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93.ランクアップ試験【1】③

 結果から言うと、アーロンとジェラルドの2名はアッシュが期待からは大きく外れていた。


 まずアーロンは、大剣を振る速度やシャリィからの攻撃の捌き方などは確実にアッシュよりは上であった。


 しかし、模擬戦をやったとしても場合によっては勝てるかもしれないとアッシュが感じる程にブラフが少なく、狙いに対して真っ直ぐに振り過ぎていたのである。


 それを見越したシャリィが前に出ながら双剣で受ける動作を見せたところ、それに対して力んでしまったようで、即座に回避に切り替えられてつんのめった挙げ句に脚を掛けられて転倒したのである。


「単純な実力不足だ! Eランクからやり直すか!?」


 とシャリィにどやされ、アーロンは落ち込んだ様子を見せていた。


 一方のジェラルドは扱いが難しいフレイルを上手く操ってテンポよく攻撃していたが、シャリィが突然前に突出して鎖の途中を双剣で叩いた結果、鉄球の軌道が変わって自身に直撃してしまい、敢え無くリタイアとなった。


 フレイルはこのような事故が起こり得るために特殊仕様武器に指定されており、このような場合の対策は認定を得るための試験でも絶対に押さえなくてはいけない基本中の基本である。


 シャリィもまさかその基本を忘れているとは思っていなかったようで、少し慌てた様子を見せていたが、いずれにせよ不合格であることは間違いなかった。


 そしていよいよレイの番である。


「では最後にレイ!」


「……ん」


 レイはいつもの返事をしてからシャリィの前に歩み出ると、太刀の鞘を左手に持って姿勢を低く構える。


「……ほぉ」


 シャリィの口からも思わず声が漏れる。始まる前の殺気という点では、レイはベレにも劣らない程に鋭い。


 前の2名の時は手にした双剣を構えることは無かったシャリィが、初めてその構えを見せる。


「……」


「——!」


 レイの太刀が鞘から放たれ、双剣とぶつかり甲高い金属音が響く。


「!」


 双剣を持つシャリィの腕が少し押し込まれている。だが逆にレイの抜刀を正面から受けても、それだけで済んでいるとも言える。


 シャリィは嬉しそうに口角を上げて笑うと、身体を捻りながら左手を振るう。レイは即座に身を引いてそれを避けると、勢いよく突進して斬り付ける。


 それを今度は緩く受けながら、シャリィは後方に跳躍する。しかしそれが悪手であることを、アッシュはこの中で誰よりも知っていた。


 レイはシャリィにピタリと寄せて、太刀を逆袈裟に振る。


「っっ!!」


 後方への跳躍中に距離を詰められたのは予想外だったのか、シャリィの驚きの表情を見せる。


 とは言えアッシュのように弾き飛ばされることは無く、即座に右の剣で防御しながら左の剣で攻撃を仕掛ける。その動きがアイリと同じものであることに、アッシュは気付いた。


 レイは再び後方へと下がる。その動きに一瞬シャリィが怪訝そうな顔を見せるが、また突進してきたレイの攻撃を受けようと構えた時には、既にその表情は消えていた。


 一手前と同じく逆袈裟で来たレイに、シャリィは反射的にそちらに双剣を構える。それに対してレイはシャリィの少し手前で半歩分程度の間を作りながら、太刀を右肩越しに身体に引き寄せて鋭い突きを放った。


「!!」


 だがシャリィはそれを首を傾けることで難なく避ける。レイは驚きながらも素早く太刀を振り下ろしつつ身を引く。


「待て。もう十分だ」


 更に斬り込もうとしたレイに、シャリィがストップを掛ける。


「これは行けたんじゃない?」


「だよね。シャリィさん相手に全く引いてなかったし」


「……いや、ダメだな」


 レイの合格を確信していたアッシュとレイに対して、バッカスはそれを否定する。


「え、なんでよ」


「お前らに言ってもいいが、それをあいつ隠し切れるとは思えねえ。まあ見てろ」


 そう言われてアッシュとアイリは視線を戻す。シャリィは考えるように口元に手を当ててレイを見ていたが、やがてその口を開いた。


「あらゆる面において秀でた実力を持っているな。野生動物相手ではそうもいかない場面もあるかもしれないが、武器を持つ者同士の戦闘においては既にAランクの半ば程だ。お前くらいの年齢のヒト族でこれだけの者がいたということに、正直驚かされる」


 率直なシャリィの褒め言葉に、バッカスが一体何を持ってそのように言ったのかはわからなかったが、アッシュはやはり合格だろうと感じる。しかしその後に聞こえてきた言葉に、アッシュは耳を疑うことになる。


「だが……お前には決定的に”足りないもの”がある。そしてそれはAランクを与える上では、無くてはならないものだ。故に……心苦しいが、今回は不合格とする」


「!!」


 バッカスの言った通り本当に不合格となってしまったことに、アッシュとアイリはただ驚くことしか出来なかった。


「やっぱな。実力は抜群なんだが、”あれ”が癖……ってレベルじゃねーな。本当に修正出来るのか疑問になるくらいには、身体に染み付いたものだな」


 アッシュの肩に載っていたミニバッカスが何かを呟いていたが、それすらもアッシュの耳には届かなかった。


「……」


 レイは無言でシャリィに頭を下げると、そのまま真っ直ぐにアッシュとアイリの方へと戻ってきた。


「……」


「と、とりあえずお疲れ様。結果は残念だったけど……」


 レイは黙ったままアッシュとアイリを見つめ、少し間を置いて口を開く。


「……ん。落ちた。……”足りないもの”を見つけたいから、先に帰ってていい?」


「……うん。いい……よ」


「……」


 アイリも無言で頷く。


「……ありがとう」


 そう言ってレイは、ベースの部屋へと戻って行った。


 そのレイと代わるように、部屋からまた見慣れた姿が現れる。昨日もアッシュ達の拠点に来ていたリザード種のウェルドである。


「今回はちょうどよい例が無かったが、Aランクに求められるのが実力ばかりでは無いことは理解できただろう。だがギルドが求めているのは、レンジャーとして経験を積んで行けばいずれ掴めるものだけだ。それを肝に銘じて今回の勉強とするように! 以上だ!」


「……つーわけで、次はBランクの試験だ。試験官は俺がやる。基本的にはAランクの時と同じだ。俺がBランクに相応しいと認めりゃ合格。そうでなきゃ不合格。ま、せいぜい頑張れや」


 シャリィがAランク試験の終了代わりのまとめを行い、それを引き継ぐようにウェルドが言う。全く想像していなかったが、ウェルドもBランクの試験官が出来る程度には実力があったようだ。

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