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恋愛短編集

桃色の口紅

作者: 赤良狐 詠

 シーリングファンが取り付いた木製の天井

 店内に立ち込めるコーヒー豆を焦がした香ばしい匂い

 ブラインド越しからすり抜ける幾つもの光の線

 甘美と落ち着きを取り持つ雰囲気のビックジャズバンドの軽やかで清々しい協奏


 深い芳香が絡まった白く立ち上る湯気

 茶褐色のコーヒーの中で乳白色がゆっくりと螺旋を描く


 それが私には

 巡り巡る命の繋がりのように見え

 それを見つめる私は言わば神様だと鼻で笑う


 天上から全ての輪廻を垣間見、吟味する神様のように

 ゆっくりと唇にカップの縁を付け

 それを味わった


 私は全てを飲み干して

 深い悲しみにくれた哀れな坊やに微笑みながら


「さよなら」


 っと口にして立ち上がった


 彼は私を目で追いながら後についてくることなく

 空っぽになったカップに付いた淡い桃色の口紅の跡に焦がれながら肩を落とした


 さようなら未熟な坊や

 もし壊れても

 何も感じなくなったとしても

 長く焙煎して深みを増し

 苦い思いをしたら

 またいらっしゃい


 その時はどれほど苦くても

 ゆっくりと舌で味わいながら

 全てを飲み干してあげる

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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは。お休み中ですが。入江です。 作品を以前に読ませていただきました。 とても女性ならではの怖さがじわじわと出ていました。 予想を良い意味で裏切った詩といえます。 それでは。
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