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78.キアラ加入

 変換機を出たアッシュ達は、ニーナに依頼の顛末を説明をする。ニーナは最初こそいつも通りに聞いていたが、後半にかけて目を白黒させていた。


「えー、つまり。フォルネウス様に気に入られて、ベルフェゴール様との間のご息女をチームで預かることになった……ということでよろしいですか?」


「だいたいそんな感じです。荷物をまとめてから渡航船で来ると言っていたので、後もう数時間で来ると思います。着いたら連絡をしてもらうことにしてるので、そしたら手続きをさせてください」


「承知しました。試験は問題ないかと思いますので、それまで使用出来る臨時のカードキーを発行しますね。……それにしても大手柄ですね。まさかフォルネウス様に気に入られるとは思いもしませんでした」


 アッシュ自身は話していても気難しい相手とは感じなかったが、依頼の内容が良かったからではあるのだろう。


「案件が良かったというのもあったと思います。普段と同じような依頼だったら、ここまでよく出来たとは思えませんし。……これから指名依頼も増えますかね」


「ミシケからの依頼はあまり数は多くないですが、D8は支配構造が特殊なので、増えるかもしれませんね」


 たしかにD8は支配魔将がベルフェゴールの妻という非常に強い繋がりがある。であればミシケからで無くてもD8の他の地域から指名の依頼が来る可能性もあるだろう。


「では報告ありがとうございました。今回は特殊依頼のため、報酬は後日支払いとなります。続けて依頼の受注は……されませんね」


「そうですね。キアラを待ちます」


「お気をつけて」


 アッシュ達は受付を後にして拠点へと戻った。


***


 日が沈みかけた頃になって、ようやくキアラから連絡が入る。アッシュは3人を呼んでギルド窓口へと向かう。


 キアラは窓口の手前に立っていた。レースの付いた黒いワンピースに白い大きな帽子とサングラス、どこかの有名人のお忍びモードのような装いである。


 フォルネウスと同じく法術で変えているためか、髪の先端も蛇になっていない。


 もっとも、地面に着きそうなほどの長さのツインテールというのはそう滅多にいるものでも無いので、アッシュはすぐにキアラであることがわかった。


「お待たせ」


「3分待ったわ」


 キアラがサングラスを外しながら、少し意地悪そうに笑う。


「服変わってるー」


「お母様が『D2に行くならまともな格好していけ!』て言うのよ。あれの何がまともじゃないのかよくわからないのだけど」


 たしかにあの服は目の遣り場に困るというものだ。D8で許している理由はわからないが、フォルネウスは良識があるようでよかったとアッシュは考える。


 アッシュ達はキアラと共に窓口に入り、ニーナのいる受付へと向かう。


「そちらがキアラさんですね。カード等の準備はできていますよ」


「あら? あなたもしかして、血染……」


「わーっ!!」


 キアラの言葉を遮るように突然ニーナが声を上げたため、アッシュは驚いてニーナの方を見る。ニーナの頭頂部からは普段隠している狐の耳が出ているため、余程焦ることがあったのだろう。


「そっちの名前はアッシュさん達には秘密です。調べると色々と出てきてしまうので」


 ニーナはキアラに手招きして耳元に囁く。アッシュには聞こえなかったが、キアラが言い掛けたことが知られたくないことであることは推測できたため、聞かないでおくことにした。


 —— パンデムにおける記録は、大抵は二つ名を用いて行われる。


 ニーナという名前で残っている記録は少ないが、”血染めの狐”という物騒な二つ名では、それを得た事件を含めて多く残ってしまっているのだ。


「ふーん、そうなの。じゃあ黙っておくわ」


 キアラが目を細めてニヤリと笑う。


「と、とりあえずですね。キアラさんには明日から2日間掛けて、レンジャー試験を受けていただきます。その間はアッシュさん達のチーム拠点で宿泊とのことなので、ポータルキーを貸出しいたします。レンジャーカードをお渡しする際にお引取りしますので、大切にお持ちください」


「大丈夫よ。端末に入れておいても使えるんでしょ?」


「はい、使えます」


 それを聞いてキアラはポータルキーを端末に入れる。


「さ、行くわよ。案内して。私D2に来るの初めてなの」


「はいはい。ニーナさん、ありがとうございました」


「はい。ではまた」


 アッシュはニーナに頭を下げてから、キアラを連れて窓口から出て行った。


 1階へと下りるエレベーターに乗りながらふとキアラを見ると、腕に小物用端末を2つ付けていることにアッシュは気付いた。


「あれ。キアラ、それ2つ持ってたんだ」


「これ? 荷物が多くなりそうだから買ってきたの。運び終わったらいらなくなるから、あげるわよ」


「そ、そうなんだ。なら誰かのが壊れた時のために取っておこうか」


 端末は随分と普及しているとは言え、決して安いものでも無い。レイの実家も話の端々から推測するに大きそうではあるが、やはりキアラは格が違うと痛感させられる。


 エレベーターを下りたアッシュ達は、左に曲がって拠点行きのポータルへと向かう。


「これが拠点行きのポータル。レンジャーカードと……」


「知ってるわ。カードに反応して起動するタイプでしょ」


 そう言ってキアラは何の迷いも無くポータルに入っていく。アッシュはここに来るまで見たことが無かったが、どうやらこのタイプも普及はしているらしい。


 ポータルからチーム拠点へと移動したキアラは、家へと続く一本道を歩きながら辺りを見回す。


「……何もないのね」


 真っ直ぐ行った先に家があり、その両脇に後数日で完成するサブメンバー用の宿泊施設が建てられているくらいだ。


 ウェルドに言われてとりあえず宿泊施設は建てたが、それ以降は特に理由はないが話すタイミングも無かったため、開発が進んでいないのだ。


 改めてキアラに言われると、少しは進めないといけない気にはなる。


「まだ手を付けたばかりだからね。まあポータルからエレーネク中心部にすぐ行けちゃうから、何かに困ることはほとんど無いよ」


「ふーん。ま、変に色々と置くよりは、エレーネクに頼るって方が賢いわね」


 キアラはそのまま家へと歩いていく。


「意外と大きいじゃない。中も……悪くはないわね」


「この中に20部屋と食堂とかが入ってるんだ」


 そう言ってアッシュは家の扉を開けて、キアラを中に入れる。


「空いてる部屋から、好きなのを選んでいいよ」


「じゃあとりあえず、私のラッキーナンバーの8と……」


「部屋は1つだけだよ」


 当然のように複数の部屋を選ぼうとしたキアラは、アッシュを見て目を瞬かせる。


「……はい? 20個の部屋があって、どれか1つ?」


「そうだよ」


「ちょっと、待ちなさい。1つ? そんな……」


 キアラは一番近い部屋に走って入っていく。


「あ、キアラ……。しょうがないな。みんなは食堂で待ってて」


「りょーかい」


 アッシュは3人に言ってからキアラの後を追い駆ける。キアラはその部屋のリビングに立って呆然としている。


「……嘘でしょ? これ、1つだけ?」


 キアラは顔を引きつらせて振り返る。


「これでもレンジャーの中では広い方だよ。Bランクのレイのおかげで僕達は建物付きでこの拠点を使わせてもらえてるし、サブメンバー用はこれよりもっと小さいか、複数人でこれより少し大きい部屋だったりするんだ」


 アッシュ自身はサブメンバー用も同じくらいでよいと思っているのだが、そこら辺は家賃も含めてギルドの規約で決まっているのだ。


「せ、せめてもう1つ部屋を……」


 キアラは蚊の鳴くような声で懇願してくる。


「ダメだよ。それとも……もう諦めちゃう?」


「くぅ……わかったわよ……」


 実際のところチームのメインメンバーというだけでこれだけの部屋を無料で使わせて貰えているというのは、ディーバ全体で見ても破格の扱いだ。キアラの基準がおかしいのは間違いない。


 フォルネウスからは甘やかさないようにと言われている以上、アッシュはまずはその辺りの感覚から身に付けてもらおうと考えていた。


「部屋は8番がいいって言ってたっけ。アイリの隣だね。そしたら鍵は渡しておくから、まずは食堂に集まろう。食事当番とか掃除当番とか色々あるんだから」


「ぐぬ……」


 キアラが呻き声を上げる。


「レンジャーとして活躍していけばどんどん報酬も良くなるし、Sランクレンジャーのチームは専属の料理人を雇ったりしてるらしいから。それまでは辛抱だね」


 それを聞いてキアラの表情が明るくなる。


「専属の料理人なら、私が今からでも!」


「フォルネウス様が許してくれるかな?」


「ぐぬぬぬぬ……」


 キアラは歯噛みして更に呻くが、それ以上の言葉は出ない。フォルネウスの性格をよく知っている分、アッシュ以上に要望が通らないことは理解しているのだろう。


「……絶対……絶対Sランクになってやるんだから……!」


 キアラが呟くように宣言する。


 フォルネウスを超えるというのは途方もない目的である。その前に目指すべき指標をキアラが持てたことに、アッシュは安心のようなものを覚えた。

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