまでいいんじゃない。」

意地悪のつもりで言ってるのか、天然で本気で言ってるのか。

「奈央に言われると鳥肌が立つのよ。」

「そんなにイヤだった?」

「イメージが伴わないからよ、普通に呼んで欲しいだけ。」

「呼んでみたかったんだけど・・・」

背後でしょんぼりする様子が分かった。

「もう寝るわ、私。」

「静ー」

まだ眠くないのか、私にかまって欲しいのか。

私はもう眠い、奈央の相手はできないくらいに。

「じゃ、おやすみー静。」

返事がないのでかまってもらうのはあきらめたのか、奈央はそう言って私の肩に口づけて静かになった。



休日の私の朝は早い。

平日は忙しくて家のことは滅多にできないから休日にできないことをやる。

幸い今日はいい天気だった。

でも、ベッドにはまだ奈央が寝ているので私は布団を干すことは後回しにし、掃除をしている。

あと洗濯も同時に。

気分転換になるからどちらも私は好きだ、さくさく部屋を片づけつつ、洗濯物を干す。

風も気持ちがいいので鼻歌など歌ってしまう。

一人の時はたいがいこんな感じである。

まあ、複数で居ることは滅多にないけれど(笑)。

~~♪

洗濯物、最後の一枚を干し終わってさて次にと、いう時に私は抱きしめられた。

犯人は一人しかいない。

「・・・奈央、驚かさないで。」

「そんなに驚いていないみたいだけど?」

がっしり後ろから抱きついた奈央は言う。

「驚いているわ、ただ顔に出ないだけ。」

本当に、声に出せないくらいに驚いている。

ただ、感情をあまり表に表すのは得意ではなかった。

「早いね、もう終わり?」

「奈央が起きてくるのが遅いのよ、もうお昼。」

「そういえばお腹空いたー」

子供のようにねだる、いつものことだ。

うちにご飯を食べに来ているような感じもある。

「うどんでもいい?」

「なんでも。静が作るものなら何でも食べるよ。」

私から離れる。

まだYシャツを羽織っているだけだった。

「その前に着替えて、誰に見られているか分からないのよ。」

「覗かれてるの? ここ。」

笑って取り合わない。

そして、私の腰に腕を回してキスをする。

ここら辺はお互いの意志の疎通みたいなものがあって私はそのままにさせた。

奈央とのキスは好きだ。

スマートで。

お互い納得するまでキスをして、私たちは唇を離した。

「朝から静と一緒だと嬉しい、キスも気がねなくできて。」

さわやかに笑う。

寝起きのくせに、整っているからさわやかさを増す。

嬉しい反面、ちょっと憎らしい(笑)。

「着替えてから言ったら? かっこついてないわ。」

つい、突き放してしまう。

「はいはい、分かりました。うどん、ちゃんと作ってよ?」

「作ります、ちゃんと。」

奈央はまた、軽く私の頬にキスをして着替えに行った。

私はため息をつく。

余裕のあるように見えて実は私の方が余裕がない。

キスにドキドキしているのは私、奈央は分かっているのだろうか。

一緒に居られて嬉しいのは私の方かもしれない。

独り知られないように笑って私も部屋の中に入っていった。


昼食を奈央に食べさせて私は本を読む。

午前中にすることはしたので午後からは私の時間だった。

奈央は携帯を片手になにやらやっている、私の膝の上に頭を乗せて。

「パリに行く時は天気がヤバいみたい。」

「そう。」

相づちを打つのみ。

「ルーブルで撮影あるんだ、すごいでしょ?」

「水着?」

「なんで水着なの? 美術館で・・・変態じゃん。」

「モデルといえば水着というイメージ。」

「それはグラビアモデルだよ、私と全然違う。」

口を尖らせて反論する。

「同じモデルのくくりじゃないの。」

「これだからシロートは。」

読んでいる本は佳境、これから面白くなるところだった・・・のに、奈央は読んでいる本を私から引き離した。

「奈央、私は本を読んでいるのよ?」

私は奈央に抗議する。

「知ってる、見れば分かる。」

「じゃあ、邪魔しないで。」

本を再び読もうとした。

「せっかく、一緒に居るのに。」

起きあがって奈央は言った。

「どうしたいの?奈央は。」

つい直前まで、私の腿の上に頭を置いていたのに。

触れあっているのにそれでも不満が出る。

「Hしたい。」

間髪入れずに言う。

しかも、はっきり。

臆面もなく。

あまりにはっきり言うものだから、私が理解するのに時間がかかってしまった。

理解して私ができた反応は、苦笑することだった。

奈央はその反応は気に入らなかったようで、ぷうと膨れる。

「昨晩、したでしょ?」

私は仕方なく本をテーブルに置いた。

「・・・足りない、あんなのじゃ。」

では、どの程度なら満足するのか。

男の人ならともかく、奈央に言われると微妙。

「そんなにしてると、バカになるわ。」

「ちゃかさないでよ。」

「ちゃかしてない、それ以上は私には苦痛だわ。」

あの時は、そういう気分だったけれど今は違う。

触れあっているくらいが丁度いい。

「苦痛・・・なの?」

「奈央がイヤだってわけじゃないのよ、ただ今はそういう気分じゃないというだけ。今みたいにまったりしているのは嫌なの?」

「イヤじゃないけど・・・」

「程々の距離間は必要だわ、長く付き合うなら。」

「静と?」

「そう、他の人はどうかわからないけど。」

強引に押し倒されたらどうか分からない、流されてしまったかもしれない。

でも、聞かれたから答えた。

すると奈央が思いがけない行動をした、私は驚いて身を乗り出したくらいだった。

彼女の目から涙が流れていた。

「奈央。」

「ごめん・・・なんか、出てきたー・・」

裾でごしごしと拭う。

それでもあとから溢れてくるようだった。

何かあったのは昨晩分かった、内容は分からないけれどそのあとの態度から吹っ切れたかと思ったのは間違いだったらしい。

「大丈夫?」

「なんとか・・・」

ズズッと鼻をすする。

「なにか不安でもあるの?」

私は聞いてみた。

こんなに私に関わりたがる奈央は初めてだったから。

いつもは次の日に引きずったりしない。

「別にない。」

「ほんとに?」

私は瞳の奥を覗いた。

奈央はすぐに外してしまう、私の考えは合っているようだ。

「ないよ、ほんとに。」

くるっと体勢を変え、ソファーの反対に丸まってしまう。

拒否されて拗ねているのか、不意に溢れ出た涙を見られるのがイヤなのか。

ため息をついた。

こんなことで部屋の空気が悪くなるのはよくない。

かといって、その気もないのに奈央の希望をきいてあげるわけにはいかなかった。

「奈央。」

背中に手を当てた。

「ほっといて。」

「いいの?」

私は声色を変える。

びくっと奈央の背中が動くのが分かった。

それも作戦のうち。

「ほんとにほっとくわよ? 無視されるのって気分良くないんだから。ま、本人がいいって言うんだからいいのよね。」

そう言って私は立ち上がる。

するとそっぽを向いていた奈央がガバッと向き直った。

勢いよく。

よほど私に突き放されたのがイヤだったのか。

その顔は思わず笑ってしまうほど真剣だった。

うつむいて両腕で私の腕をつかむ。

「ほっといていいんでしょ?」

「・・・意地悪なんだから・・・」

分かってるじゃない、私の作戦。

「相談に乗るって言ってるのよ。」

「自分で解決できるから、大丈夫。」

まだ頭は上げない。

「ひとりで抱え込まないで、奈央。私が居るのはなんのため? キスやHをしたいだけの存在なの?」

「ちがう。」

やっと顔を上げる。

私はしがみつく手に触れた。

「静は私の大切なひとだよ、なによりも愛してる。」

「・・・知っているわ。」

いつも言ってくれるけど、言葉にしなくても十分に伝わっている。

「私には自信があった・・・」

「自信?」

「この先、静と一緒にいい関係のまま過ごしていけるってー」

その一言で奈央の不安が分かったような気がした。

私は奈央のことは隠しているけれど、奈央は世間にカミングアウトしている。

最近は市民権を得て少し理解が広がったけれどまだ、差別されたりいいように思われないことが多かった。

「誰かに何か言われたの?」

首を振る奈央。

「中傷は慣れてる、でも身内から拒否されるのはつらい・・・」

親が、自分の娘が・・・私と交際することに反対するのは当然といえば当然。

私の両親も奈央と付き合っていると告げれば同じ反応をすると思う。

けれど、両親がなんと言おうと私の人生は私が決めると思っていた。

「籍抜くとか?」

「それは無いけど、敷居をまたぐなとは言われちゃった。」

「常套句ね、それは。」

私は彼女の腕に触れながら膝を床に付き、見る。

「私も、奈央のことを愛してる。普段は好きとしか言わないけど心から・・・だからあきらめないで。」

「静の事も悪く言っていたから、悲かった。」

「私は気にしないわ、意外と図太いのよ。」

「私のこと、嫌いにならない?」

「どうしてそう思うの? 今、愛してるって言ったばかりでしょ?」

「・・・だって、私は女だし、男の人と比べると不利だし・・・それに静はノンケだし・・・」

いきなり、がっくり落ち込んでるわね。

自信の固まりのような奈央なのに(苦笑)。

「・・・いつまでもメソメソしてると、ほんとに見限るわよ?」

強い口調で言った。

「ううっ」

「私のこと、信じられない? 他の男の人になびくと思ってるの?」

奈央とつき合ってからそんなことは一度もなかった。

告白された時は驚いて、答えに窮したけど、考えて彼女のことを考えて、自分の気持ちを考えてつき合うことにしたのに。

それから傾斜するように好きになって今に至るというのに・・・本人は自分がどれだけ好かれているのか分かっていないのだろうか。

それとも私の愛情表現がへたなせいで気づかないのか。

「ごめん・・・でも、いつも不安だった。静が男の人の所に行くんじゃないかって。」

手が震えている。

「行くわけないじゃない、どうしてそう思うかな・・・私は奈央が好きなのよ、なのにどうして他に行くと思う?」

「静・・・」

私は顔を近づけ、キスをした。

軽く触れて離れる。

「こんなに落ち着いて静にキスができる相手は、奈央だけよ。」

「~~~~~」

奈央は目をつぶって身体を震わせた。

「だから、不安なんて感じる事はないのよ。」

そう言うとふわりと私は抱きつかれた。

「ありがとう、静ー」

服でこもっているけれどちゃんと聞こえる。

しばらく奈央は泣いていたので、私は背中を抱えながら泣きやむのを待った。




オーラをまとう人はいくら変装しても無駄だということを知らなければならない。

けれど、そのまま、自のままの姿をさらすのも周りに迷惑をかけることがあるのでやはり変装は必要なのかもしれなかった。

「今日はいい天気だよね、散歩日和。」

奈央は気温と陽気と同調するようにテンションが上がったように話しかけてくる。

帽子とGパンにシャツ、そんな普通の軽装なのに奈央はやはり歩く人の目を引いた。

向けられた視線の先に私もいるのだけれどもう、慣れた。

手をつないで堂々と海辺の公園を二人で歩く。

「今日は布団を干そうと思ったのに。」

私はグチる。

デートも楽しいけれど、休日はすることが多い。

「楽しいデートの最中なのに、布団の話?」

「こんないい天気に布団を干すとふかふかなのよ? 寝る時気持ちがいいのに。」

私はまだ諦めきれなかった。

奈央は苦笑してつないでいる私の手を持ち上げ、手の甲に口付けした。

とっさの出来事だったけれど、周りにいた人たちの視線が突き刺さる。

好奇とうらやましさと軽い嫉妬。

「奈央ー」

「今日も一緒に寝てあげるよ、それなら気持ちがいいでしょ?」

「暑苦しい。」

私は腕を振り払って歩く。

「あ」

怒ったわけじゃないけれど、言い方が気にくわない。

気障すぎるのに、似合いすぎて嫌じゃなかったから。

私のわがままなのは分かっているけれど、素直になれない。

あのやりとりのあと奈央はふっきれたのか、いつもの奈央に戻った。

戻ったというよりさらに羽振りが良くなった気がする。

認めるのは嫌だったけれど、以前よりカッコ良くなった。

「待ってよ、静。」

振り払った手をまた取って繋いでくる。

私は振り払わない。

「今日も静を独り占めできるから嬉しい。」

手と身体を引き寄せられた。

「キスしてもいい?」

「ダメ。」

手の甲だけでもアレなのに。

「そこら辺のカップル、みんなしてるよ。」

「他は他、自分は自分よ。」

「静は堅いなあ、もっと柔和になろうよ。」

さすがに人目の多い場所でのキスは私の理性が許さない。

ただ歩くだけ、風が気持ちいい。

どうしてこんな風に自然に身を任せられないのかしら。

遠くの船舶に目をやる、水面がキラキラと煌めいて眩しかった。

反射した光がまぶしくて立ち止まってしまう。

「チャンスー!」

チャンス?

私が思うが早いか、奈央は私の唇を奪った。

これまたとっさのことで動けない、そのまま近くの手すりに身体を追い込まれた。

身体を逃げられないように固定され、キスをされる。

奈央には珍しく、強引に私にキスをしてきた。

拒否しようにも素早く入ってきた舌が私を絡めとる、奈央は形振り構わなかった。

 もう・・・

私は途中で抵抗を諦めた。

抵抗がなんの意味もないことと、キスにハマってしまったからだった。

周りのことはもう、気にならなくなる。

あんなに理性が許さないって思っていたのに・・・

実際、奈央のキスは魔法のようなものだった。

本当にそういうことを帳消しにしてしまうくらい、威力がある(苦笑)。

「・・・っ」

ため息混じりの吐息が漏れる。

私のもの。

見上げた奈央は満足そうに笑っていた。

「嫌だって言ったのに。」

唇は離してくれても密着した身体は離してくれない。

「その割には、随分長くキスに応じてくれた。」

「離してくれなかったんじゃない・・・」

また顔が近づく、私は用心した。

「だって、キスしたかったから。」

「人前でも? 私は嫌だったのに。」

「静は私のものだって、言いたかったんだよ。それに静が綺麗で我慢できなかった。」

「・・・・・・」

なにも言えなくなる、特に最後のセリフには。

臆面もなく言ってしまえる奈央が恐ろしい。

もう”降参”するしかない。

「バカ。」

軽くパンチをお見舞いする。

「痛いなぁ」

「そんなに強くしてないでしょ? 大げさよ。」

「お、外国の客船だ。すごい大きいなー」

奈央は航行する旅客船を指さした。

指先には白亜の豪華な客船が浮かんでいる。


私たちはそのまま手すりに身体をもたらせながら夕暮れまで話し、長い時間を過ごした。

この心地よい関係がずっと続けばいいと私は思うのだった。

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